内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「日本人とは誰のことか」― バカロレア筆記試験答案採点を終えて

2017-06-26 18:09:34 | 雑感

 今朝、ストラスブール大学区の事務局にバカロレアの日本語筆記試験の答案を取りに行き、帰宅してすぐに採点開始、昼過ぎには採点終了、点数をネット上で入力して作業完了。答案はたった五枚だから、ほとんど苦にならない作業だった。
 答案の枚数が桁違いに多い科目を採点する先生たちは大変である。例えば、一昨日パリでの研究発表を終え、帰路東駅に向うメトロの中で途中まで一緒だった高校の哲学教師の知人は、数日間で八十五枚の答案を採点しなくてはならないと言っていた。ほんとうにご苦労なことである。哲学は、文系理系を問わずすべての受験者にとって必修科目だから、高校の哲学教師の方たちは毎年この時期総動員で採点に取り組んでいる(Bon courage !)。
 さて、日本語の試験問題であるが、出題形式は毎年ほぼ一定していて、同じテーマについてA4一頁ほどの日本語のテキストが二つが与えられる。問題は大きく二部に分かれる。第一部では、それらのテキストの内容の理解度を試す日本語の設問九~十一題に対して簡潔に日本語で解答することが求められる。第二部は、テキストの内容を踏まえた設問に対して二百字から三百字で自分の考えをまとめるミニ小論文。配点はそれぞれの部に十点ずつの二十点満点。
 日本語を第一外国語として或いは第二外国語として選択するかによって問題の内容もレベルも当然異なる。さらには高校での履修コースによって設問に若干の選択肢がある。
 今年の第一外国語としての日本語筆記試験のテキストは、一昨年のミス・ユニバース世界大会の代表に選ばれた宮本エリアナさんについての新聞記事からアレンジされたテキストと、彼女に対する日本のメディア並びに日本人一般の当時の否定的な反応に対する批判的は文章からの抜粋。
 これらのテキストを読ませ、いわゆる「日本人」たちがなぜハーフの彼女が代表になったことに対して否定的な態度を取ったのかを考えさせ、小論文では、「日本人はこれから考え方を変えていかなければならないのか」と問う。もう一つ設問があるのだが、これは実にありきたりでつまらない問題だった(受験者にしてみればとても解答しやすい設問だと言えるが)。
 今や、日本でも、芸能界ばかりかスポーツの世界でもハーフたちの活躍は実に目覚ましいものがある。これからも国際結婚は増え続け、ハーフたちも増え続けるだろう。フランスに比べればその数ははるかに少ないとはいえ、この趨勢から「日本人」の再定義が求められることはほぼ必然的であり、今年のバカロレアの問題は、日本人こそがよく考え、議論すべき問題であると言うことができるだろう。