脚本家「倉本聰」と
映画監督「是枝裕和」が
語り合ったこと
脚本家「倉本聰」と
映画監督「是枝裕和」が
語り合ったこと
三谷幸喜流「歴史のミカタ」と
「超訳」が踊る
『鎌倉殿の13人』
今期ドラマの「不在」で気になる、
脚本家「野木亜紀子」
NHK紅白歌合戦“男女対抗戦”は廃止か・・・
総合演出「後戻りできないような形を残した」
1951年の開始以来、70年以上続く「NHK紅白歌合戦」は今、大きな曲がり角に立っている。
■視聴者はソッポで「過去最低視聴率」
とにかく昨年の大みそかに放送された「第72回」の第2部(午後9時~11時45分)の平均世帯視聴率は史上最低の34.3%。過去最低だった2019年の37.3%を大きく下回った(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。
その敗因を、中高年に人気の演歌歌手を大量リストラし“若者にこびすぎた”ことや、男女対抗の「紅白歌合戦」でありながら“多様性”を意識して、テーマを「カラフル」とした中途半端さに求める論評も目立った。
総合演出を担当した同局の福島明氏が文春オンラインでインタビューに答えている。視聴率が悪かったことは「謙虚に受け止めて」とした上で、社内の反対に遭いながら、紅白をリニューアルした内幕をこう語っている。
「『最初からいきなり全部やっても、世の中の人は付いていけないですよ』『1個ずつ変えていきませんか?』といろいろな人に話しながら説得していく感じでした。それで、夏のパラリンピックを経てようやく9月にテーマを『カラフル』に決めました」
■「見せ方をアップデートすることはできた」
福島氏は今回の紅白で、「司会(の役割)」と「ロゴ」と「優勝旗(の授与の廃止)」の3つを変え、「紅白の見え方、見せ方をアップデートすることはできたのかなと思います」と胸を張る。紅白は今後も変わるのかという質問には「少なくとも、僕は後戻りできないような形を残しました」と言い切っている。
果たして次回、今年末の紅白は変わるのか。「大きな改革は2つあります」と記者に耳打ちするのは同局のさる幹部局員だ。
「紅白の基本コンセプトだった男女対抗戦を廃止する方向で検討中です。“歌合戦”の部分は残し、男女混合チームが紅組と白組に分かれて点数を競い合う。アーティストの出身地による東西対抗、世代別対抗、またはAIによる選抜チーム対抗など、あらゆる可能性を考えています」
2つ目の改革は放送時間の短縮を目的とした2部制の廃止だという。
「1部、2部といった区分をなくし19時からの4時間という時間帯で編成する。1部制を採用することで出場者をさらに厳選し1組当たりの出演時間をもっと増やすなどの対応も考えている」(前同)
来年度以降、地上波とネット同時配信を本格化させる方針のNHKにとって「紅白は何としても多くの国民から支持され視聴されているというイメージを持ち続けないといけない一大コンテンツ」(前同)というからNHKも必死である。
メディア文化評論家の碓井広義氏は、昨年の紅白について「例えるなら、紅白歌合戦は巨大な船なんです。そう簡単にカーブできない。曲がるのは少しずつです。しかし“変わらなくてはいけない”という作り手の進化への強い意志は感じました」と日刊ゲンダイにコメントしていたが、今年の紅白はさらに大きな変化を迎えそうだ。再び、国民の支持を得ることはできるのか。
(日刊ゲンダイ 2022.02.09)
高畑充希「ムチャブリ!」
ちょっと安直な展開かなと思っていたら・・・
日本テレビ、水曜22時枠、お仕事ドラマ、主演は高畑充希。こう並ぶと思い出すのは2019年の「同期のサクラ」だ。
高畑が演じた北野サクラは故郷の離島に橋を架けたいと大手建設会社に入社。自分が正しいと思ったことはハッキリと言う性格で、「空気」を読むことなどできない。
逆に、見ている側は「正論も通らない社会や組織」にマヒしていた自分に気づくという、いわばブレないヒロインだった。
その意味で、今期の「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」の主人公、高梨雛子(高畑)はその対極にある。
いきなり社長に抜擢されたものの、会社経営もレストランの運営も危機の連続だ。
安請け合いをしては「どーすんだ、私のバカヤロー!」。行き詰まると「頼りなくて、すみません」。ひたすらブレまくりのヒロインなのだ。
ところが、雛子には不思議な突破力がある。先週も、かたくなだったワイナリーの女主人(南野陽子)が心を開いた。
「ちょっと安直な展開かな」と思っていたら、部下の大牙(志尊淳)がツッコミを入れた。
「あなた絶対、プランなんて考えてないでしょ。なのに、どうしてうまくいっちゃうんですか!?」
人の気持ちは戦略や計算だけでは動かない。仕事はもちろん、恋愛もまたしかり。雛子、大牙、そして謎めいた浅海社長(松田翔太)の三角構造も、じわりと変形中だ。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.02.09)
「ニュース」とは何か?
