初期〜中期にかけての短編集。
歴史上では傍流ともいえる人々が主役なのだが
初期独特の完全エンターテイメント歴史小説の仕上がりでないのが意外。
・文禄慶長の役からつづく高麗人の隠れ里
・奥州鎮撫参謀として下向し歴史の闇に葬られた世良修造
・夫婦仲の悪さを食べ合わせに例えた細川ガラシャ
の3本立て。
司馬氏特有の誇張表現と思われる箇所も多いが
地味な主人公群でもしっかり読ませてしまうあたりはさすが。
赤根武人と同じく俗人の極みとして描かれた世良修造や
細川忠興の監禁王子っぷりもきになるが
やはりここは
1960年代という
現代とは比較するべくもない日韓関係だった当時に
唐入りに踏み込んで高麗人陶芸の里を書いた表題作、
故郷忘じがたく候
を一押しとしたい。
思えば3作とも
自らの意思で居を移したわけでなく
流される形で歴史の渦に巻き込まれている点がおもしろい。
そろそろ文禄慶長の役を
しっかり書いた長編がでてもいいんだがなぁ。