碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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脚本家「倉本聰」と映画監督「是枝裕和」が語り合ったこと

2022年02月14日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

脚本家「倉本聰」と

映画監督「是枝裕和」が

語り合ったこと

 

 
対談番組の成否は、テーマと人選で決まります。
 
2月13日(日)の夕方、BS-TBSで放送された、『“あのとき”から~北の大地とドラマと…』を見ながら、あらためてそう思いました。
 
これは脚本家の倉本聰さんと、映画監督の是枝裕和さんの特別対談です。
 
TBS系列の北海道放送(HBC)が、創立70周年記念として制作。
 
道内では2021年1月に流されたので、今回が「全国放送」ということになります。
 
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールに輝いた映画『万引き家族』。その是枝監督が富良野にいる倉本さんを訪ねました。
 
昨年、放送開始から40年を迎えた『北の国から』(フジテレビ系)をはじめ、北海道を舞台に数多くの名作を生み出してきた倉本さん。
 
この先達と気鋭の監督が、「ドラマと脚本」について語り合おうというのです。
 
是枝さんにとって、倉本作品は学生時代から脚本の教科書だったそうです。
 
今や世界的な映画監督となった是枝さんですが、倉本さんと向き合う姿勢は終始、謙虚でした。
 
具体的かつ的確な質問が繰り出され、倉本さんもまた真摯(しんし)に答えていきます。
 
たとえば『幻の町』(1976年、倉本聰脚本、HBC制作)。
 
かつて住んでいた樺太・真岡町の地図を作ろうとする老夫婦(笠智衆、田中絹代)の物語です。
 
そこには、認知症になった倉本さんの母親が、疎開先の家や集落を鮮明に思い出す姿が投影されていました。
 
また『りんりんと』(74年、同)では、東京から北海道へと向かうフェリーの中で、病気を抱えた母親(田中)が、息子(渡瀬恒彦)に尋ねます。
 
「母さん、ほんとに生きてていいの?」
 
これもまた、倉本さんが実際に自分の母親から聞いた、衝撃の言葉だったそうです。
 
さらに『ばんえい』(73年、同)で、父(小林桂樹)と息子(中村まなぶ)が言い争いから取っ組み合いになる場面。
 
父は、息子に腕力でかなわなくなったことに屈辱を覚え、息子は父の老いを知ってがくぜんとします。
 
確かに時間は残酷で、やがて親は子供に遠慮するようになります。倉本ドラマには、そんな瞬間が見事に投入されています。
 
倉本さんは番組で、自らの記憶を物語に溶け込ませたことを明かしました。
 
是枝さんも、自分と父親との関わりに触れながらこの作品への強い思いを語っていました。
 
自身の体験をドラマに生かす、いわば「私(わたくし)性」をエンタメ化する手法は、形を変えて是枝監督にも受け継がれていたのです。
 
HBCは、この3作だけでなく、大滝秀治主演『うちのホンカン』シリーズなども制作しました。これを放送したのが、かつての「東芝日曜劇場」です。
 
「日曜劇場」となった現在は普通の連続ドラマ枠ですが、当時は全国各地の放送局が制作した作品も流される貴重な場でした。
 
この舞台から、HBCは何本もの秀作を全国に送り出していました。
 
主軸となったのが、同局の守分寿男(もりわけとしお)ディレクターであり、倉本さんです。
 
そんなドラマ制作の歴史も振り返りながら、「土地に根づいた物語」の魅力を再認識することができた、貴重な対談でした。
 

三谷幸喜流「歴史のミカタ」と「超訳」が踊る『鎌倉殿の13人』

2022年02月13日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

三谷幸喜流「歴史のミカタ」と

「超訳」が踊る

『鎌倉殿の13人』

 
 
鎌倉幕府の二代目執権である北条義時を、小栗旬さんが演じている、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。
 
