碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「Times CAR」CMの高橋一生さん

2023年12月19日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

真面目と愉快のいいとこどり

パーク24 Times CAR 

「レール&カーシェア」篇

 

知っている人には当たり前のことでも、知らない人にとっては驚きの事実。最新のIT事情に限らず、そういう事態は珍しくない。

Times CARのCM「レール&カーシェア」篇に登場する、営業マンの高橋一生さんも同様だ。

得意先まで1時間。その後3軒回るので、当然のようにクルマを使うつもりでいた。ところが後輩の若手社員は「むしろ電車っすね」と言う。

「電車?」と聞き返す高橋さんに、「と、カーシェアです」ときっぱり。渋滞を回避できる電車と、行った先で何軒も回れるクルマを組み合わせると言うのだ。

しかも「まあ、いいとこどりっすね」と平然としている。「今って、そうなってんの⁉」と高橋さん。強烈な風を受けて、のけぞる表情が実に愉快だ。

言動は真面目なのに、どこかおかしみが漂う人物。そんな役柄に命を吹き込むのが高橋さんだ。

ドラマ「カルテット」のヴィオラ奏者も、映画「シン・ゴジラ」の文部科学省課長もそうだった。

今ごろ、どこかの街で効率的な訪問営業に励んでいるに違いない。

(日経MJ「CM裏表」2023.12.18)

 


【遙か南の島 2023】 ハワイアン・レイルウェイ、初乗車

2023年12月18日 | 遥か南の島 2023~2024

The Hawaiian Railway Society 

かつてのオアフ島では列車が走っていました。


【遙か南の島 2023】 12月のオアフ島「コオリナ」

2023年12月17日 | 遥か南の島 2023~2024

「あれから40年」という感謝の旅です。

 


【新刊書評2023】円堂都司昭『ミステリースクール』ほか

2023年12月16日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

円堂都司昭ほか:著、講談社:編『ミステリースクール』

講談社 3850円

古今東西の名作ミステリーを、テーマ別に解説する連続講座だ。たとえば吉野仁が選ぶ「冒険小説」は、ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』や志水辰夫『飢えて狼』など15冊。また「恋愛」の講師は吉田伸子だ。レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』、東野圭吾『容疑者Xの献身』などを紹介する。他に「本格」「翻訳」「警察小説」といった講座が並ぶ。全作品を読みたくなるので要注意だ。(2023.10.05発行)

 

宮城谷昌光『諸葛亮 上・下』

日本経済新聞出版 各1980円

漫画やゲームなどで若い世代にも人気の天才軍師・諸葛亮、字(あざな)は孔明。本書は8歳の少年時代に始まり、五丈原において54歳で病没するまでの軌跡を描く大河小説だ。「憧れをもつことだ。それは志とひとしくなる」という父の教えを守り、思想と行動の美しさを貫いた生涯。「天下三分の計」など多くの逸話が登場するが、ここにいるのは伝説の超人ではなく、生身の人間としての諸葛亮だ。(2023.10.18発行)

 

山田太一

『山田太一未発表シナリオ集~ふぞろいの林檎たちⅤ/男たちの旅路〈オートバイ〉』

国書刊行会 2970円

ドラマ『ふぞろいの林檎たち』が放送されたのは1983年。97年のパート4で幕を閉じた。本書には制作されなかった幻の続編のシナリオが収録されている。かつて大学生だった良雄(中井貴一)や健一(時任三郎)、そして実(柳沢慎吾)も40代になった。「人生ここ止まりじゃないのか」という焦りも感じながら、林檎たちは動き出す。さらに、本書では『男たちの旅路』の未発表作品にも逢える。(2023.10.20発行)

【週刊新潮 2023.11.30号】


【気まぐれ写真館】 2023年12月14日の夕景

2023年12月15日 | 気まぐれ写真館

 


【気まぐれ写真館】 2023年12月14日の多摩川

2023年12月15日 | 気まぐれ写真館

 


