碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

NHK朝ドラ「まれ」のカギを握る女優たち

2015年04月12日 | メディアでのコメント・論評



発売中の「サンデー毎日」最新号で、NHK朝ドラ「まれ」についてコメントしています。


NHK連ドラ「まれ」好発進
カギを握るのは
「土屋太鳳と田中裕子」の愛憎劇

NHKの新しい朝ドラ「まれ」が好調な滑り出しを見せている。初回の平均視聴率は関東地区で21.2 %。20%を超えたのは、2013年度前期の「あまちゃん」以来、5作連続だ。

好発進の要因の一つは、全体的に明るい作品づくりといわれている。「花子とアン」「マッサン」と前2作はいずれも戦前戦中から戦後を描き、どうしても歴史の影が背景にあった。

上智大文学部の碓井広義教授(メディア論)が指摘する。

「今作は現代劇ということもあり、いい意味で気軽な気持ちで毎朝見たくなるように作られています。笑いとツッコミがあり、コメディータッチになっているところがいい。夢が大嫌いな女の子・希という基本設定も『どういうこと?』と興味をひきます。今後の展開に期待が持てますね」


これからのカギを握るのは、2人の役者と見られている。

1人はもちろんヒロイン役の土屋太鳳(20)だ。実は土屋、NHKの秘蔵っ子といわれている。ドラマデビューは10年の大河ドラマ「龍馬伝」。翌年には朝ドラ「おひさま」に出演し、昨年の「花子とアン」ではヒロインの妹役を演じている。他にも「真夜中のパン屋さん」「今夜は心だけ抱いて」などNHKの作品に出続けているのだ。

今回はオーディションを勝ち抜いての抜擢だが、NHKの期待のほどがうかがえる。

「能年玲奈や橋本愛とも異なり、また今どきのアイドルタイプでもありません。テレビ東京の『鈴木先生』で初めて見たのですが、骨太で非常にうまい女優が出てきたなという印象を持ちました」(碓井教授)

父(大泉洋)の破産や夜逃げから、希が人生をどう切り開いていくのか。若いけれどもキャリア十分な土屋の、説得力ある演技が楽しみだ。

もう一方のキーマンとなるのは田中裕子(59)だ。「『ごちそうさん』のキムラ緑子や『マッサン』の泉ピン子のように、パンチ力のある“いびり役”として期待されています。夜逃げ同然で石川県の能登に引っ越してきた希一家に対し、早くも嫌味な言葉を投げかけるなど、演技派の田中は要注目でしょう」(テレビ誌ライター)

逆境からスタートした「まれ」。単なるサクセスストーリーではなく、味のあるスパイスとして田中の絡みがドラマの成否を握っているともいえそうだ。

残念なダメ親父とデキた娘。物語は“鉄板”だが、ヒロインと脇を固める役者たちのバランスがうまくいき、稀(まれ)な名作となるか。

ジャーナリスト・青柳雄介

(サンデー毎日 2015.04.19号)


<書評した本> 本田靖春 『現代家系論』ほか

2015年04月11日 | 書評した本たち



本田靖春さんの絶筆となった連載をまとめたのが、『我、拗ね者として生涯を閉ず』(講談社)でした。

闘病生活をしながら書いた自伝的ノンフィクション。

こうして見ると、すごい書名です。

そして、『現代家系論』は、本田さんのいわば処女作にあたります。

こういう入手困難だった本が読めるという意味で、文春学藝ライブラリーは有難いシリーズです。


本田靖春 『現代家系論』
文春学藝ライブラリー 1566円


『不当逮捕』、『誘拐』などで知られる著者が没して10年。デビュー作である連作ノンフィクションが初めて文庫化された。

ある人物にスポットを当て、家系という背景を含めてその実相に迫っていく。対象としたのは、政・財・学・芸能などの分野における三代続きの家柄だ。羽仁五郎、湯川秀樹、永野重雄、武者小路実篤といった著名人たちが並んでいる。

著者は、羽仁を「“歴史漫談”が売り物のエンタテーナー」と呼び、鹿島守之助(鹿島建設会長)が築いた血縁を、政略結婚ならぬ「戦略結婚」だと看破する。一貫しているのは、相手の名声や業績にまったく影響されない立ち位置と、冷徹な取材者の目である。


