熊本熊的日常

日常生活についての雑記

色即是空

2008年12月08日 | Weblog
現代美術の作品を眺めていると、芸術家の仕事というのはつくづく大変なものだと思う。常に新しいものを考え出さなければならないのに、本当に新しいものは評価されないから、結局、余計な理屈や説明をつけなければならなくなってしまう。余計なものを加えることで、本来の創造からは離れてしまい、大衆や権威に迎合した俗悪な醜態を晒すことになる。

自分の表現したいことがあって、それが世間から受けられるか否かということには感心がないということだと、生活が成り立たない。表現活動とは別に生活のための活動が必要になる。多くの場合、生活のほうが主になり、表現は従になり、やがて顧みられることもなくなる。尤も、その生活のほうで名を揚げる人もいるから、人生はわからないものである。

存命中は評価されず、死後にその作品が脚光を浴びるという人もいる。それは、その人がそれだけ創造的であったということだろう。人は自分の経験を超えて物事を発想することはできないものである。経験や知識の組み合わせの妙によって、新しい考え方や表現を創造するのだが、習慣から逃れることのできない圧倒的大多数の人にはその価値が理解できないから、どのような分野であれ、後の世において天才と称される人は孤独な人生を送るものだ。

さて、昨日は久しぶりにTATE Modernを訪れた。無料で入場できる常設のコーナーを歩いてみて、究極の表現は無ということではないかと思った。例えば、ジャコメッティの作品を時系列で眺めれば、初期の作品はどこかブランクーシのような、シンプルな中に質感のあるものだ。それが、あの棒のような人物表現になる。本人は「見たままの姿」を造形しようとしていたのだそうだ。おそらく、彼がもっと長生きをして創作活動と続けていたら、棒のような像はますます細くなり、晩年の作品は土台だけ、というようなものに行きついたのではないかと思う。もし、人間に「本質」というものがあるとするなら、それは幻影のようなものではないだろうか。人は他者との関係のなかにおいてのみ「私」たりうるのである。

ルネ・マグリットの「Man with a newspaper」も無の表現だろう。この作家の場合はタイトルも作品の主要な一部である。同じ部屋の風景を4つ並べたもので、そのひとつだけに新聞を手にした男性が描かれている。不在の3つと男性のいる1つとを対比させることで、不在の日常性を表現しているように見えた。

ルーチョ・フォンタナの「Spatial Concept ‘Waitinig’」はカンバスを引き裂いただけの作品だ。これも、世間で芸術とか表現と呼ばれているものを極端に具象化したものだろう。切り裂かれたカンバスは、要するにそれを切り裂いた誰かの存在を表現しているのだろう。その誰かとは「私」なのである。「私」はそこに描かれているわけでもなく、描いているわけでもない。

死体や四肢、内蔵を連想させるようなものを取り上げた作品は多い。これも結局は、崩壊を描くことで、崩壊前の姿の存在とその消滅という「実在」を表現しようとしているのだろう。あるいは崩壊させるという行為をおこなった「私」を描いているのかもしれない。

娘へのメール 先週のまとめ

2008年12月08日 | Weblog

元気ですか?期末試験は思ったような結果になるといいですね。

シェイクスピアというと、日本では何か高尚な文学作品だと誤解している人が多いのですが、基本的に大衆文学です。そこに描かれているのは人情や人生の機微であり、多くの人が気楽に楽しむことのできる物語です。しかも、これらの話は芝居のもとになる話ばかりです。現在でも英国人の識字率はヨーロッパの中で最低なのですが、そんな人たちでも楽しむことのできる娯楽として、シェイクスピアをはじめとする多くの演劇が発展してきました。日本の歌舞伎の歴史に似ているような気がします。

カレンダーはそろそろ届くはずなので、今週中に届かなかったら連絡してください。発送元に調べてもらいます。

イギリスならではの実用的なものというのは難しいですね。こちらに来て1年と少しになりますが、ここで実用的なものなど見たことがありません。適当に見繕っておきます。

ナショナルジオグラフィックは、昔、定期購読していたことがあります。雑誌のほうは捨ててしまいましたが、その写真をまとめた写真集を一冊持っています。あの雑誌のどのようなところが気に入っているのですか?

先週は、読了した本はありませんが、そろそろ日本へ持って帰るつもりで写真集や画集を物色しています。米国の”LIFE”という雑誌の写真集とマーチン・パーという写真家の写真集をこの週末に購入しました。土曜と日曜の2日がかりでいろいろな写真集と比較しながら、選び抜いたものなので、買った後の満足感がかなり高いものです。何度も頁を繰っては眺めています。他に日本の浮世絵を紹介した本や、日本の浮世絵が西洋の画家に与えた影響について書かれた本なども購入しました。美術や建築の世界でも、日本の存在感は強く、様々な画家や建築家が高い評価を得ています。商業デザインでも、例えば無印良品の製品や店舗などは、こちらでも人気があり、比較的高学歴の人たちの支持を集めているようです。

引き続き、帰国へ向けて、面白そうなものを探してみるつもりです。

では、カレンダーの連絡よろしくお願いします。これから寒さが厳しくなりますがから、風邪など引かぬよう気をつけてください。