今年の一月にPUFからベルクソンのコレージュ・ド・フランス講義の第二冊目 L’évolution du problème de la liberté が出版された。第一冊目として昨年出版された Histoire de l’idée de temps. Cours au Collège de France 1902-1903 については、今年の二月四日の記事で取り上げた。
この第二冊目は、1904-1905年度に行なわれた講義の筆記録である。一冊目同様、講義に出席できないシャルル・ペギーが雇ったプロの速記者二人による記録であるから、実際の講義内容に忠実であるばかりでなく、ベルクソンの語り口をかなり正確に再現していると考えることができる。おそらくは入念に準備してあったであろう自身の講義ノートの表現がそのまま口頭で一気に読み上げるには長過ぎると判断したときは、途中で文を切って、言い直しているところも所々に見られ、ベルクソンの息遣いが感じられて興味深い。
この講義は、ベルクソンがコレージュ・ド・フランスで近代哲学史を初めて担当する年の講義である。前任者は、最近また注目され直している哲学者・社会学者のガブリエル・タルドである。前年までの四年間、ベルクソンの担当は古代哲学史だった。
近代哲学史の最初の講義の主題として「自由の問題」を選んだのには、ベルクソン自身の哲学の最初の大きな主題に立ち戻り、それを古代から近代までの哲学史の流れの中に位置づけるという意図も働いていたことであろう。しかし、この講義と並行して書き進められていた『創造的進化』(1907年刊行)の内容に対応しているところもあり、さらに驚くべきことは、三十年近く後に出版される『道徳と宗教の二つの源泉』(1932年)の内容を先取りしているところもあることである。
ベルクソン哲学の気鋭のスペシャリストの一人である Arnaud François が本書の校訂を担当し、簡にして要を得た解題を書いている。ただ、ちょっと残念なことに、索引に不備がある。これは、目次がただ講義の回数と日付を示すだけの簡単なものでそれを見ても各回の中身が一切わからないだけに、なおのこと残念である。プラトンとカントとは問題の内容からして当然のこととしてかなり頻繁に名前が出て来るし、特に両者それぞれの自由論を立ち入って考察している箇所もあるのに、索引に両者の名前がないのである。仕方ないから自分で調べて巻末にポストイットで頁数を貼り付けておいた。まだ見落としもあるだろうけれど、プラトンの名が出てくる頁は49頁あり、カントは39頁(同一頁何回も出てくる場合もある)。
明日の記事では、講義第一回目の終わりに見られるベルクソンによる哲学史の哲学について少し話題にする。