昨日の記事で一言言及した Lynn Hunt の History. Why It Matters, Polity, 2018には日本語訳があるが、アマゾンのレヴューによると訳が相当にひどい代物らしい。ここまで酷評されているのも珍しいことで、それらすべてが無根拠な誹謗中傷ばかりとも思えない。わざわざ自分で確かめて見る気にはなれないが、原本が良書なだけに残念なことだ。
本書巻末の読書案内 Further Reading には十三冊の本が挙げられている。それぞれに簡潔な紹介文が付いている。その筆頭に挙げられているE. H. カーの『歴史とは何か』は次のように紹介されている。
Although already forty years old in 2001 when it was republished with a new introduction, Carr’s little book is still one of the liveliest and most provocative introductions to historical study. It is especially noteworthy for its discussion of causes, progress, and the slippery nature of facts, but best of all it is a delight to read.
カーの本の後に四冊入門書として紹介されている。そのうちの一冊、Sarah Maza, Thinking about History (University of Chicago Press, 2017) はこう紹介されている。
Carr provides a great introduction but this book brings him up to date. The author succeeds admirably in explaining the stakes of current controversies about history and the wide range of new approaches, from the history of science to the history of things. It also gives a very good sense of specific authors and their books.
さっそく電子書籍版を購入して少し読んでみた。大学で歴史を学ぼうとする学生たちが主な読者として想定されているようだ。歴史を学ぶにあたってまず向き合うべき根本的な問いが順序立てて実に懇切丁寧に考察されている。
歴史とは何か、学としての歴史の対象は何か、歴史的事実とは何か、歴史は誰のことが誰のために書かれているのか、歴史はどのようにして書かれるのか。これらの問いを素通りして歴史を学ぶことは、あたかも泳ぎ方を知らずに海に飛び込むような無謀なことなのだと思う。歴史を学ぶ大学生に限られた話ではない。これらの問いに向き合うことなしに、歴史について何を知っていると言えるのだろうか。