篠原涼子・山崎育三郎の「ハイエナ」 惜しかったのは2点

2023年12月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

篠原涼子・山崎育三郎

「ハイエナ」

惜しかったのは2点

 

先週、篠原涼子と山崎育三郎のダブル主演作「ハイエナ」(テレビ東京系)が幕を閉じた。

高卒で司法試験にパスし、裁判で勝つためには際どい手段も辞さない雑草系弁護士の結希凛子(篠原)。法曹界のエリート一家に生まれた、サラブレッド弁護士の一条怜(山崎)。

対照的な2人の生存競争と恋愛模様を描くドラマだ。原作は韓国ドラマで、脚本は篠原主演「アンフェア」などの佐藤嗣麻子が手掛けた。  

前半では裁判で敵対してきた凛子と一条が、後半では同じ大手弁護士事務所の中でタッグを組んだ。

2人が手掛けるのは、ITベンチャー企業の社長が、顧客の個人情報をアダルトサイトに流し、巨額の報酬を得たとして逮捕された案件だ。  

社長を告発した元社員の男性を調査し、女性社員のパワハラ自殺の真相を解明していく2人。

また同時進行で、かつて凛子と父親との間で起きた殺人未遂事件の謎も明らかになる。

そして凛子は再びフリーランスの弁護士へと戻っていった。  

篠原が演じるアウトロー感も山崎の純情感も、それぞれの持ち味を生かして悪くない。

ただ、惜しかったのは2点。

凛子の弁護士としての行動が、死肉をあさるハイエナにたとえるほど強烈ではなかったこと。もう一つは、全体として弁護士ドラマの醍醐味である法廷場面が少なかったことだ。

もし続編があるなら、一考してみていただきたい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.12.13)

 


【気まぐれ写真館】 じわじわと「年末気分」

2023年12月13日 | 気まぐれ写真館

 


【新刊書評2023】倉本聰『ニングル』ほか

2023年12月12日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

倉本   聰『ニングル』

理論社 2420円

ニングルとは、北海道・十勝岳の原生林に棲む、体長十数センチの「小さなヒト」。妖精ではなく先住民だ。著者は平均寿命二百七十年の彼らと出会い、話を聞くことになる。それは環境破壊をやめない人類に対する、強烈な「警告」だった。このノンフィクション小説の刊行は1985年。本書は新装復刻版だ。マウイ島の大火、記録的な猛暑などに遭遇した今こそ読まれるべき「予見の書」である。(2023.10.18発行)

 

岡本 仁『ぼくのコーヒー地図』

平凡社 2420円

著者はコーヒー好きの編集者。ただし「家ではコーヒーを飲まない」外飲み派だ。本書では記憶の中の「いい店」を紹介している。地元の人たちに混じってコーヒーを味わう、北海道の「六花亭帯広本店」。マスターのあっさりした接客が好きだという、京都・河原町「六曜社地下店」。東京ではベートーベンの胸像が店内を見守る「銀座ウエスト」などを挙げる。店を選ぶ時の大事な要素は安心感だ。(2023.09.25発行)

 

松岡 完『ケネディという名の神話』

中央公論新社 2090円

1963年11月、日米初の衛星中継が行われた。この時飛び込んできたのが、ケネディ大統領暗殺のニュースだ。あれから60年。人気は現在も続いているが、それは単に「指導者不在の時代」の偶像としてなのか。政治学者である著者は、ホワイトハウスへの道程や大統領としての光と影を検証することで、「神話」の実相を解明していく。その生と死だけでなく、死後までを丁寧に追った労作だ。(2023.10.10発行)

 

小竹雅子

『「市民活動家」は気恥ずかしい~だけど、こんな社会でだいじょうぶ?』

現代書館 1980円

著者は20代半ばだった1980年代に「障害児を普通学校へ」の活動に関わった。しかし、身近に障害児がいたわけはない。90年代には介護保険法の成立を目指す活動に参加。2000年代からは介護保険制度を考えるセミナーを実施してきた。当事者でも専門家でもない人間が、一人の「市民」として「制度」と向き合い続けた約40年。「活動家」の概念を変えてしまいそうな、市民活動エッセイ集だ。(2023.10.15発行)