貴田 庄
『志賀直哉、映画に行く~エジソンから小津安二郎まで見た男』
朝日新聞出版 1944円


『怪盗ジゴマ』から『東京物語』まで。志賀直哉は文壇屈指の映画ファンだった。著者は日記や随筆などを検証し、その軌跡を明らかにする。ディートリッヒ、ガルボ、原節子、そして高峰秀子。文豪はまた銀幕の美女たちを愛した。本書は「観客の映画史」でもある。


西牟田 靖 『本で床は抜けるのか』
本の雑誌社 1728円


冗談みたいな書名だが、実際に大量の本で床は抜ける。危機感を覚えた著者は事例を調べ、体験者の話を聞き、蔵書家の指導を受ける。大好きな本をいかに「処分」するか。その辛くて悩ましい問題と向き合った日々の報告である。仕事や家族との関係も他人事ではない。


内田樹、白井聡 『日本戦後史論』
徳間書店 1620円


『日本辺境論』の論客と、『永続敗戦論』で注目を集めた気鋭の政治学者。2人がこの国の課題を語り合う。軸となるのは「なぜ今戦争ができる国になりたがっているのか」だ。敗戦の本質の隠蔽。対米関係の矛盾。右傾化とシンガポール化など深刻度が増している。


杉山恒太郎 『ピッカピカの一年生を作った男』
小学館文庫 551円


どのジャンルにも“知る人ぞ知る”人物がいる。CMのクリエイティブディレクターとして長年活躍してきた著者もそんな一人だ。児童雑誌『小学1年生』の名作CMはいかにして生まれたのか。思考法はもちろん、時代のエッセンスをすくい取る極意も明かされる。

(週刊新潮 2015.04.09号)


読売新聞で、NHK「クロ現」調査委・中間報告についてコメント

2015年04月10日 | メディアでのコメント・論評



NHK記者「演技依頼していない」食い違う証言

NHKの報道番組「クローズアップ現代」に出演した男性が「やらせがあった」と訴えている問題で、NHKの調査委員会は9日、中間報告を公表。

不十分な裏付け取材による事実関係の誤りを認定したほか、過剰な演出があった可能性があることを明らかにした。調査委が近くまとめる調査報告書で「やらせ」の有無などをどう判断するのか注目される。

◆4点で証言にズレ

「やらせはあったのか」「取材がずさんでは」。9日午前、NHKで行われた会見。記者の質問に対し、NHK幹部は「あくまで中間報告。判断は調査委員会が下す」と繰り返した。

昨年5月14日に放送された同番組は、多重債務者をブローカーを介して出家させ、名前を変えさせて融資などをだまし取る「出家詐欺」の手口を紹介する内容。調査委は、取材や制作に携わった記者らNHK側計14人と、番組で「ブローカー」とされた男性ら3人から聞き取りをし、記者と男性との主な説明の食い違いが4点明らかになったとした。

ブローカーとされた男性は「自分はブローカーではないが、記者から役を演じるよう依頼された」などと主張。記者は「男性はインタビューの中で自らを『われわれブローカー』と称した。演技の依頼はしていない」と説明している。

中間報告は、番組取材への認識や口止め依頼の有無を含め、これら4点の説明の相違を「主張の食い違い」などとするにとどめたが、会見で質問を受けたNHK幹部は、記者が男性本人に対し、ブローカーかどうかを尋ねて確認していなかったことも明らかにした。

(中略)

碓井広義・上智大教授(メディア論)の話

「問題の放送回の根幹は『ブローカーを見つけ、多重債務者とのやりとりを取材できた』という点であり、記者が男性に対してブローカーであるのかどうかを確認していない時点で、記者の認識にかかわらず、根幹に関わる部分の取材が不十分だったと言うほかない。また、事実関係と番組構成が合致しないなど不自然な点も多く、記者がスクープ性やストーリー性にこだわり、無理をした疑いもぬぐえない」


(読売新聞 2015.04.10)


