昨日の日本からフランスへの復路は北方航路だった。ウクライナと交戦中のロシア上空を飛行することを避けるためである。往路は同じ理由で南方航路。中近東諸国と中国上空を通過した。13時間以上かかった。復路の予定飛行時間は当初15時間15分となっていたが、機内でのアナウンスによると13時間48分。実際はほぼ14時間だった。通常(もう何が通常なのかわからなくなってきたが)、パリ‐東京間は12時間前後である。気流や天候によっては11時間を切ることもあった。
最近の航空運賃の急激な高騰の大きな要因はこの飛行距離の延長にある。燃料費がそれだけかかるのだから航空会社に文句をいってもしかたがない。全般的な物価高騰を引き起こしているウクライナでの戦争の影響はここにも表れているということである。今回利用したJALの運賃(以前はエールフランスをよく利用していたが、コロナ禍中の実に不愉快な対応ゆえに今後一切使用しないと決めた)は、通常の平均的運賃の1,5倍であった。
昨日の航路は、通常航路(本州を横断して日本海側に出て、中国、ロシア上空を通過)を回避するため、本州に沿って太平洋上を北上し、北海道を通過したところで北東に進路をとり、ベーリング海上を北上、ロシア海域を越えたところで西方向に旋回、北極海域を延々と西に向かって航行した。スカンジナビア三国よりもさらに西側のノルウェー海上で南に旋回、英国を北から南へ縦断し、英仏海峡を越え、フランス本土へと南下した。
北極圏域を上空から見下ろしたのはこれが初めてだった。果てしなく広がる雲海と見紛う永久凍土地帯の白く光る光景は神秘的でさえあり、鼻を窓につけるようにしてしばらく見入っていた。しかし、胸を突かれたのは、凍土が溶け、茶黒い地表が露出しているところ、海氷が融解し散乱したガラスの破片のように海中に流出しているところが見られたことであった。すべてがそうではないにしても、その露出と融解の主要な原因は地球温暖化である。人類の蛮行による痛々しい地球の傷口を見る思いであった。
他人事ではない。飛行機という現代文明の利器を利用することで、私もまた、己自身がそこで生まれたガイアを傷つけ破壊し続ける文明の恩恵を被り、そのことで破壊に荷担しさえしている一人であることを、今更のように、痛切に思い知らされた復路であった。