「週刊新潮」に寄稿した書評です。
五木寛之『五木寛之傑作対談集Ⅰ』
平凡社 1980円
優れた聞き手による対談は時代を超えてスリリングだ。未知の本音や真性が露呈する。原体験の文章として戦後憲法を挙げるのは、若き日の村上春樹だ。「いつも混乱。混乱好きなの、あたし」と女優の太地喜和子。長嶋茂雄は「背景、あるいは相手の状況、すべてが集約されたものが直感」だと明かす。自分自身を「ほんとは弱い女の子なんですから」と説明する美空ひばりも実にチャーミングだ。
川崎賢子
『キネマと文人~『カリガリ博士』で読む日本近代文学』
国書刊行会 4400円
ドイツのサイレント映画『カリガリ博士』は、山あいの村で精神異常の医師とその患者が起こす連続殺人の物語だ。日本で初公開されたのは1921(大正10)年。この作品が当時の文士たちに与えた影響を探ったのが本書だ。佐藤春夫が映画に傾倒する素地の表れといえる小説「指紋」。映画に造詣の深い谷崎潤一郎による映画小説「肉塊」。さらに映画シナリオを書いていた芥川龍之介にも迫っていく。
(週刊新潮 2025.01.16号)