脚本を担当する、三谷幸喜さんにとっては3回目の登板となる大河です。
 
香取慎吾さんが近藤勇を演じた『新選組!』(2004年)の時代背景は幕末。
 
堺雅人さんが真田幸村となった『真田丸』(16年)は戦国時代末期でした。
 
しかし、今回描かれるのは平安末期から鎌倉前期になります。戦国や幕末のように、なじみのある時代とは言えません。
 
また、有名な源頼朝や義経はともかく、「北条義時って何者?」と思う人も少なくなかったはず。その点も、これまでの三谷作品とは異なります。
 
なじみの薄い時代の、よく知らない人物たち。三谷脚本は、それを逆手にとる形で想像力を発揮しています。
 
三谷流「超訳」
 
狙いは、大河らしい重厚さと、三谷さんらしいユーモアの融合。
 
義時(小栗旬)をはじめとする登場人物たちが、それぞれ独特の“おかしみ”を持っています。
 
たとえば、父の時政(坂東彌十郎)は突然の再婚宣言。家族から真意を問われると、「さみしかったんだよ~」とすねていました。
 
そうそう、義時の妹・実衣(宮澤エマ)が、「姉(政子)は(頼朝に)ゾッコンよ」なんて言っちゃうセリフもありました。
 
大胆な現代語訳というか、三谷流の「超訳」ですが、三谷大河では不思議ではありません。
 
さらに、平家を憎むあまり暴走気味の兄・宗時(片岡愛之助)。流罪人である頼朝(大泉洋)に猛アタックした姉・政子(小池栄子)。
 
義時にすれば、どちらも危なっかしくて仕方ない。
 
北条家の平安を守るため、家族をなだめたり、すかしたりしながら、彼らの無理難題に対応していく義時。
 
この優れた「調整能力」が、後の執権という地位につながるのではないでしょうか。
 
いわば「頼朝騒動」ともいうべき事態に巻き込まれていく主人公を、小栗さんが過去に出演した大河以上の軽妙さで演じています。
 
頼朝役の大泉さんからも目が離せません。
 
三谷さんが造形する頼朝は一筋縄ではいかない人物です。何より本音がどこにあるのか、よく見えません。
 
その挙兵も、自らの意思なのか、坂東武士たちから“お御輿(みこし)”として担がれた結果なのか、判然としないのです。
 
穏健で優柔不断かと思うと、非道な選択も残酷さも見せる。しかも、結構な女好き。
 
その硬軟入り混じるキャラクターが、大泉さんによく似合っています。
 
三谷流「歴史のミカタ」
 
歴史学者の磯田道史さんが、井上章一さんとの対談本『歴史のミカタ』(祥伝社)で語ったところによれば、歴史は史実の集合体ではありません。
 
歴史の正体とは「物のミカタ」です。過去のどの部分を、どのように見るかであり、歴史のミカタは人それぞれなのです。
 
しかも、樋口州男ほか編著の『「吾妻鏡」でたどる北条義時の生涯』(小径社)などを読むと、義時について、頼朝挙兵以前の史料は伝わっていないのだそうです。
 
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、三谷さんが面白いと思う、時代と人物の「ミカタ」と「超訳」を、笑いながら愉しむのが一番かもしれません。

今期ドラマの「不在」で気になる、脚本家「野木亜紀子」

2022年02月12日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

今期ドラマの「不在」で気になる、

脚本家「野木亜紀子」

 
 
今期のドラマでは「不在」だから、手掛けた作品の放送がないから、逆に気になる「脚本家」がいます。
 
宮藤官九郎さん、坂元裕二さんに続いて、野木亜紀子さんを挙げたいと思います。
 
ドラマの可能性を広げた『アンナチュラル』
 
2016年放送の『重版出来(じゅうはんしゅったい)!』(TBS系)や『逃げるは恥だが役に立つ』(同)がヒットした野木さん。
 
とはいえ、どちらも同名漫画という原作がありました。
 
その意味で、野木さんの本領が発揮されたと言えるのが、オリジナル脚本の『アンナチュラル』(18年、同)です。
 
物語の舞台は「不自然死究明研究所」。
 
警察や自治体が持ち込む、死因のわからない遺体を解剖し、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」の正体を探る研究所でした。
 