大学生に「紙の新聞を日常的に読むか?」と訊いたことがある。約100人中、手を挙げたのは5人ほど。多くの学生が「ニュースはネットで読みます」と当然のように答えていた。
黒木華主演「ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○」(フジテレビ系)。舞台はニュースサイトの編集部だ。思えば昨年秋の「和田家の男たち」(テレビ朝日系)も、相葉雅紀が演じた主人公はネットニュースの記者だった。ただし「ゴシップ」では、「和田家」よりもネットの世界がよりシビアに描かれていく。
ニュースサイト「カンフルNEWS」は、ヒロインの瀬古凛々子(黒木)が編集長になるまで、掲載されるのはネットなどで流通している情報に手を加えただけの、いわゆる「コタツ記事」ばかりだった。
凛々子は部員たちの企画を「新鮮味なし」「プレスリリースからのコピペ」と一蹴。「取材・検証・実体験のない情報を収集して書いた、凡庸かつ内容の薄い記事」と容赦ない。そのうえで凛々子がとった方針は、ネットで話題となっている話を「本当はどうなのか?」と検証することだった。
たとえばパワハラ企業の評判を否定した、ゲームアプリ会社の人気キャラクターが盗作であることを突きとめる。報じられた有名俳優の「円満離婚」の真相を明らかにする。またネットで人気の覆面女子高生シンガーの正体にも迫った。結果的にネット情報の信憑性や危うさが浮き彫りになっていく。
しかし凛々子がしているのは、実は「記者」なら当たり前の「取材」という行為だ。時間と手間をかけた取材は新聞が存在する意義の一つだが、それをネットニュースでやっているから新鮮に見えるのだ。では、取材なしで成立する「ニュース」とは一体何なのか。
毎日新聞の記者だった石戸諭の著書「ニュースの未来」に、良いニュースの定義が出てくる。それは「事実に基づき、社会的なイシュー(論点、争点)について、読んだ人に新しい気づきを与え、かつ読まれるもの」だ。
そしてドラマの中で凛々子はこんなことを言っていた。「事実をどう受けとめるかは相手次第。ただ、事実をどう伝えるかは私たち次第です」と。名言かもしれない。
(しんぶん赤旗「波動」2022.02.07)
今期ドラマの「不在」で気になる、
脚本家「坂元裕二」
今期ドラマの「不在」で気になる、
脚本家「宮藤官九郎」
<碓井広義の放送時評>
「鎌倉殿の13人」で楽しむ
三谷流 歴史の見方
鎌倉幕府の二代目執権、北条義時を主人公とするNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。脚本を担当する三谷幸喜にとっては3回目の登板となる大河だ。
香取慎吾が近藤勇を演じた「新選組!」(2004年)の時代背景は幕末。堺雅人が真田幸村となった「真田丸」(16年)は戦国時代末期だった。
しかし、今回描かれるのは平安末期から鎌倉前期だ。戦国や幕末のように、なじみのある時代とは言えない。また源頼朝や義経はともかく、「北条義時って何者だっけ?」と思う人も少なくないはずだ。その点もこれまでの三谷作品とは異なる。
なじみの薄い時代の、よく知らない人物たち。三谷脚本はそれを逆手にとる形で想像力を発揮している。狙いは大河らしい重厚さと三谷らしいユーモアの共存だ。義時(小栗旬)をはじめとする登場人物たちが、それぞれ独特の“おかしみ”を持っている。
たとえば父の時政(坂東彌十郎)は突然再婚を宣言し、家族から真意を問われると「さみしかったんだよ~」とすねたりするのだ。
平家を憎むあまり暴走気味の兄・宗時(片岡愛之助)も、流罪人である頼朝(大泉洋)に猛アタックした姉・政子(小池栄子)も、義時にすれば危なっかしくて仕方ない。
北条家の平安を守るため、家族をなだめたり、すかしたりしながら、無理難題に対応していく義時。この優れた“調整能力”が、後の執権という地位につながるのではないか。
いわば「頼朝騒動」ともいうべき事態に巻き込まれていく主人公を、小栗が過去に出演した大河では見せなかった軽妙さで演じる。
頼朝役の大泉からも目が離せない。三谷が造形する頼朝は一筋縄ではいかない人物だ。何より本音がどこにあるのか、よく見えない。
