【経営コンサルタントのお勧め図書】「日本経済大復活」!? 新冷戦の勝者になるのは日本 2309
経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。
幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。
それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。
■ 今日のおすすめ
『新冷戦の勝者になるのは日本』
(中島 精也著 講談社α新書)
■『「冷戦」「ポスト冷戦」から「新冷戦」へ』とは(はじめに)
『「冷戦」「ポスト冷戦」を経て「新冷戦」へ』を辿ってみましょう。注目点は、「新冷戦時代」にこれから起こることは、「ポスト冷戦時代」の揺り戻しだからです。
【冷戦時代を振り返ってみよう】
「冷戦時代」とは、簡単に言えば、アメリカを代表とする資本主義・民主主義の国が、共産主義・社会主義圏の拡大を防ぐために「封じ込め」る一方、ソ連や東ヨーロッパ諸国が、共産主義・社会主義を守るために、独裁的な支配を強め、資本主義国とは接触しないよう「閉じこもった」時代と言ってよいのではないでしょうか。
「冷戦時代」は1945年2月の『ヤルタ会談』(ルーズベルト、スターリン、チャーチルによるドイツの東西分割を決定)に始まり、1961年8月に築かれたベルリンの壁が、1989年11月、ライプチヒのニコライ聖堂を起点とする50万人の市民革命に端を発する市民蜂起により崩壊し、そこから1か月後、ブッシュとゴルバチョフが地中海のマルタ沖のクルーズ線上で「世界は一つ」「東西関係の持続的共同関係」を確認した『マルタ会談』で終結します。
冷戦終結(非共産化)を時系列でみると、東欧諸国(ポーランド、ハンガリー、ブルガリア、チェコ・スロバキア、ルーマニア)は1989.6~1989.12、バルト3国は1990.3~1991.8、東西ドイツ統一は1990.8、ソ連解体・崩壊は1991.12、バルカン半島東欧諸国(ユーゴスラビア、アルバニア)は1991~1992となります。
中国における東欧革命の民主化ドミノは、政治的自由を主張した胡耀邦総書記の死去の追悼集会(1989.4.15)への抑圧を契機に、1989年6月4日天安門事件が起きます。しかし、武力で制圧され共産党政権は堅持されます。この結果、鄧小平路線はさらに「社会主義市場経済」として強化され、中国は「民主化なき経済大国」へと向かっていくこととなります。
【「ポスト冷戦時代」に起こった事と、「ポスト冷戦時代」の終わり】
「ポスト冷戦時代」とは、資本主義・民主主義vs共産主義・社会主義のイデオロギー対立が終わり、東西冷戦で閉ざされていた東側の労働力や資源が西側に開放され、逆に西側の技術とマネーが東側に開放された結果、世界経済はBRICSを代表とする新興国の高成長と先進国の低インフレを象徴とする時代と言えます。
これを象徴するのが、アメリカの所謂「ラストベルト」であり、日本をはじめとした先進国における「産業の空洞化」です。
「ポスト冷戦時代」に起こったことを挙げてみましょう。
¨ 生産要素の最適化を実現するグローバル・サプライチェーンの構築の進行と構築のための投資の増加、西側の技術による生産性の向上と安い労働力と人口ボーナスを武器とした中国とインドの高成長。
¨ 日本、アメリカにおける製造業の「雇用の減少」(米国1990⇒2022・▼28%、日本92⇒21・▼34%)。
¨ 冷戦時代の軍事研究の成果を生かしたIT革命とサービス化に成功したアメリカの賃金上昇(90⇒22・2.7倍)と後塵を拝している日本の賃金低迷(92⇒22▼3.3%)。
¨ 天然資源に関するドイツ・欧州のロシア依存の高まり。
ポスト冷戦の終わり、つまり新冷戦の始まりは、2017年10月の中国の習総書記第二期政権の始まりの第19回共産党大会における「2049年を目標年とする『社会主義現代化強国(世界覇権掌握)』宣言」と言われています。
露骨な挑戦状を突き付けられたアメリカのトランプ政権の対応は、2018年10月のペンス副大統領のハドソン研究所における「武力を伴わない対中宣戦布告『新・鉄のカーテン』」演説に現れています。2018年7月には、対中関税引き上げを行い「米中貿易戦争」「米中デカップリング」が始まったのです。
これに拍車をかけたのが、コロナとウクライナ戦争です。コロナにより中国の絡むグローバル・サプライチェーンのモロさが露呈し、ウクライナ戦争ではロシアの経済安全保障上のリスクが顕在化し一挙にポスト冷戦が崩壊したのです。
【「新冷戦時代」に起こる変化は?】
ソ連崩壊で始まったポスト冷戦時代は30年を経過して幕を下ろし、民主主義と専制国家の2つのブロックに分断される「新冷戦時代」に突入します。
「新冷戦時代」には、ポスト冷戦時代に起きたことの巻き返しが起こります。グローバリゼーションの巻き戻しにより、労働力、天然資源などの全ての生産要素価格が上昇し、ポスト冷戦時代のデフレ経済からインフレ経済に逆戻りします。
コロナと専制国家の強権の横暴によりモロさを露呈したグローバル・サプライチェーンを見直し、リ・ショアリング(国内回帰)、ニア・ショアリング(近隣友好国への工場移転)、フレンド・ショアリング(米提唱のIPEF。同盟国や友好国間に限定した新たなサプライチェーン)が本格的に始まっています。
「新冷戦時代」に起きている、フレンド、ショアリングから排除されるなど内憂外患の中国、中露に依存した経済の崩壊を抱える欧州、ウクライナ戦争で疲弊するロシア、ITや基軸通貨など引き続き優位性を維持するアメリカ、など世界情勢は大きく変化しています。詳しくは紹介本をお読みください。