朝日新聞で、NHK「クロ現」調査委・中間報告についてコメント

2015年04月10日 | メディアでのコメント・論評



やらせの有無、言い分対立 
NHK「クロ現」中間報告

NHKのクローズアップ現代で「やらせ」が指摘されている問題で、調査委員会は9日、中間報告を公表した。やらせの有無については調査を続けるが、番組で「(詐欺あっせんの)活動拠点」とした表現は誤りだったと認めた。詐欺をあっせんする現場を記者が突き止めたかのように構成した番組が、実際には旧知の関係者に依頼して撮影していたことも判明。識者からは「過剰な演出では」との声が上がっている。

番組は昨年5月14日に放送され、出家して戸籍名を変えることで債務記録の照会を困難にする「出家詐欺」の特集だった。大阪放送局の男性記者が詐欺あっせんの「活動拠点」を突き止め、ブローカーとされた男性にインタビュー。さらに現場を訪れた多重債務者を追いかけて、犯罪につながる認識はないかただす構成になっている。

ところが中間報告によると、記者は多重債務者の男性と8、9年前から知り合いで、「出家詐欺の相談に行く」と聞いたことをきっかけに取材が始まったという。多重債務者の男性が、ブローカーとされた男性に交渉して撮影したもので、事前に3人で打ち合わせをしていた。

さらに2人が相談する撮影では記者が同じ室内に残り、「よろしくお願いします。10分か15分やり取りしてもらって」と話す声や、やり取りが一通り終わったところで、「お金の工面のところのやり取りがもうちょっと補足で聞きたい」などと声を掛けた様子が記録されていた。

調査委は「番組を見た視聴者の多くは、このような形で撮影が行われたとは想像し得ないと思われる」として、取材・撮影の手法が適切だったか検証を進めるという。現場には記者のほかにも、ディレクターやカメラマンがいたことから、取材・制作のチェック体制についても調査する方針。

碓井広義・上智大教授(メディア論)は、「記者が撮影したい『絵』が先にあって、関係者をはめ込んでいった印象を受ける」と指摘する。

大阪市内の現場を番組では「(ブローカーの)活動拠点」として紹介していたが、実際には多重債務者の男性が、知り合いから鍵を借りていた部屋だった。男性は「自分が(撮影場所を)決めた」と話しているという。記者はこうした経緯を知らず、多重債務者の男性に「(ブローカーの)拠点でよいか」と尋ね、後日「それでいい」と返答があったので「活動拠点」と表現したという。NHKは「表現は誤りであり、裏付けが不十分だった」と認めた。

一方、「やらせ」の有無については、言い分が食い違っている。
記者は調査委の聞き取りに対し、「演技の依頼はしていない」と否定。取材に対し男性が詐欺の手口を詳細に語り、「われわれブローカー」と話したことから、ブローカーと確信していたという。NHKはさらに調査を進め、最終報告をまとめる。弁護士ら外部の調査委員の意見も聴いた上で公表する方針。

一方、ブローカーとして登場する男性は、「ブローカーの経験はなく、記者にやらせの指示を受けた。犯罪者のような放送をされ、憤りを感じる」として、NHKに訂正を求めている。男性の代理人弁護士は9日、中間報告を受け「各関係者の供述内容でポイントが明確化されたことは評価するが、承服できない部分も多い。内容を精査したうえで今後の対応を検討する」とのコメントを出した。

関西テレビの「『発掘!あるある大事典』調査委員会」委員も務めた音好宏・上智大教授(メディア論)は「それぞれの主張の食い違いを詰め切れていない。原因究明が不十分で再発防止に向けた言及もこれからと、中間報告とはいえ、あまりに不十分と感じた。思い込みで記者が突き進んだという印象は拭えない。視聴者に誤解を与えなかったかが今後のポイントだ」と話した。

記者は9日、朝日新聞の取材に「会社を通してください」と話した。(後藤洋平、中島耕太郎、岩田智博)
     ◇
9日のクローズアップ現代の放送では、国谷裕子キャスターが中間報告の内容を説明し、「活動拠点」と報じたことについて、「取材が不十分だったもので、部屋の借り主と視聴者の皆さまにおわび致します」と謝罪した。
     ◇
■NHKの中間報告の主なポイント
・「やらせ」指導の有無
 出演男性は「演技を依頼された」。記者は否定
・出演男性はブローカーだったのか
 男性は否定。記者は「間違いないと思った」
・撮影場所は詐欺あっせんの「活動拠点」か
 裏付けが不十分で誤り
・指摘を受けた場面構成や撮影手法
 視聴者に実際と異なる取材の過程や手法を印象づけた