執刀するのは、三澄ミコト(石原さとみ)や中堂系(なかどうけい、井浦新)たち法医解剖医です。
 
野木さんは、単なる謎解きのサスペンスドラマとは一線を画し、遺(のこ)された者たちがいかに生き続けるかを問い掛けました。
 
自殺系サイトや長時間労働、いじめ等の今日的な問題を織り交ぜつつ、解剖医たち自身が「生きるとは何か」という根源的な問いに向き合うプロセスを、卓抜な構成力で描ききったのです。
 
「ドラマというのは、ここまでできるんだ」という、いわばドラマの可能性を広げた1本と言えるでしょう。
 
「社会病理」の闇に迫った『MIU404』
 
また、斬新な刑事ドラマだったのが、20年の『MIU404』(同)です。
 
タイトルは、第4機動捜査隊に所属する、伊吹藍(いぶきあい、綾野剛)と志摩一未(しまかずみ、星野源)のチームを指すコールサインでした。
 
事件発生後、すぐに展開される「初動捜査」という短期決戦が彼らの任務です。
 
野性のカンと体力の伊吹。理性と頭脳の志摩。対照的でありながら、内部に葛藤を抱えることでは共通する、魅力的なキャラクターでした。
 
扱われる事件はさまざまでしたが、このドラマの「核」は、一種の「社会病理」を描くことにありました。
 
たとえば、外国人による「コンビニ強盗事件」では、外国人留学生や研修生を安価な労働力として使い捨てにする、この国の闇に迫っていました。
 
とはいえ、2人の主人公は単純な「正義の味方」ではありません。社会病理は彼らの内部にも巣くっている、いわば「魔物」かもしれないのです。
 
「他人も自分も信じない」と言う志摩。「オレは(人を)信じてあげたいんだよね」と伊吹。
 
しかし、そんな言葉も、額面通りに受け取れないのが「野木ドラマ」の面白さです。
 
プロデューサーが新井順子さん、演出は塚原あゆ子さん、そして脚本の野木さん。『アンナチュラル』の最強トリオが放った、剛速球にして変化球でした。
 
そして、次回作は・・・
 
今年の初夏には、野木さんが脚本を担当した、アニメーション映画『犬王』(湯浅政明監督)が公開される予定です。
 
それはそれで注目ですが、やはりドラマが観たい。
 
21年に新作が観られなかった分、今後、野木さんが提示してくれるはずの、新たな「ドラマ世界」への期待が大きくなるのです。
 

日刊ゲンダイで「紅白歌合戦」についてコメント

2022年02月11日 | メディアでのコメント・論評

 

 

 

NHK紅白歌合戦“男女対抗戦”は廃止か・・・

総合演出「後戻りできないような形を残した」

 

1951年の開始以来、70年以上続く「NHK紅白歌合戦」は今、大きな曲がり角に立っている。

■視聴者はソッポで「過去最低視聴率」

とにかく昨年の大みそかに放送された「第72回」の第2部(午後9時~11時45分)の平均世帯視聴率は史上最低の34.3%。過去最低だった2019年の37.3%を大きく下回った(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。

その敗因を、中高年に人気の演歌歌手を大量リストラし“若者にこびすぎた”ことや、男女対抗の「紅白歌合戦」でありながら“多様性”を意識して、テーマを「カラフル」とした中途半端さに求める論評も目立った。

総合演出を担当した同局の福島明氏が文春オンラインでインタビューに答えている。視聴率が悪かったことは「謙虚に受け止めて」とした上で、社内の反対に遭いながら、紅白をリニューアルした内幕をこう語っている。

「『最初からいきなり全部やっても、世の中の人は付いていけないですよ』『1個ずつ変えていきませんか?』といろいろな人に話しながら説得していく感じでした。それで、夏のパラリンピックを経てようやく9月にテーマを『カラフル』に決めました」

