今日の記事のタイトルはやたらと大げさなのであるが、実際の話題は小さい。
アラン・ド・リベラ(Alain de Libera, 1948-)というフランスの中世哲学の碩学に Penser au Moyen Âge, Seuil, 1991(邦訳『中世知識人の肖像』新評論、1994年)というとても刺激的な著作がある。出版当時支配的だった中世知識人のイメージを覆そうとする野心作である。その支配的なイメージの形成にあずかって力のあったジャック・ル・ゴフ(Jacques Le Goff, 1924-2014)の『中世の知識人』(Les Intellectuels au Moyen Âge, Seuil, 1957)を真っ向から批判している。ときどき思い出したように取り出してはところどころ読む。
出版当初から随分評判になった本で、ポッシュ版になってからも随分版を重ねているようで、私が持っている版(いつ買ったか覚えていない)には印字がかすれている箇所がある。最新のポッシュ版は表紙が変わっている。それで新版かと思ったら、ただ表紙を変えただけで中身はそのまま、さらに印字が薄くかすれも目立つ。それでなくても文字サイズ小さくて読みにくいのにと少し腹が立った。
版を組み直せばそれだけ出版に金がかかるのはわかるが、ここまで傷んだ版をそのまま消費者に売りつけようというのが気に入らない。気に入らないのなら、買っていただかなくて結構ですというのが出版社の姿勢であろうか。
これは商業道徳に反する、と言えば、唐突な飛躍で、大げさにすぎるであろうか。
「商業道徳」を和英辞典で調べてみたところ、business ethics となっている。ところが、この英語は「企業倫理」「経営倫理」とも訳されることがあり、使用頻度はこちらのほうが高そうである。
商業道徳と企業倫理(経営倫理)との違いはどこにあるのだろう。専門的な定義はわからないが、個人的な語感として、前者は、商売において売り手が顧客に対して遵守すべき具体的なルールを指し、後者は、企業の対社会的な善悪の判断基準の原理とその現場での適用に関わるように思われる。「企業倫理」はコンプライアンスの訳としても使われることがあるらしい。