(朝日新聞 2015.04.09)


毎日新聞で、NHK「クロ現」調査委・中間報告についてコメント

2015年04月10日 | メディアでのコメント・論評



NHK調査委:一部誤り認める
…やらせ指示は判断示さず

NHKの報道番組「クローズアップ現代」などで「やらせ」があったとされる問題でNHKは9日、調査委員会の中間報告を公表した。一部については誤りがあったことを認め、過剰演出の可能性についても言及しているが、記者が「やらせ」を指示したかどうかなどについては「意見に食い違いがある」と指摘するにとどまった。

問題の番組は「追跡“出家詐欺”〜狙われる宗教法人〜」。多重債務者がブローカーを介して出家の儀式を受け、名前を変えて融資などをだまし取る詐欺の手口を紹介。昨年4月25日に関西ローカル「かんさい熱視線」で放送されたあと同年5月14日「クローズアップ現代」で全国放送された。

やらせが疑われているのは、ブローカーとされる男性の元に、多重債務者とされる男性が相談に訪れる場面。窓越しに部屋の様子が撮影されている。

中間報告では、相談場所とされた事務所をブローカーの「活動拠点」とコメントしたことは「誤りであり、裏付けが不十分だった」と認めた。

また、記者が詐欺の現場を突き止めたように構成されているが、実際は2人に依頼して撮影していた。「視聴者に実際と異なる取材過程を印象づけた」として過剰な演出がなかったかなど検証の必要性を指摘した。

しかし、記者が演技を依頼したかについては「記者は一貫して否定している」とし、ブローカーとされる男性と意見が食い違っている点を指摘。男性を「ブローカー」と伝えたことについても記者と男性の間で認識が大きく異なっているとした。

ブローカーとされた男性は9日、代理人の弁護士を通じて改めて「記者に演技を求められた。自分はブローカーではない」とコメントした。

同日の「クローズアップ現代」で国谷裕子キャスターは、ブローカーの「活動拠点」ではなかったことを認めた上で謝罪。「取材や制作が適切であったか調査委員会はさらに調査を進め、できる限り早い時期に報告書を公表することにしています」と述べた。

中間報告について碓井広義・上智大新聞学科教授(メディア論)は「記者がだまされていたのか、それともブローカーではないと知りながら取材したのかといった核心部分が解明途上だったのは残念だ」と述べた。

【望月麻紀、須藤唯哉、北林靖彦】

◇弁護士「承服できない部分も多い」

NHKの中間報告を受け、NHKに訂正放送を求めたブローカーとされた男性の代理人の弁護士は9日、「各関係者の供述内容が明らかにされたことはポイントの明確化という意味で評価するが、承服できない部分も多く存在するので、内容を精査し、今後の対応について改めて検討する」とのコメントを発表した。

(毎日新聞 2015.04.09)

「マッサン」エリーは、今後も日本で通用するのか!?

2015年04月10日 | メディアでのコメント・論評



日刊ゲンダイに、「マッサン」でヒロインを演じた、シャーロット・ケイト・フォックスさんに関する記事が掲載されました。

この記事の中で、コメントしています。


”黒船女優”の成功例はゼロだが・・・
「マッサン」女優
日本続投に勝算アリ
バックに“大物”ディレクター

胸元がパックリと割れたセクシーなスーツに身を包み、歌声を披露する姿は堂々としたもの。3月末までNHK朝ドラ「マッサン」のヒロインを演じていたシャーロット・ケイト・フォックス(29)。あのエリー役の女優である。

「朝の顔」という大役を終えた彼女が次に演じるのは、またもや大役。今度は米ブロードウェーのミュージカル「CHICAGO」(NY公演10月26日~、東京公演12月4日~)の主演の座を射止めたのだ。