その挙兵も自らの意思なのか、坂東武士たちから“お御輿(みこし)”として担がれた結果なのか、判然としない。穏健で優柔不断かと思うと、非道な選択も残酷さも見せる。そして何気に女好き。硬軟入り交じるキャラクターが大泉によく似合う。
歴史学者の磯田道史が井上章一との対談本『歴史のミカタ』で語ったところによれば、歴史は史実の集合体ではない。歴史の正体とは「物のミカタ」である。
過去のどの部分を、どのように見るかであり、人それぞれなのだ。しかも義時について、頼朝挙兵以前の史料は伝わっていないという。オリジナル脚本である「鎌倉殿の13人」は、三谷が面白いと思う時代と人物の見方を、笑いながら楽しむのが一番かもしれない。
(北海道新聞 2022.02.05)
番組収録のスタジオで、西村賢太さんと
「苦役列車」「小銭をかぞえる」などの破滅型の私小説で知られる芥川賞作家の西村賢太(にしむら・けんた)さんが5日午前6時32分、東京都北区の病院で死去した。54歳。東京都出身。
中学卒業後、アルバイトで生計を立てながら小説を執筆。同人誌に発表した作品が2004年に文芸誌「文学界」に転載され、07年に「暗渠の宿」で野間文芸新人賞、11年に「苦役列車」で芥川賞を受けた。
受賞決定後の記者会見での型破りな発言が注目され、同作はベストセラーに。映画化もされた。
関係者によると、4日夜、タクシー乗車中に意識を失って病院に搬送されていた。
(共同通信 2022.02.05)
受験の緊張感、見事に表現
森永製菓
「~大丈夫。その緊張は、本気の証だ。~
『受験にinゼリー 2022』」
20年間、大学の教員として入学試験の監督をしたせいだろう。この季節になると、ふと思い出す光景がある。
試験会場の教室。一人の女子生徒が静かに手を挙げた。近寄って聞くと、ひどく気分が悪いと言う。保健室へと送ったが、結局、試験には戻れなかった。
翌年、入学式の会場で呼びとめられた。そこに昨年リタイアした彼女がいた。「去年は緊張し過ぎちゃいました」と笑う。
第二志望の大学に入ったが納得できず、再び挑戦して合格したそうだ。その後の4年間、充実した学生生活を送ったことを覚えている。
入試は誰だって緊張する。見上愛さんが演じる、森永製菓のCM「受験にinゼリー 2022」篇の主人公もそうだ。
受験当日、ロボットみたいにギクシャクと歩き、バス停で気を失ってしまう。車内でも手が震え、その影響でバスは大揺れだ。
しかし、大学の校門の前で、しっかり「inゼリー」を摂取。「大丈夫。その緊張は、本気の証だ。」のナレーションにホッとする。
確かに、受験では緊張を味方につけた者が勝つ。
(日経MJ「CM裏表」2022.01.31)
火曜ドラマ「ファイトソング」(TBS系)の注目ポイントは2つある。まず、ヒロインが民放ドラマ初主演の清原果耶であること。もうひとつが岡田恵和によるオリジナル脚本であることだ。
児童養護施設出身の木皿花枝(清原)は、空手の有力選手だったが挫折。さらに聴神経腫瘍で数カ月後の失聴を宣告される。
そんな花枝が、どん底状態のミュージシャン、芦田春樹(間宮祥太朗)と出会う。マネジャーから「恋愛でもして、人の気持ちを知りなさい」と言われた芦田は、花枝に交際を申し込む。
さらに同じ施設で育った夏川慎吾(菊池風磨)が花枝を好きで、その慎吾を施設仲間の萩原凛(藤原さくら)が好きだったりする。
この2人、自分の恋ごころにブレーキをかける姿がいじらしい。それがドラマ全体に漂う、もどかしさと切なさを倍加させている。
耳が不自由になる前の「思い出づくり」を決意する花枝。事務所解雇の期限が迫る芦田。互いに期間限定の「恋愛もどき」のはずだったが、芦田の解雇が早まったことで事態は急展開だ。
もともと“ピュア度”の高い清原だが、岡田が用意した「枷のある恋愛物語」は大正解。人を好きになることと、病を抱えたことで成長していく、難しいヒロインを丹念に演じている。
そして登場人物たちに共通の不器用な生き方を見つめる、岡田のまなざしが温かい。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.02.02)