【週刊新潮 2023.11.23号】

 


【気まぐれ写真館】 師走の「渋谷」界隈

2023年12月11日 | 気まぐれ写真館


週刊ポストで、『ブギウギ』の「師弟愛」について解説

2023年12月10日 | メディアでのコメント・論評

 

 

どんな苦難も乗り越える

『ブギウギ』師弟愛の

”仰げば尊し”

 

戦争の苦難にもがきながら、もっと大きなスター歌手になりたいと奮闘するヒロイン・スズ子(趣里、33)の瞳の先にはいつも師である羽鳥善一(草なぎ剛、49)がいる──。NHK朝ドラ『ブギウギ』で描かれるヒロインと天才作曲家の「師弟愛」が、とにかく素敵なのだ。

2人の師弟関係が強固になったのは、スズ子が1.5倍の給料を提示されたライバル会社への移籍騒動を乗り越えた時だ。“日本ポップス界の父“と称される作曲家の服部良一さんをモデルにした羽鳥は、「これを見ても君の心が変わらないなら仕方がない」とスズ子のために作っていた曲の楽譜を渡し、スズ子も師が手がけた歌を歌いたいという自分の思いに気づく。

メディア文化評論家の碓井広義氏が語る。

「大騒動を起こしてしまい、“自分には歌う資格がない“と落ち込むスズ子に羽鳥が『これからも人生にはいろいろある。まだまだこんなもんじゃない。嬉しい時は気持ちよく歌って、辛い時はやけのやんぱちで歌うんだ!』と語ります。

このセリフは、その時々の感情のまま歌って表現するというスズ子の原点を気づかせると同時に、“ショービジネスはそんな甘っちょろいものではないよ“とこの世界で生きる覚悟を伝える意味も込められている。羽鳥とスズ子の師弟愛が伝わる場面でした」

戦時下で自由に歌えなくなり思い悩むスズ子に対し、自らの信念を貫く歌手・茨田りつ子(菊地凛子)の公演のチケットを渡すなど、スズ子が奮起するような機会をさりげなくアシストするのも羽鳥だった。

切っても切れない

たまたま初回放送を観て『ブギウギ』にハマっているというお笑いタレントの村上ショージ(68)は、自身の師匠と重ねてこう振り返る。

「僕は20歳を過ぎて吉本に入り、ほんわかした雰囲気で優しそうだった滝あきら師匠に弟子入りを志願したんです。声を荒らげることもなく生き様も面白い人で、義理人情を大切にする師匠でした。飄々としていつも優しそうな表情を浮かべている『ブギウギ』の羽鳥さんに雰囲気が似ています。

ただ、羽鳥さんのように熱心に指導するタイプではなく、師匠は僕に対して『このネタ面白いか』とよく意見を求められました。面白くないなんて言えないからどんなネタにも『はい! 面白いです』と言うてましたら、師匠は舞台に出てスベっていました(笑)。僕の『スベり芸』は師匠譲りかもしれません」

スズ子と羽鳥のように、昭和の時代に師匠のもとで学ぶことができたのは幸せだったと村上は語る。

「今は若い芸人でも賞レースに出てドンと売れるし、ユーチューブなどで人気が出ればメシを食べていけます。師匠のもとで修業しなくても自力で道を切り拓けるのは悪いことではない。でも『弟子入りさせてください』と言ってくる若手もいなくなり、昔ながらの師弟関係がなくなったのは少し寂しいですね。

だからこそ『ブギウギ』で描かれる師弟関係は僕ら世代にどストライクで、お互いを認め合って高め合う2人を見ると、師匠とのことも思い出して温かい気持ちになります。僕には50過ぎた弟子もいますが、師匠と弟子というのは切っても切れない関係なんです」