日本についての、「新冷戦時代」に起こることについて、次項で記してみたいと思います。
■「貧しい国」から脱却し「豊かな国」に向かうロードマップ
【目指す賃上げの水準ー年率4.2%以上-】
著者は2種類の賃上げについて言及しています。
一つがベース・アップ(含む初任給アップ)です。人口減少を考慮した場合、貧困化しないためには、2022年のGDPを生産年齢人口で割った一人当たり労働生産性(742万円)を2022年のGDPを2060年の生産年齢人口で割った一人当たり労働生産性(1,258万円)まで高め、GDPを2022年レベル以上とする必要があり、その為には、毎年、年率+1.4%以上〔注3〕のベース・アップと生産性の向上が必要とします。
二つ目は定期昇給です。給与の上昇は52歳まで上昇し、年率+2.8%です(全国平均。厚労省データ)。この部分の企業の総支給額は変わりません。定年制により入れ替わるだけで企業視点での支給総面積は不変だからです。
この二つを合わせると+4.2%です。これに実質賃金をマイナスにしないためにはインフレ率の上乗せが必要です。日銀が目指すインフレ目標2%を考慮すると+6.2%になります。
〔注3〕著者は+1.4%の数字を算出する前提として、2060年の生産年齢人口を4,418万人(社会保障・人口問題研究所2012年1月推計〈出世中位、死亡中位〉)を使っています。2023年4月推計の5,078万人を使うと+1.1%となります(筆者コメント)。
【一人一人の行動で、給料を上げよう―従業員として取るべき行動―】
著者は日本以外の多くの国で給与水準が上がっているのに対し、日本では30年間ほとんど上がっていない理由を2つ挙げています。一つは一人当たりの付加価値つまり労働生産性がほとんど上がっていないことです。二つ目はOECDの国では7割以上の労働者が給料を上げてもらう給料交渉をしますが、日本では給与交渉をする労働者は3割に止まっています。
著者は、日本でも「1年に1回、経営者と社員がひざ詰めで面談し、従業員側の希望・要望・不満を聞き取り、給与の妥当性についても意見交換をすべき」と強調します。
これからの人口減少時代には、給料を上げられない企業は、労働者から選択されず、雇用を確保できなくなると指摘します。経営者も労働者も給料を上げ続けることが出来る企業に変革する行動と実現を、真剣に求めていくべき時代なのです。
【従業員から「見限られる社長」ではなく「ついていくべき社長」になる
-経営者のとるべき行動ー】
上述のとおり「労働者から選択される」企業でなければ、雇用を確保できない時代であることを認識し、経営者としての在り方を「ついていくべき社長の5つの特徴」として提言しています。是非、紹介本をお読み下さい。
【より付加価値の高いものをより高く売るー経営者、従業員の共通の行動-】
経営者・従業員の共通課題は付加価値の向上です。給料の引き上げ以上の付加価値を生み出すことが必須です。「より付加価値の高いものをより高く売る」を常に考え、行動・実現していくことが必要です。真剣に取り組めば、必ず結果が出ます。
■「新冷戦時代」に日本で起こること
【「ポスト冷戦」時代に日本で起きたこと。】
バブル崩壊とほぼ同時に起きた日本のポスト冷戦は、金融危機とバランスシートの悪化に伴うデフレ、異常な円高(ピークは2011年10月:1ドル75.32円)、グローバル化に伴う産業の空洞化の三重苦でした。
【「新冷戦時代」に起こること、「日本大復活の時代」がやってくる?‼。】
「新冷戦時代」の象徴的出来事として、著者は、台湾TSMCの熊本進出による、熊本の「日本のシリコンバレー」化を挙げている。
熊本の状況を見乍ら、著者は「日本経済大復活」の条件が整ったとして、次の4つの事項を挙げます。
¨ 専制国家と民主主義国家の間のブロック化が進行し、世界の生産要素の供給と価格が大きく変わり、専制国家有利・日本不利から専制国家不利・日本有利へと、オセロゲームの様に、ひっくり返る。その例がフレンド・ショアリング・サプライチェーンです。日本が信頼されるパートナーとしてサプライチェーンの一角を占めます。
¨ 先端技術競争では、半導体製造技術、医療などの精密機械、工作機械など国際競争力を有する技術が多い。
¨ 嘗て、日本企業を苦しめた円高は終了し、賃金格差も縮小し、経済安全保障の面からもリ・ショアリングが進み、国内産業復活の条件が整った。
¨ バブル崩壊で悪化したバランスシートが著しく改善し、賃上げの条件が整った。
■「日本大復活」のチャンスを生かすには!(むすび)
「日本大復活」は自然とはやって来ません。著者が指摘するように、安倍政権が努力するも達成できなかった、農業・医療・教育・労働・エネルギー等あらゆる分野における、効率と競争力を上げる構造改革が必要です。
また、著者が“戻りつつある”と指摘する「未来の日本の大復活」に向けた、経営者及びビジネスパーソンの、アニマル・スピリッツを一層高めようではありませんか。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/
http://sakai-gm.jp/index.html
【 注 】 著者からの原稿をもとに、できる限り忠実に掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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