■「見せ方をアップデートすることはできた」

福島氏は今回の紅白で、「司会(の役割)」と「ロゴ」と「優勝旗(の授与の廃止)」の3つを変え、「紅白の見え方、見せ方をアップデートすることはできたのかなと思います」と胸を張る。紅白は今後も変わるのかという質問には「少なくとも、僕は後戻りできないような形を残しました」と言い切っている。

果たして次回、今年末の紅白は変わるのか。「大きな改革は2つあります」と記者に耳打ちするのは同局のさる幹部局員だ。

「紅白の基本コンセプトだった男女対抗戦を廃止する方向で検討中です。“歌合戦”の部分は残し、男女混合チームが紅組と白組に分かれて点数を競い合う。アーティストの出身地による東西対抗、世代別対抗、またはAIによる選抜チーム対抗など、あらゆる可能性を考えています」

2つ目の改革は放送時間の短縮を目的とした2部制の廃止だという。

「1部、2部といった区分をなくし19時からの4時間という時間帯で編成する。1部制を採用することで出場者をさらに厳選し1組当たりの出演時間をもっと増やすなどの対応も考えている」(前同)

来年度以降、地上波とネット同時配信を本格化させる方針のNHKにとって「紅白は何としても多くの国民から支持され視聴されているというイメージを持ち続けないといけない一大コンテンツ」(前同)というからNHKも必死である。

メディア文化評論家の碓井広義氏は、昨年の紅白について「例えるなら、紅白歌合戦は巨大な船なんです。そう簡単にカーブできない。曲がるのは少しずつです。しかし“変わらなくてはいけない”という作り手の進化への強い意志は感じました」と日刊ゲンダイにコメントしていたが、今年の紅白はさらに大きな変化を迎えそうだ。再び、国民の支持を得ることはできるのか。

(日刊ゲンダイ 2022.02.09)


【気まぐれ写真館】2022年2月10日の雪

2022年02月10日 | 気まぐれ写真館


高畑充希「ムチャブリ!」 ちょっと安直な展開かなと思っていたら・・・

2022年02月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

高畑充希「ムチャブリ!」

ちょっと安直な展開かなと思っていたら・・・

 

日本テレビ、水曜22時枠、お仕事ドラマ、主演は高畑充希。こう並ぶと思い出すのは2019年の「同期のサクラ」だ。

高畑が演じた北野サクラは故郷の離島に橋を架けたいと大手建設会社に入社。自分が正しいと思ったことはハッキリと言う性格で、「空気」を読むことなどできない。

逆に、見ている側は「正論も通らない社会や組織」にマヒしていた自分に気づくという、いわばブレないヒロインだった。

その意味で、今期の「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」の主人公、高梨雛子(高畑)はその対極にある。

いきなり社長に抜擢されたものの、会社経営もレストランの運営も危機の連続だ。

安請け合いをしては「どーすんだ、私のバカヤロー!」。行き詰まると「頼りなくて、すみません」。ひたすらブレまくりのヒロインなのだ。

ところが、雛子には不思議な突破力がある。先週も、かたくなだったワイナリーの女主人(南野陽子)が心を開いた。

「ちょっと安直な展開かな」と思っていたら、部下の大牙(志尊淳)がツッコミを入れた。

「あなた絶対、プランなんて考えてないでしょ。なのに、どうしてうまくいっちゃうんですか!?」

人の気持ちは戦略や計算だけでは動かない。仕事はもちろん、恋愛もまたしかり。雛子、大牙、そして謎めいた浅海社長(松田翔太)の三角構造も、じわりと変形中だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.02.09)


「ニュース」とは何か?

2022年02月09日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

「ニュース」とは何か?

