ここを訪れるのは7月5日以来である。作品の入れ替えや展示位置の変更があり、特に1階(日本の数え方では2階)の、階段を上がって最初の部屋の雰囲気が変わったように感じた。確か、前回来たときに開催されていたセザンヌ展が終わり、当館所蔵のセザンヌ作品がもとの場所に戻り、それで全体に作品の並びが変わった所為だろう。7月9日付「モネだけの花」に取り上げた「Vase of Floweres」があった位置にはマネの「Banks of the Seine at Argenteuil」が展示されていた。今日はモネの花を見ようと思って来たので、少しがっかりである。しかし、同じ部屋にあったモネの「ANTIBES」にこれまでよりも強い興味を覚えた。なんとなく見たことがあるような風景に感じられるのである。何故だろうと思いながら説明を読むと日本の浮世絵の影響を受けた作品だという。なんとなく了解できたようなきがして、この絵に自分なりのタイトルをつけてみた。「熱海」。
7月頃はそれほど関心がなかったボッティチェリに惹かれるようになった。ここにあるのは「The Trinity with St Mary Magdalen and St John the Baptist, the Archangel Raphael and Tobias」という長い名前の作品だ。全体の構成とか、子供の姿をした人物の顔とかその配置がおもしろい。15世紀まで遡ると、その時代がどのような時代であったのかという興味は減退してしまう。自分のなかで歴史への興味は、現在という時代が最も強く、そこから過去へ向かって弱くなる。絵画は、本来なら古い作品ほど、そこに込められた寓意とか物語が強く反映されているものなのだが、自分の意識としては、そんなものはどうでもよくなってしまう。ただ、そうした意味性や記号性の故に奇妙な表現に見えるものに溢れていて、それが興味をそそる。あと、当時の画家は芸術家というよりも科学者に近い存在であったので、絵の作りに計算された均整のようなものがあり、それが美しいとも思う。
ここにはピカソが描いたアイリスの小品があるが、ちょっとゴッホのような感じだ。この人の作品は何を描いても、大きなものも小さなものも、強烈な存在感を放つから不思議だ。こういう人を天才というのだろう。彼と同時代の人で、モディリアーニの作品もある。この人の作品は、以前はそれほど好きでもなかったのだが、やはりこちらへ来てから惹かれるようになった。特に裸体像が素晴らしいと思う。ここにあるのは、まさにその裸体像「Female Nude」だ。
Courtauld Galleryを出て、まだ日が高かったので、少しぶらぶら歩いてから住処へ戻った。このところ急に冷え込み、日が落ちると、道端に駐車してある車がすぐに白く凍りはじめた。それでも、冬至を過ぎた所為か、なんとなく気持ちは明るめである。