内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

天体から地上の身体へ ― 古代日本の一詩人によって読み解かれた天からのメッセージ (5)

2018-03-21 00:00:00 | 哲学

第三歌群 ― 二声からなる四首対称歌群(1523-1526)

 憶良七夕歌の次の歌群は四首からなり、それら四首間には複数の内的共鳴を聴き取ることができる。

秋風の 吹きにし日より いつしかと 我が待ち恋ひし 君ぞ来ませる (1523) 

天の川 いと川波は 立たねども さもらひかたし 近きこの瀬を(1524)

袖振らば 見も交しつべく 近けども 渡るすべなし 秋にしあらねば(1525) 

玉かぎる ほのかに見えて 別れなば もとなや恋ひむ 逢ふ時までは(1526)

 この四首は、織女と牽牛との二声からなり、〈女-男-男-女〉という対称性を成している。
 第一首と第四首との間には、待ちに待った再会の歓喜と、束の間の逢瀬の惨酷さ・心を引き裂かれるような不可避の別離ゆえの深い悲しみとの対比が見られる。
 織女の声による第一首と第四首とが深い悦びと悲しみの感情を表現しているのに対して、牽牛の声による第二首と第三首とは、感情的表現を排し、一種の諦観的観察を表現している。一切の個別的意志を超越する天帝による禁止命令のゆえに乗り越え不可能な障害として物理的には短い距離が二人の間に立ちはだかっていることを二つの異なった表現によって繰り返している。第二・三首は、かくして、渡河を容易にし、互いに対岸の相手が見える良好な視認性を保証するはずの距離の短さにもかかわらず、個人の意志によっては乗り越え不可能なものを強調している。
 この四首の歌群内には明らかな対比表現が見られる。第一・四首間では、「我が待ち恋ひし」と「もとなや恋ひむ」とが対比され、第二・三首間では、「さもらひかたし近きこの瀬を」と「近けども渡るすべなし」とが対比を構成している。