 

大学生に「紙の新聞を日常的に読むか?」と訊いたことがある。約100人中、手を挙げたのは5人ほど。多くの学生が「ニュースはネットで読みます」と当然のように答えていた。

黒木華主演「ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○」(フジテレビ系)。舞台はニュースサイトの編集部だ。思えば昨年秋の「和田家の男たち」(テレビ朝日系)も、相葉雅紀が演じた主人公はネットニュースの記者だった。ただし「ゴシップ」では、「和田家」よりもネットの世界がよりシビアに描かれていく。

ニュースサイト「カンフルNEWS」は、ヒロインの瀬古凛々子(黒木)が編集長になるまで、掲載されるのはネットなどで流通している情報に手を加えただけの、いわゆる「コタツ記事」ばかりだった。

凛々子は部員たちの企画を「新鮮味なし」「プレスリリースからのコピペ」と一蹴。「取材・検証・実体験のない情報を収集して書いた、凡庸かつ内容の薄い記事」と容赦ない。そのうえで凛々子がとった方針は、ネットで話題となっている話を「本当はどうなのか?」と検証することだった。

たとえばパワハラ企業の評判を否定した、ゲームアプリ会社の人気キャラクターが盗作であることを突きとめる。報じられた有名俳優の「円満離婚」の真相を明らかにする。またネットで人気の覆面女子高生シンガーの正体にも迫った。結果的にネット情報の信憑性や危うさが浮き彫りになっていく。

しかし凛々子がしているのは、実は「記者」なら当たり前の「取材」という行為だ。時間と手間をかけた取材は新聞が存在する意義の一つだが、それをネットニュースでやっているから新鮮に見えるのだ。では、取材なしで成立する「ニュース」とは一体何なのか。

毎日新聞の記者だった石戸諭の著書「ニュースの未来」に、良いニュースの定義が出てくる。それは「事実に基づき、社会的なイシュー(論点、争点)について、読んだ人に新しい気づきを与え、かつ読まれるもの」だ。

そしてドラマの中で凛々子はこんなことを言っていた。「事実をどう受けとめるかは相手次第。ただ、事実をどう伝えるかは私たち次第です」と。名言かもしれない。

(しんぶん赤旗「波動」2022.02.07)

 


今期ドラマの「不在」で気になる、脚本家「坂元裕二」

2022年02月08日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

今期ドラマの「不在」で気になる、

脚本家「坂元裕二」

 
 
今期のドラマでは「不在」だから、手掛けた作品の放送がないから、逆に気になる「脚本家」がいます。
 
たとえば、坂元裕二さんです。
 
「キャラクター」と「会話」でドラマを組み立てる!
 
坂元さんは、宮藤官九郎さんなどと並んで、その名前だけで「観客が呼べる」脚本家の一人。そのキャリアは長いです。
 
柴門ふみの漫画を原作とした『同・級・生』(1989年、フジテレビ系)や『東京ラブストーリー』(91年、同)などを、懐かしく思い出す人も多いでしょう。
 
オリジナル脚本としては、『Mother』(2010年、日本テレビ系)や『最高の離婚』(13年、フジテレビ系)などがありますが、出色だったのは『カルテット』(17年、TBS系)です。
 
4人のアマチュア演奏家が、カラオケボックスで出会う。バイオリンの真紀(松たか子)と別府(松田龍平)、ヴィオラの家森(高橋一生)、そしてチェロのすずめ(満島ひかり)です。
 
彼らは、世界的指揮者である別府の祖父が持つ軽井沢の別荘を拠点に、弦楽四重奏のカルテットを組むことになります。
 
簡易合宿のような、ゆるやかな共同生活。「冬の軽井沢」、そして「別荘」という二重の“密室”という設定が上手(うま)い。ドラマ空間の密度が濃いものになるからです。
 
4人が、鬱屈や葛藤を押し隠し、また時には露呈させながら、互いに交わす会話が何ともスリリングでした。
 
それは1対1であれ、複数であれ、変わりません。見る側にとっては、まさに“行間を読む”面白さがありました。
 
「関係性」と「セリフ」が物語を駆動させる!
 