分け合う関係

歌のレッスンは厳しくても、それが終われば羽鳥の家族とも一緒に楽しく食事をする。そうした師弟関係も描きたかったと『ブギウギ』制作統括の福岡利武氏は語る。

「スズ子が羽鳥の家で、彼の家族と食卓を囲むシーンも多く、2人はやがて家族ぐるみの付き合いになっていきます。昭和の時代は、そのような師弟関係は珍しくありませんでしたが、今の時代はなかなかないと思います。モデルとなった笠置シヅ子さんと服部良一さんは“純粋に良いものを生み出そう“という思いを共有している関係が素敵だなと思いまして、そのような関係性をドラマでも強調して描きたいと考えました」

ただし、令和の時代だけに、上下関係にある羽鳥とスズ子の描き方には注意を払ったという。

「ハラスメントに厳しい時代なので、台本を作る上で羽鳥の指導がパワハラに映らないように気をつけました。レッスン中に羽鳥が何度も歌の出だしをやり直させるシーンでは、『もう一度』と繰り返す草なぎさんの芝居がどこかコミカルでしたし、スズ子が追い詰められるような描き方にならないようにしました」(同前)キーマンとなる羽鳥役を草なぎに託したことで「嬉しい誤算」もあったと福岡氏は続ける。

「僕は大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)でも草なぎさんとご一緒していますが、その時、草なぎさんが演じたのは“最後の将軍“徳川慶喜で複雑な感情を抱える難しい役柄でした。一方、撮影現場でお話しすると、草なぎさんご自身が持つ明るさが素敵だなと思っていました。

『ブギウギ』のキーマンである羽鳥は、音楽への純粋な思いを持ち、戦時下でも明るさを失わない前向きなキャラクターにしたかった。それで草なぎさんがピッタリだと思い、オファーしました。実際に草なぎさんの芝居を見ると、こちらが想像していた倍以上に明るく前向きな羽鳥を作り上げていただいたのは嬉しい誤算でした」

前出の碓井氏が言う。

「将棋の藤井聡太八冠の師匠である杉本昌隆八段は『師匠は技術や魂を弟子に伝承し、弟子はひたむきさを師匠に伝える。その姿を見て師匠は刺激を受ける』と語り、こうした師弟関係を“分け合う関係“と表現していました。

ならば、スズ子と羽鳥の関係も“分け合う関係“という表現がしっくりきます。男女という枠を超えて、音楽で結びつき、互いのひたむきさから刺激や励みを分け合っている。そうした理想的な師弟関係が、視聴者の胸に響くのでしょう」

師匠の厳しくも温かい愛を糧に、スズ子はスターダムへと駆け上がる。

(週刊ポスト 2023年12月15日号)


『二人の美術記者 井上靖と司馬遼太郎』の書評、地方紙に掲載

2023年12月10日 | 書評した本たち

 

共同通信を介して、

『二人の美術記者 井上靖と司馬遼太郎』の書評が

各地の地方紙に掲載されました。

 

 

亡びないものへの希求

ホンダ・アキノ:著

『二人の美術記者 井上靖と司馬遼太郎』

評・碓井広義(メディア文化評論家)

 

作家の井上靖が亡くなったのは1991年。5年後の96年、司馬遼太郎が世を去った。しかし長い年月を経た現在も2人の作品は書店に並び、読まれ続けている。

そんな彼らには意外と知られていない共通点があった。作家として独立する前、新聞社の「美術記者」だったという経歴である。

本書の出発点となる問いは次の通りだ。「美に出会い、接した日々は、のち小説家となった二人にとってどんな意味をもったのか。生きている限り、常に人とともにある芸術とはいったい何なのか」。著者はそれぞれの歩みと作品を丹念にたどり始める。

興味深いのは美術記者に対する思いが異なることだ。京都大大学院で美学を学び、一時は美術評論家を目指した井上。積極的に仕事と向き合い、作家になった後も美術と密な関係を結んでいった。

