今週も人員削減のニュースで始まった。朝、駅で配っている「City A.M.」のトップニュースは「NOMURA TO ABANDON THE WHARF」というものだ。リーマンの欧州部門を買収した野村証券は、ロンドンでの拠点をシティに集約し、Canary Wharfにある元リーマンのオフィスからは完全に退居するのだそうだ。
既に、メリルリンチを買収したバンク・オブ・アメリカが、ロンドンの拠点をシティにあるメリルリンチが使っているビルに集約してCanary Wharfのビルから退居する方向で検討中との報道を読んだことがある。一方で、JPモルガンが欧州本部をCanary Wharfに設けることになったそうだ。このところ出入りが活発だが、どちらかといえば出のほうが多いようだ。
夕方、駅で売っている「Evening Standard」という新聞のトップニュースは「50,000 JOBS GO AT CITY GIANT」というものだ。シティグループが5万人の人員削減を実施し、詳細は未公表だが、ロンドン拠点もかなりの人数が削減されそうだという。
同紙の別の記事では、先週末から始まったロンドンの繁華街でのクリスマス商戦が好調な滑り出しを見せているという。ポンドが対ユーロで過去最低水準に下落しているので、欧州大陸から買い物客が押し寄せているのだそうだ。どのように数えたのか知らないが、先週金曜から日曜にかけての3日間におけるOxford Street、Regent Street、Bond Streetの人出は前年同期比11.6%増で、最も混雑した日曜日に限れば同17.4%増だったのだそうだ。
先日、このブログのなかで英国の大手スーバーであるSainsbury’sの業績が好調に推移しているという話(11月14日「マンゴー食いだめ」)を紹介したが、経済のミクロとマクロは必ずしも同じようには動かないのである。人々の暮らしがある限り、財やサービスに対する需要は必ずあるのだから、過度に悲観論に走って、消費者心理に冷や水を浴びせるような記事が氾濫する状況は好ましいとは思えない。そうは言っても、センセーショナルが見出しを踊らせるのが、メディアというものの商売なのだから、それも仕方の無いことなのだろう。
それにしても、これまでにいくつもの景気の波を乗り越えてきたが、これほどまでに雇用調整が話題になることは過去に無かったように思う。金融業界は、おそらく最も業界再編の動きが活発な業界のひとつだろう。収益を追求すれば必然的に規模拡大による収益機会の網羅的追求に走らざるを得ず、結果的に合従連衡が進んで巨大な会社がいくつも生まれることになる。組織は巨大化すれば、官僚制的秩序が導入されるものである。そこに収益獲得とは無関係に、単にコストを食いつぶすだけの部署も生まれてしまう。こうしたコストセンターを単なるコスト消費部門に終わらせることなく、組織の健全性維持や危機管理を通じて、間接的に収益獲得能力増強に寄与させる手だてを考えるのがマネジメントの仕事のひとつでもあるはずだ。しかし、現実には組織が巨大化すれば、それだけ構造が複雑化する一方で、経営環境の変化も激しいので、組織の細かなところまで管理しきれなくなってしまう。そうした状況下で、業績の低迷が顕著になれば、肥大化した低収益部門を単に除去してしまうのが、最も即効性の大きな収益性改善策ということになるのは自然な流れであろう。組織のなかにいる人間にとっては、自分の働きとは無関係なところで、突然解雇されてしまうことになる。激しい時代になったものだ。