坂元さんが『カルテット』で試みた、「人物キャラクター」と「会話」でドラマを組み立てていく手法。
 
それをさらに押し進めたのが、21年の『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ制作・フジテレビ系)です。
 
主人公である大豆田とわ子(松たか子)と、元夫の田中(松田龍平)、佐藤(角田晃広)、中村(岡田将生)のやりとりが、じんわりとユーモラスに描かれました。
 
物語を駆動させていたのは登場人物たちの「関係性」と「セリフ」です。
 
たとえば勝手な持論を披露する中村に、とわ子が言います。
 
「私が言ってないことは分かった気になるくせに、私が言ったことは分からないフリするよね」
 
さらに坂元さんは、恋愛や結婚の既成概念を揺さぶってきました。「恋愛になっちゃうの、残念」と告白したのは、とわ子の親友・かごめ(市川実日子)です。
 
自ら選んで1人で生きること。夫婦や恋人の関係を超えて2人で生きること。さらに、大切な亡き人とも一緒に生きていくこと。それらを丸ごと肯定してみせるドラマでした。
 
そして、次回作は・・・
 
さて、次回作ですが、現在のところ、まだ情報が伝わってきません。もちろん水面下で動いている可能性はありますが。
 
画期的なドラマだった『カルテット』や『大豆田とわ子と三人の元夫』。
 
この2作を、さらに深化させた新作、待ち遠しいです。
 

言葉の備忘録262 人生は・・・

2022年02月07日 | 言葉の備忘録

 

 

 

人生はやりきれないほど面白い。

 

 

殿山泰司『JAMJAM日記』

 

 


今期ドラマの「不在」で気になる、脚本家「宮藤官九郎」

2022年02月06日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

今期ドラマの「不在」で気になる、

脚本家「宮藤官九郎」

 
今期のドラマでは「不在」だから、手掛けた作品の放送がないから、逆に気になる「脚本家」がいます。
 
たとえば、宮藤官九郎さんです。
 
石田衣良原作の連続ドラマデビュー作『池袋ウエストゲートパーク』(2000年、TBS系)で注目され、オリジナル作品『木更津キャッツアイ』(02年、同)で人気脚本家となりました。
 
朝ドラのヒロインをアイドルにした!
 
その後、『タイガー&ドラゴン』(05年、同)などのヒットが続きますが、代表作といえば、やはり13年のNHK朝ドラ『あまちゃん』でしょう。
 
物語の時間設定は08年から12年。主な舞台は11年の地震と津波で被害を受けた東北。
 
『あまちゃん』は、東日本大震災を初めて本格的に描いた連続ドラマでした。
 
フィクションであるドラマとはいえ、現実の場所と出来事をどう取り込むか。
 
脚本作りは難しかったはずですが、宮藤さんは笑いとユーモアに満ちた、アイドル物語に仕立てました。これが最大の功績です。
 
主人公の天野アキ(能年玲奈、現在はのん)が目指したアイドルは、過去のヒロインたちのような法律家、造園家、編集者とはタイプが異なります。
 
朝ドラから最も遠いと思われる職業だったかもしれません。
 
しかし、アイドルを「人を元気にする仕事」と考えれば、当時の朝ドラにこれほどふさわしい職業はない。
 
そこに「町おこし」の発想が加わり、「地元アイドル」という秀逸なヒロインが誕生したのです。
 
介護に笑いを持ち込んだ!
 
21年、宮藤さんが手掛けたのは『俺の家の話』(TBS系)でした。
 
観山(みやま)寿三郎(西田敏行)は能楽の人間国宝。脳梗塞(のうこうそく)で倒れて、車いす生活となります。
 
プロレスラーだった長男の寿一(長瀬智也)が、介護のために実家に戻ってきました。
 
ヘルパーの志田さくら(戸田恵梨香)と共に父の面倒をみるのですが、ふと目を離すこともあります。トラブルが発生するのはそんな時です。
 
「最近は調子がよかったから、まさか」と言い訳する寿一。「介護にまさかはないんです!」とさくらが叱っていました。
 
誰もが介護したり、介護されたりする時代に、つい目を背けているのが介護問題です。
 
宮藤さんは、「要介護」や「要支援」の規定から、「シルバーカー(高齢者用手押し車)」を利用する者の心理までを、ごく当たり前のこと、そして笑える「日常」として見せてくれたのです。
 