司馬は社会部から文化部へと異動して美術担当を命じられた時、自分は何のために新聞記者になったのかと落胆したそうだ。

とはいえ、美術理論を学んだり、画廊や美術展を熱心に回ったりした経験は貴重な財産として蓄積されていく。司馬もまた生涯を通じて美術に寄り添い続けた。

芸術家に対する嗜好(しこう)にも違いがある。井上が最も傾倒したのはゴヤだった。「無比の冷酷さ」で物を見るリアリストぶりに強く共鳴したのだ。

一方、司馬が夢中になったのはゴッホである。ただし、井上はゴヤの成した仕事に憑(つ)かれたが、司馬はゴッホという人間に惹(ひ)かれたと著者は言う。両者の文学観にも通じる重要な指摘だ。

本書では2人が宗教記者だったことにも注目する。かつて僧侶の試験を受けた井上の「敦煌」。高野山で出家を考えたことがあった司馬の「空海の風景」。美術と仏教は「亡(ほろ)びないもの」への希求という意味で共通するのかもしれない。

井上にとっての美は「自分に引き寄せて永遠をみせてくれる」ものであり、司馬にとっては「人間とその精神を考えさせる」ものだった。(平凡社・2640円)

ほんだ・あきの 大阪府生まれ。新聞記者や出版社の編集者を経てフリーとなる。

(河北新報 2023.11.26)


めでたし めでたし

2023年12月09日 | 日々雑感

2023.12.09


言葉の備忘録344 人生は・・・

2023年12月09日 | 言葉の備忘録

 

 

 

人生は、

やってみなければ分からない実験だ

ということです。

その極意は、

最初から決まった

ゴールや答えを求めないこと。

そう考えると、

人生が楽しくなります。

 

 

和田秀樹 「笑う門にボケはなし」

日刊ゲンダイ(2023.11.30)

 

 

 


【新刊書評2023】泉麻人『昭和50年代東京日記』ほか

2023年12月08日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

泉 麻人『昭和50年代東京日記~city boysの時代』

平凡社 2420円

1970年代や80年代には何らかのイメージが浮かぶ。しかし「昭和50年代」となると、どこか心もとない。著者にとっては1975年の大学入学で始まり、社員編集者を経て退社に至る10年間だ。本書に登場するのは雑誌「宝島」、荒井由実、村上龍、つかこうへい、ウオークマン、田中康夫、ザ・ぼんち、「愛のコリーダ」、東京ディズニーランドなど。個人史であると同時に若者文化の同時代記録だ。(2023.09.20発行)

 

本の雑誌編集部:編

『本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎』

本の雑誌社 3300円

今年1月に76歳で亡くなった目黒考二。椎名誠とともに「本の雑誌」を創刊したのは1976年だ。編集者で読書家の目黒はまた、文芸評論家・北上次郎であり、競馬エッセイスト・藤代三郎でもあった。本書は3人のメモリアルブックだ。当人たちの傑作選だけでなく、多彩な執筆者による追悼文や回顧の座談会が並ぶ。何よりも本を読むことが好きで、ひたすら本について書き続けた男の後ろ姿に合掌。(2023.09.25発行)

 

朝日新聞将棋取材班『藤井聡太のいる時代 最年少名人への道』

朝日新聞出版 1650円

10月11日、藤井聡太は王座を獲得すると同時に史上初の「八冠」を達成した。本書は今年6月に名人となるまでの軌跡を追った同時進行ドキュメントだ。谷川浩司との「新旧天才の激闘」。最年少で手にした初タイトル。巨星・羽生善治との「大一番」。そして名人位への挑戦。「なぜ、ここまで強くなったのか」の謎を探り、藤井が見せる「将棋の奥深さと人間の可能性」にまで迫っていく。(2023.09.30発行)

 

花村萬月『たった独りのための小説教室』

集英社 2200円

小説指南の書物は数多い。しかし現役作家がここまで本気で、そして本音で語ったものは珍しい。曰く「オチ、いらないんですよ」。なぜなら虚構が本来孕む「整合性」が結末をつけてくれるからだ。排除すべきは詐欺的な「偶然」だという。また必要なのは文章のセンスではなく、虚構をつくりあげるセンス。必須なのは「書くことがある」ことだと説く。安易に小説家を目指してはいけない。(2023.09.30発行)

【週刊新潮 2023.11.16号】