8日の記者会見には70社120人の報道陣が集まり、注目度の高さをうかがわせた。熱気ムンムンの会場でシャーロットが口にしたのは、感謝の言葉だった。

「日本では勇気と忍耐を培い、演技力も同じ人間とは思えないぐらいスキルアップしました。今があるのは『マッサン』のおかげ。私の人生を大きく変えてくれました」

朝ドラの撮影が始まって間もない昨春にはホームシックにかかり、夫や家族恋しさに一時帰国したのも、まるで嘘のよう。今ではすっかり“親日家”で、今年1月に大阪市内で行われたイベントでは「ずっと日本でこの仕事を続けられるようにしたい」と永住宣言。

もっとも、この発言が原因で「絶対ムリ」「勘違い女優」なんてアンチの声が多く上がっているが、まあ、無理もない。かつて「熱中時代」に出演して人気を博したミッキー・マッケンジーは、共演した水谷豊の妻となり、活動の場を日本に移したが、女優も結婚生活も長くは続かず、あっという間に過去の人に……。

上智大学の碓井広義教授(メディア論)はこう言う。

「朝ドラひとつとっても次から次へと新たな作品が放送される中、視聴者の記憶はどうしても褪せてしまう。“エリー効果”は永遠に続くわけではありません。日本のテレビ界では毎クールごとにドラマが量産されていますが、果たしてどれだけ外国人女優を起用する作品があるのか。そして、酷なことをいうようですが、現時点のシャーロットは誰もが認める演技達者とは言い難い。もし仮に彼女の生き残る道があるとすれば、役の大小や作品を選り好みすることなく、何でも引き受ける覚悟。そして、バラエティーでも通用するトーク力を習得することではないでしょうか」


過去に成功例がないだけに、厳しい声ももっともだが、実はシャーロットには、強力な助っ人がバックについている。NHKのオーディションに彼女を紹介した演出家の存在だ。

「国内外の映画やドラマの配役を担うキャスティングディレクターの奈良橋陽子氏です。彼女はハリウッドに顔がきき、『ラストサムライ』で渡辺謙、『バベル』では菊地凜子をキャスティングした仕掛け人。シャーロットは奈良橋さんの娘が代表を務める事務所に所属している。“勝算”がなければ、日本で活動させるわけがありません」(芸能関係者)

“黒船女優”が日本の芸能界を席巻の予感である。

(日刊ゲンダイ 2015.04.09)


【気まぐれ写真館】 能年玲奈? じゃなくて、川栄李奈

2015年04月10日 | 気まぐれ写真館

NHK朝ドラ「まれ」 好発進を支える“5つの要素”

2015年04月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム 「TV見るべきものは!!」。

今週は、NHK朝ドラ「まれ」について書きました。


NHK朝ドラ「まれ」
いいドラマには、必ずいいセリフがある

先週からNHK朝ドラ「まれ」が始まった。ひと山当てることばかり考える父親(大泉洋)、それを支える母親(常盤貴子)と共に能登へ移住してきた娘・まれの物語だ。

“ダメおやじ”の影響か、まれはデッカイ夢が嫌いで、地道にコツコツが信条の高校生に成長。この設定が効いている。夢を持つことを自分に禁じたヒロインが、やがて本来の夢に向かって歩み始める。いわばマイナスからの出発であり、見る側も応援したくなるのだ。

また現代劇ということもあり、気軽な気持ちで見ることができる。前2作の「花子とアン」や「マッサン」に共通する、実在の人物をめぐる“縛り”のようなものがないからだ。むしろ「あまちゃん」を思わせる笑いとツッコミ、全体が明るいコメディータッチであることも悪くない。

次はキャストだが、主役の土屋太鳳(写真)は期待の本格派。4年前、長谷川博己をブレークさせたドラマ「鈴木先生」(テレビ東京系)でも、突出した存在感を示していた。今どきのアイドルタイプとは異なる、骨太な若手女優だ。

脇役陣も充実している。特に祖父母代わりを演じる、舞踏家の田中泯と田中裕子。この老夫婦の組み合わせが何とも絶妙だ。田中裕子の「自分の生きる場所は、自分で守る」といった言葉も潔い。いいドラマには、必ずいいセリフがある。

(日刊ゲンダイ 2015.04.08 )