おかげで『俺の家の話』は、異色の「ホームドラマ」であると同時に、秀逸な「介護ドラマ」となりました。
 
そして、次回作は・・・
 
現在、宮藤さんはNetflixのオリジナル作品『離婚しようよ』に挑んでいます。この作品、なんと大石静さんとの共同脚本で、配信予定は23年。
 
制約の少ない配信ドラマで、一体どんな暴れ方をするのか、早く見たいものです。
 
 

「鎌倉殿の13人」で楽しむ三谷流 歴史の見方

2022年02月05日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

碓井広義の放送時評>

「鎌倉殿の13人」で楽しむ

三谷流 歴史の見方

鎌倉幕府の二代目執権、北条義時を主人公とするNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。脚本を担当する三谷幸喜にとっては3回目の登板となる大河だ。

香取慎吾が近藤勇を演じた「新選組!」(2004年)の時代背景は幕末。堺雅人が真田幸村となった「真田丸」(16年)は戦国時代末期だった。

しかし、今回描かれるのは平安末期から鎌倉前期だ。戦国や幕末のように、なじみのある時代とは言えない。また源頼朝や義経はともかく、「北条義時って何者だっけ?」と思う人も少なくないはずだ。その点もこれまでの三谷作品とは異なる。

なじみの薄い時代の、よく知らない人物たち。三谷脚本はそれを逆手にとる形で想像力を発揮している。狙いは大河らしい重厚さと三谷らしいユーモアの共存だ。義時(小栗旬)をはじめとする登場人物たちが、それぞれ独特の“おかしみ”を持っている。

たとえば父の時政(坂東彌十郎)は突然再婚を宣言し、家族から真意を問われると「さみしかったんだよ~」とすねたりするのだ。

平家を憎むあまり暴走気味の兄・宗時(片岡愛之助)も、流罪人である頼朝(大泉洋)に猛アタックした姉・政子(小池栄子)も、義時にすれば危なっかしくて仕方ない。

北条家の平安を守るため、家族をなだめたり、すかしたりしながら、無理難題に対応していく義時。この優れた“調整能力”が、後の執権という地位につながるのではないか。

いわば「頼朝騒動」ともいうべき事態に巻き込まれていく主人公を、小栗が過去に出演した大河では見せなかった軽妙さで演じる。

頼朝役の大泉からも目が離せない。三谷が造形する頼朝は一筋縄ではいかない人物だ。何より本音がどこにあるのか、よく見えない。

その挙兵も自らの意思なのか、坂東武士たちから“お御輿(みこし)”として担がれた結果なのか、判然としない。穏健で優柔不断かと思うと、非道な選択も残酷さも見せる。そして何気に女好き。硬軟入り交じるキャラクターが大泉によく似合う。

歴史学者の磯田道史が井上章一との対談本『歴史のミカタ』で語ったところによれば、歴史は史実の集合体ではない。歴史の正体とは「物のミカタ」である。

過去のどの部分を、どのように見るかであり、人それぞれなのだ。しかも義時について、頼朝挙兵以前の史料は伝わっていないという。オリジナル脚本である「鎌倉殿の13人」は、三谷が面白いと思う時代と人物の見方を、笑いながら楽しむのが一番かもしれない。

(北海道新聞 2022.02.05)


芥川賞作家の西村賢太さん死去 合掌

2022年02月05日 | 本・新聞・雑誌・活字

番組収録のスタジオで、西村賢太さんと

 

 

芥川賞作家の西村賢太さん死去 

「苦役列車」「暗渠の宿」

 

「苦役列車」「小銭をかぞえる」などの破滅型の私小説で知られる芥川賞作家の西村賢太(にしむら・けんた)さんが5日午前6時32分、東京都北区の病院で死去した。54歳。東京都出身。

