碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【書評した本】 『二重らせん 欲望と喧噪のメディア』

2020年02月10日 | 書評した本たち

 

 

週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。

 

中川一徳

『二重らせん 欲望と喧噪のメディア』

講談社 2640円

 

話題のドキュメンタリー映画、『さよならテレビ』の舞台は東海テレビ(フジテレビ系)の報道部だ。キャスター、派遣社員の若手記者、そして記者歴25年の外部スタッフの3人を軸に、テレビ局内部で何が起きているのかを伝えている。

報道は、「公共性」を標榜するテレビ局が存在意義を示すべき部署だ。しかし報道部長が訴えていたのは、ひたすら「視聴率を上げろ」だった。もちろん現場だけの判断ではないはずだが、この映画の中で経営陣にカメラが向けられることはなかった。

中川一徳は2005年の『メディアの支配者』で、フジサンケイグループを支配した鹿内信隆とその一族の軌跡を描いたが、本書はその続編にあたる。『さよならテレビ』の更に奥、いわば本丸に迫る一冊であり、活字の力を再認識させる問題作だ。

今回、主な対象となっているのはフジテレビとテレビ朝日である。それぞれの誕生から現在までを追いながら、メディアが生み出す「カネ」と「権力」に執着する人間たちの行いを徹底的に暴いていく。

両局に深く関わったのが旺文社の創業者、赤尾好夫だ。ラジオの文化放送を足掛かりにテレビにも食い込んでいく様子は、まさに「国盗り物語」。鹿内一族や赤尾一族にとってメディアは無限の「カネのなる木」だったが、そこに目をつけたのが村上ファンドやライブドアだ。

またテレビ朝日でも、ルパート・マードックやソフトバンクによる「乗っ取り騒動」が起きる。こちらも朝日新聞を巻き込んだ、長く不毛な消耗戦が続いた。誰が敵で誰が味方なのかは不明。はっきりしているのは、このマネーゲームのプレイヤーたちの頭の中に、制作現場の人々や視聴者など不在ということだ。

フジテレビ待望の「お台場カジノ」が見えてきた。テレビ朝日の経営陣も政権との親密度を増している。見る側のテレビへの「さよなら」の声は、もっと大きくなりそうだ。

(週刊新潮 2020年2月6日号)


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