放送開始から90年を迎えたラジオ

2015年04月08日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、放送開始から90年を迎えた「ラジオ」について書きました。


放送90年迎えたラジオ
双方向性メディアの力失せず

3月22日は「放送記念日」だった。1925年(大正14年)のこの日、NHKがラジオの仮放送を開始したことに由来する。今年は「放送90年」と言われるが、正確には「ラジオ放送90年」なのである。

その歴史を振り返ると、戦時中のラジオは、国民に対して国家が意思を伝えるためのメディアだった。そして戦後は、映画と並ぶ“娯楽の王様”として支持された。

しかし、1953年にテレビ放送が始まり、やがて全国の家庭に普及すると、ラジオの地位は徐々に下がっていった。ちなみに、放送時に銭湯の女湯がガラガラになったといわれる伝説のラジオドラマ「君の名は」が流されたのは、テレビ放送開始の前年のことだ。

やや地味なメディアとなっていたラジオが、再び活況を呈したのは60年代後半である。1967年、「オールナイトニッポン」(ニッポン放送)や「パック・イン・ミュージック」(TBS)など、ラジオの深夜放送が始まったのだ。その2年後には「セイ!ヤング」(文化放送)もスタートする。

これらの番組は、それまでとは違う、身近な存在としてのパーソナリティーが魅力的だった。彼らは恥ずかしい失敗、本音や内面をもさらけ出していた。まるで自分に向かって語りかけてくれているような一体感。いまを一緒に生きているという同時代感。それらが当時の若者たちの心をとらえて離さなかった。

ラジオはマスメディアの一種だが、多くの人に向けた単なる情報伝達の手段ではない。音声のみで情報を伝えることから、話している相手と聞いている“私”との間に、一対一の”メディア空間”が形成される。自分という個人に向けて発信されているという印象、親近感を抱きやすいという意味で、「パーソナルメディア」なのだ。

またラジオは「地域メディア」でもある。東日本大震災の際、テレビでは犠牲者数など全国向けの情報が流されていたが、地元のラジオは給水車や食糧配布の場所など、被災者が“いま欲しい情報”を堅実に伝えていた。またリスナーから刻々と届く肉声(メッセージ)を読み続けたことで、ラジオは地域の人たちの心に寄り添うメディアとなった。

近年ラジオ放送をインターネット上で同時配信する「radiko(ラジコ)」のようなサービスの登場により、新たなラジオファンも増えてきた。送り手と受け手が互いを感じることのできる双方向性は、今後も形を変えて継承されていくべきラジオの力だ。

(北海道新聞 2015.04.06)


東京中日スポーツで、「日テレ・上重アナ問題」について解説

2015年04月07日 | メディアでのコメント・論評



「高度の清廉性」どこへ
億ション購入に1億7千万円無利息借用
上重・日テレアナ おとがめなし


<文書で謝罪>
上重聡アナウンサーのコメント全文

「一部週刊誌報道で、わたくし上重聡が知人から便宜供与を受けていたとの指摘がありました。 この方には、かねてより応援していただき親交がありましたが、あくまでもプライベートな交友関係であり、会社や仕事について特別な便宜を図っていただいたことは一切ありません。その一方で、個人的なご厚意の申し出に甘えたことによって、疑念をいだかれるような結果を招いたことは、わたくしの不徳の致すところで深く反省しております。現在、そのような疑念を払拭するべく専門家の方のアドバイスをいただきながら対処しています。今後は、放送人としての自覚を強く持ち、信頼されるアナウンサーとなるべく業務にまい進いたします。このたびは視聴者をはじめ関係する多くの方々にご迷惑ご心配をおかけし、申し訳ありませんでした」


週刊文春報じる
2日発売の「週刊文春」で、番組の有力スポンサーから利益供与を受けたと報じられた日本テレビの上重聡アナウンサー(34)が同日、同局を通じて文書でコメントを発表し、利益供与を否定したうえで謝罪した。

しかし、同局によると、司会をつとめる情報番組「スッキリ!!」は降板せずこれまで通り出演。事実上、不問に付されることとなった。

「文春」の報道によると、上重アナは昨年3月、東京都内のタワーマンションの最上階の部屋を購入。その際、購入費用の1億7000万円を同番組のスポンサーでもある、靴の小売りチェーン「ABCマート」の創業者で元会長の三木正浩さんから無利息で借りたという。