中学卒業後、アルバイトで生計を立てながら小説を執筆。同人誌に発表した作品が2004年に文芸誌「文学界」に転載され、07年に「暗渠の宿」で野間文芸新人賞、11年に「苦役列車」で芥川賞を受けた。

受賞決定後の記者会見での型破りな発言が注目され、同作はベストセラーに。映画化もされた。

関係者によると、4日夜、タクシー乗車中に意識を失って病院に搬送されていた。

(共同通信 2022.02.05)


受験の緊張感、見事に表現『受験にinゼリー 2022』CM

2022年02月04日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

受験の緊張感、見事に表現

森永製菓

「~大丈夫。その緊張は、本気の証だ。~

『受験にinゼリー 2022』」

 

20年間、大学の教員として入学試験の監督をしたせいだろう。この季節になると、ふと思い出す光景がある。

試験会場の教室。一人の女子生徒が静かに手を挙げた。近寄って聞くと、ひどく気分が悪いと言う。保健室へと送ったが、結局、試験には戻れなかった。

翌年、入学式の会場で呼びとめられた。そこに昨年リタイアした彼女がいた。「去年は緊張し過ぎちゃいました」と笑う。

第二志望の大学に入ったが納得できず、再び挑戦して合格したそうだ。その後の4年間、充実した学生生活を送ったことを覚えている。

入試は誰だって緊張する。見上愛さんが演じる、森永製菓のCM「受験にinゼリー 2022」篇の主人公もそうだ。

受験当日、ロボットみたいにギクシャクと歩き、バス停で気を失ってしまう。車内でも手が震え、その影響でバスは大揺れだ。

しかし、大学の校門の前で、しっかり「inゼリー」を摂取。「大丈夫。その緊張は、本気の証だ。」のナレーションにホッとする。

確かに、受験では緊張を味方につけた者が勝つ。

(日経MJ「CM裏表」2022.01.31)


言葉の備忘録261 消え去る・・・

2022年02月03日 | 言葉の備忘録

年賀はがきで当たった「切手」

 

 

 

消え去るものは、なべて、愛おしい。

 

 

西川清史『文豪と印影』

 

 


清原果耶に “枷(かせ)のある恋愛物語”は大正解! 「ファイトソング」の脚本は岡田恵和

2022年02月02日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

清原果耶に

“枷(かせ)のある恋愛物語”は大正解!

「ファイトソング」の脚本は岡田恵和



火曜ドラマ「ファイトソング」(TBS系)の注目ポイントは2つある。まず、ヒロインが民放ドラマ初主演の清原果耶であること。もうひとつが岡田恵和によるオリジナル脚本であることだ。

児童養護施設出身の木皿花枝(清原)は、空手の有力選手だったが挫折。さらに聴神経腫瘍で数カ月後の失聴を宣告される。

そんな花枝が、どん底状態のミュージシャン、芦田春樹(間宮祥太朗)と出会う。マネジャーから「恋愛でもして、人の気持ちを知りなさい」と言われた芦田は、花枝に交際を申し込む。

さらに同じ施設で育った夏川慎吾(菊池風磨)が花枝を好きで、その慎吾を施設仲間の萩原凛(藤原さくら)が好きだったりする。

この2人、自分の恋ごころにブレーキをかける姿がいじらしい。それがドラマ全体に漂う、もどかしさと切なさを倍加させている。

耳が不自由になる前の「思い出づくり」を決意する花枝。事務所解雇の期限が迫る芦田。互いに期間限定の「恋愛もどき」のはずだったが、芦田の解雇が早まったことで事態は急展開だ。

もともと“ピュア度”の高い清原だが、岡田が用意した「枷のある恋愛物語」は大正解。人を好きになることと、病を抱えたことで成長していく、難しいヒロインを丹念に演じている。

そして登場人物たちに共通の不器用な生き方を見つめる、岡田のまなざしが温かい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.02.02)