「あらかじめ決められた事だけじゃなくて、面白いアイデアがあればなんでも言ってくださいね」
山形駅に到着後、バスガイドさんにお会いしてすぐにそう言った。すると、経験豊かなガイドさんが「羽黒山の五重塔、お聞きしている予定では駐車場から往復になってますけど、上から降りてくるのはどうでしょう。下りならだいじょうぶじゃないですか?無理な方は車で行っていただくことにして」とおっしゃる。
羽黒山の国宝・五重塔のある石段が急で長いのはあらかじめ知っていた。 なので、ここは五重塔だけ見て、上の本宮まではバスで行く事にしていたが、そうか、上から降りてくる手があったか。
しかし、全部で何段あるのでしょう?
「二千四百四十六段です」とさらっとお答えだったので、皆さんついつい?歩くことにしたのだった。「バスで行く方は、運転手さんが五重塔まではお連れしますよ」とガイドさんが何度もアナウンスするが、みんさんすでに降りる気満々。
実際に降りはじめると、杉木立の中に延々と続く石の階段はそれを踏みしめてこそ味わい深い。「歩くことを選択してよかった」と、誰もが思った。
※下の写真は登ってゆく人を振り返って見上げた図↓
石段は江戸時代はじめに整備され、およそ三百五十年をもつ。杉木立も同様だ。一朝一夕でこの雰囲気にはならない。さすがフランスのガイドブック「グリーン・ミシュラン」の三つ星。
梅雨の真っ只中だが、幸い雨ではない。紫陽花のおだやかな水色が目に優しい 「石段のところどころに、とっくり、杯、ひょうたんが刻まれていて、これを三十三見つけると願いがかなうと言われているんです」とガイドさん。分かりやすい場所にあるものは、すぐに見つかった↓
しかし・・・二千四百段以上というのは、さらっと言われてさらっと歩ききるには、けっこうな距離だったと、あとから足が理解し始める。距離は1.7㎞。ほぼずうっと石段。あの「山寺」の石段の倍あるというのは、あとから知らされた。
「あ~休憩~!」
しんがりを務める小松も一緒にきゅうけい~(^^)。この石段を歩く人はそう多くはないから、立ち止まれば周囲は静謐な空気が流れる。足元ばかり見ているのはもったいない。振り仰げば、時間そのもののようにまっすぐ延びる杉の巨木たちが見下ろしている。
この石段「下り」は、「疲れたから止めて途中で引き返す」というのできない。だって、引き返すというのは、またこの急な石段をまた登ることを意味するのだから。
茶店を横に見ながら二の坂・一の坂と過ぎると、こんな看板が目についた↓
なんと!この場所には大きなお寺があったとうのだ。今はうっそうとした木々に埋もれる一角に赤い小さな鳥居があとから建てられているだけ。明治の廃仏毀釈で取り壊された寺は、こういう名刹であればそれだけ多かった筈である。そこで、どんなドラマがあったのか、我々はなかなか知る事ができないのだが。
突然、五重の塔の前に出る。高さ二十九メートルは、杉木立の中にあってもじゅうぶんに高い。
平将門創建という伝説だが、資料が確認できるのは南北朝時代・十四世紀からだそうだ。今は林の中にぽつんと建っているが、この塔もかつては寺院建築群のひとつだった。これひとつだけが壊されずに残されたのは、その美しさゆえだったのだろうか。今は大国主命(おおくにぬしのみこと)を祀っている。
こちらも礼拝の対象になっている。人間の時間尺を超越した巨木を前にすると、人間の作りだした宗教はあまり意味をもたなくなってしまうようだ。※先日行ったセコイア国立公園(アメリカ)の写真⇒ご覧ください。
ここを過ぎれば、須賀の滝とそこから流れる祓川がすぐ。その名前のとおり、昔の参拝はここで清めてから石段をのぼりはじめたのだった。
「いでは文化センター」で、バスに戻り、今晩の宿・志津温泉「つたや」に向かいます。