内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

具象的であるとはどういうことか ― ピエール・フランカステル『芸術と技術』に事寄せて

2017-06-11 23:59:59 | 講義の余白から

 この夏の東京での集中講義のテーマについては二月八日の記事で紹介した。今日は、その講義の準備の一環として、ピエール・フランカステル(Pierre Francastel, 1900-1970)の Art et technique aux XIXe et XXe siècles, Gallimard, coll. « Tel », 1988 (la première édition, Éditions de Minuit, 1956) を読んでいた。芸術社会学の創始者の一人であるフランカステルの諸著作は、その分野で今日もなお必読文献であるから、やはり読んでおかなくてはならないからだ。
 現代芸術を語るときに、抽象と具象とはあたかも自明の対概念のように使用されることがある。しかし、実は、この対概念をどう定義するかということが現代芸術の問題であることがフランカステルを読むとわかる。
 例えば、フランカステルは、symboliquefiguratif とを次のように定義する。

Symbolique, c’est substitut, équivalence, allusion, signe conventionnel et qui peut être arbitraire d’une chose. Figuratif, implique l’existence de certaines relations de structure ou de disposition entre le système de signes qui représente et l’objet représenté. On ne saurait faire de l’art la traduction fragmentaire d’un réel donné ; l’art n’est pas seulement un symbole, il est création ; à la fois objet et système, produit et non reflet ; il ne commente pas, il définit ; il n’est pas seulement signe, il est œuvre — œuvre de l’homme et non de la nature ou de la divinité (op. cit., p. 14).

 フランカステルは、figuratif という語を、いわゆる「具象的な」という狭い意味に限定するのではなく、一方で、その指示対象を可能な限り拡張しながら、他方で、できるだけ明確な定義を与えようとする。フランカステルにおいて、具象的であるということは、表象に用いられた記号の体系とそれによって表象された対象との間に或る構造的・配置的関係があることを含意している。
 芸術は、与えられた現実の断片的で恣意的な翻案ではない。芸術は、ただの象徴ではない。それは創造なのだ。芸術は、考察の対象でありながら、それ自体で一つの体系を形成しており、それ自体が生み出されたものであって、何かの単なる映しではない。芸術は、評釈することではなく、定義するものだ。芸術は、単なる記号ではなく、作品である。人間の作品であり、自然や神性の賜物ではない。
 この定義に従えば、「具象的」作品とは、現実世界の中で他のシステムと関係を構築しつつ、それ独自の形の世界を形成するもののことだということになる。