熊本熊的日常

日常生活についての雑記

突然の朝

2008年12月25日 | Weblog
去年と違って、今年のクリスマスは天気に恵まれた。その所為なのかどうだかわからないが、朝の通勤の時、予想以上に車も人も往来が多かった。

普段は住処を出て、Woolwich Roadを渡り、North Greenwich Shopping Centreを突っ切り、Greenwich Millennium Villageという団地のようなところを通って、地下鉄Jubilee LineのNorth Greenwich駅まで歩く。今日から28日までJubilee Lineは運休なので、この経路は使えない。

今日はWoolwich Road沿いに西進し、Greenwich大学のところを右に折れてテムズ川沿いの遊歩道に出て、そのまま川底トンネルの入り口まで行く。Woolwich Road沿いには様々な商店が並んでいる。飲食店が比較的多く、スーパーの小型店舗がいくつかある。「銀座」という日本料理屋もある。なんとなく荒んだ感じのする通りで、これまで滅多に足を踏み入れたことがなかった。テムズ川沿いの遊歩道は、天気が良い所為か、ジョギングの人が多い。北京オリンピックでは、英国チームが自転車競技で多くのメダルを獲得したが、自転車とか歩くということが好きな人たちが多いように思う。

川底トンネルはマンホールを沈めたような感じで、閉所恐怖症の人は横断できないかもしれない。地上とトンネルの間は有人エレベーターとそれに絡み付くように螺旋階段がある。今日は有人エレベーターは運休だが、トンネルは普段通り開放されている。

テムズ川を越えてドック・ランドと呼ばれる地域に入ると、雰囲気が一変する。ちょっと不自然な感じがするとでも言えばよいのだろうか。古くからの建物もあるが、比較的新しい集合住宅が目立つ。ロンドンの街並は、戦災を経ているにもかかわらず、過去からの時間が綿々と続いているような風情がある。しかし、ここにはそのような連続性が感じられないのである。

ドック・ランドは、その名が示す通り、もともとは造船所が数多くあった地域だ。英国の造船産業は1950年代にその役割を終え、その後この地域は廃墟のようになっていたそうだ。1970年代になって再開発計画が立てられ、紆余曲折を経て、この地域の北部には金融街が作られ、南側は瀟酒な住宅街となった。今でも開発は続いており、建築中のビルや住宅があちらこちらにある。

去年は、このドック・ランドの南端近くにある、Mudchuteという地域を歩いていたら、キツネが現れた。このあたりには、公園とそれに続く小さな牧場がある。牧場の縁に遊歩道があり、たまにここを通ると牛が草を食んでいたりする。今日はキツネも牛もいなかった。

牧場を過ぎると、ASDAという大きなスーパーがあり、そこを過ぎるとオフィスビルが目立ち始める。South Dockという川のようなものを越えるとCanary Wharfという金融街になる。米系金融機関の英国現法が数多くあり、先頃話題になったリーマン・ブラザーズもこの一画にある。英国の金融機関も、英国金融庁もここにある。地下街も整備されていて、英国での主要なブランドショップは全て揃っている。必ずしも好立地というわけではないのだが、平日の昼間はかなりの人出がある。さすがに、今日は人影がほとんどない。

毎日見ている風景なのに、クリスマスの朝は、やはり特別な日であるように感じられる。人の気配の有無というのは、風景の構成として大きなポイントになると思う。もともとそこにいた人たちが、突然いなくなってしまったかのような風景というのは、キリコの絵のような、妙な不安を醸し出す。おそらく、大自然のなかに、突如、人間の団体が現れたら、やはり妙な感じがするだろう。器と中身の関係には、健全なバランスというものがあるような気がする。