さらに、同局では社員就業規則でマイカー通勤が禁止されているが、上重アナが三木さんが代表をつとめる、資産管理会社が所有する高級車で通勤する様子も写真付きで報じられた。

上重アナは同局を通したコメントで三木さんとは「あくまでもプライベートな交友関係」とし、「会社や仕事について特別な便宜を図っていただいたことはありません」と利益供与を否定。「わたくしの不徳の致すところで深く反省しております」と謝罪した。

また、「疑念を払拭するべく専門家の方のアドバイスをいただきながら対処しています」としていることから、購入したマンションや三木さんから借りた1億7000万円については、何らかの“善処”を考慮しているようだ。

番組司会降板せず
同局によると、上重アナに事情をきいたところ、マイカー通勤については「ときどき通勤していた」と事実を認めたため、就業規則に従って厳重注意を行ったという。しかし、同番組も含めて出演中の番組に変更はなし。マンション購入の件については、「個人が結んでいる契約」として同局は関与しないという。

上重アナは3月30日から新司会者として同番組の顔になったばかり。2日の放送には通常通り出演したものの、この件に関しては言及しなかった。

女子アナの時は・・・
日本テレビでは、昨年、銀座のクラブホステスのアルバイト経験を申告しなかったとしてアナウンサーの内定を取り消された笹崎里菜さん(22)が、裁判闘争の末、局と和解、1日の入社式に出席したばかり。局側は、アナウンサーには「高度の清廉性」が求められると説明していた。

報道に関わる自覚なし
▽上智大の碓井広義教授(メディア論)

「日本テレビとしてではなく、上重アナ個人としてコメントを出したということは、『上重アナが個人的にお金を借りた』ということにして(この件を)スルーしようとしているのではないのか。おそらく、スルーすることで上重アナを傷つけないようにしているのだろう。われわれも知り合いからお金を借りることはあるが、1億7000万円という金額はあり得ない。無利息で借りるということは、利息分のお金をもらっているのと同じことなので、上重アナはそのことをどう考えているのか。まるでタニマチから支援してもらっているスポーツ選手のようで、報道番組に関わっているという自覚がない」


(東京中日スポーツ 2015.04.03)


祝!BSプレミアムで「あまちゃん」全話放送開始

2015年04月07日 | テレビ・ラジオ・メディア



いやあ、始まりました、「あまちゃん」。

6日(月)、つまり昨日の朝から、BSプレミアムで、「あまちゃん」の全話放送が開始されたのです。

久しぶりで第1回を見ましたが、北三陸駅の風景は変わっていませんでした、って当たり前だ。


朝7時15分という時間ですが、続けて30分からは「まれ」が見られるという、なかなかの編成。

とにかく、テレビから、あのオープニングテーマが聞こえてくるのが嬉しいじゃないですか。

これから半年間、月~土で毎日、楽しめます。

しかも、土曜の夕方、18時からは「あまちゃん」の一週間分をまとめて放送するそうです。


そうそう、先週からNHK総合では、2012年のドラマ10「はつ恋」を再放送中。

主演の木村佳乃が好演、そして「あまちゃん」以前の橋本愛も見られる、佳作でした。

「あまちゃん」でも、「はつ恋」でも、こうやって、いいものは何回でも流せばいい。

まさにコンテンツの活用であり、視聴者への良きサービスです。





ちょっとコシャクな「ふてネコ」の魅力

2015年04月07日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(流通新聞)に連載している「CM裏表」。

今回は、ワイモバイル「ふてネコ お風呂で鼻歌編」について書きました。


ワイモバイル
「ふてネコ お風呂で鼻歌編」
演技賞ものの
こびない態度

猫は気まぐれだ。素直に人の言うことをきかない。時には人間より偉そうに見える。ちょっとコシャクな存在だ。

このCMもそうだ。湯船につかりながらの鼻歌。小坂明子さんの名曲「あなた」の替え歌だが、「家を建てたニャら光とスマホ~」と宣伝も忘れない。

またカフェ編ではカウンターに肘をつき、「ワイモバイルのスマホでにゃんにゃん言ってみませんか」などとハードボイルド風につぶやいたりする。

約30年前、「なめんなよ」で大ヒットした“なめ猫”がいた。しかし、その暴走族風の学ランなどは、「人間に着せられちゃいました」という印象が強い。

その点、ふてネコは自然体だ。誰にも縛られず、また、こびない態度が気持ちいい。自らの哲学と価値観に生きる一匹オオカミ、いや一匹ネコのようではないか。

ちなみに、なめ猫の声はスタッフだという。声質もトーンも猫のふてくされぶりにぴったりで、演技賞ものだ。

<日経MJ(流通新聞) 2015.04.06>

【気まぐれ写真館】 番宣ハガキ「まれ」(2)

2015年04月07日 | 気まぐれ写真館

書評本: あらえびす『クラシック名盤 楽聖物語』ほか

2015年04月06日 | 書評した本たち



私たちの世代にとって、銭形平次といえば、大川橋蔵さん。

ただし“女房のお静”は、八千草薫さんより香山美子さんのほうが馴染みがあります。

そういえば、昨年、原作である野村胡堂「銭形平次捕物控傑作選」が、文春文庫からシリーズで出ました。

高齢化社会の中で、あらためて需要があるのかもしれません。

作家・野村胡堂=音楽評論家・あらえびす。

クラシック音楽評論では、同じ作家で、「柳生武芸帳」の五味康祐さんも、よく知られていました。

時代小説とクラシック。

面白い作家たちですね。




以下、週刊新潮に書いた書評です。

あらえびす『クラシック名盤 楽聖物語』
河出書房新社 3024円


”銭形平次”の作家・野村胡堂が別名で書き続けた音楽評論、半世紀ぶりの再刊だ。ヘンデルからドビュッシーまで17人の大音楽家の伝記と、107人の作曲家の別伝が並ぶ。レコード評論のパイオニアが選んだ名盤と評価は、時を経ても凛として揺らぐことはない。


高田文夫『誰も書けなかった「笑芸論」』
講談社 1350円


演芸好きの少年が長じて人気放送作家となった。森繁久彌、三木のり平、青島幸男からビートたけしまでを、ここまで体感的に語れるのは著者しかいない。特に、盟友・戦友ともいうべきビートたけしが世に出るまでのエピソードは秀逸。「世界の北野」の原点だ。


村松友視『金沢の不思議』
中央公論新社 1890円


北陸新幹線の開業でスポットを浴びる金沢。氾濫するガイド本とは一線を画すのが本書だ。登場するのは長唄・囃子の名手、加賀竿・毛針の達人、宝生流能楽師など。中でも茶屋町に流れる闇笛の逸話は絶品。このまちに通いつめた者ならでは距離感と視点が見事だ。

(週刊新潮 2015.04.02号)


ウォシャウスキー姉弟が拓く映像最前線、映画『ジュピター』

2015年04月06日 | 映画・ビデオ・映像



『マトリックス』のラナ&アンディ・ウォシャウスキー監督最新作、『ジュピター』を観てきました。

遺伝子操作された元兵士のケイン(チャニング・テイタム)は、ある女性を守るという任務のために宇宙から地球に派遣される。シカゴで清掃員として働くジュピター(ミラ・クニス)は、殺伐とした大都会での暮らしに嫌気が差していた。だが、実は彼女こそが、地球のみならず宇宙を変化させる可能性のある遺伝子を備えた唯一の人物だった。主演は『ホワイトハウス・ダウン』などのチャニング・テイタムと『ブラック・スワン』などのミラ・クニス。


うーん、我々地球人というか、人類って、そういうことだったの? と納得するもよし。バカ言ってんじゃないよ、と苦笑いするもよし。

オリジナルストーリーだそうですが、思い切った大ボラというか、壮大なスペースオペラでありました。

これだけのヨタ話(ホメてます)を、めいっぱい映像にしてしまうのがウォシャウスキー作品の魅力。

とにかく、「今の映像最前線はここだぜ!」と宣言しているかのような、“怒涛の寄り”的ビジュアルです。

まあ、それを体感するだけでも、入場料金の価値は十分あると思います。