『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』46

2022-10-13 08:38:52 | 創作

               

       

 

* 46 *

 

 周囲の死を乗り越えてきた者が生き延びる。

 それが人生ということなのだと思います。

 そして身近な死というのは忌むべきことではなく、人生の中で経験せざるを得ないことなのです。

  それがあるほうが、人間、様々なことについて、もちろん自分についての理解も深まるのです。

 だから死について考えることは大切なのです。          

                               養老 孟司


 *

 

 中村 加奈梨は、あと一勝すれば『鬼の三段リーグ』を突破して、晴れて「女流」棋士ではなく「女性」棋士となれる処まで勝ち上がってきた。

 

 そして、決戦の最終日・・・。

 加奈梨は夜が明ける頃、師匠と大師匠が眠る郊外の墓前に参った。

「カナリ先生。

 いよいよ、今日が勝負の日です。

 どうぞ、お見守り、お力添えください」

 と、一心不乱に祈ると

「だいじょーぶだよ。カナちゃん・・・」

 という、懐かしい声が心に響いた。

 まだ、亡くなられてから幾日も経たないのに、懐かしくてたまらないその声に、加奈梨は泪が止まらなかった。

 

          

 そして、いまだに

(なんで・・・。どうして・・・)

 という、理不尽な師匠の夭逝が恨めしくてならなかった。

 それは、まさに、神も仏もあるものか・・・と、思いたくなる、あってはならない事だった。

 でも、ふと思った。

(わたしも、いずれは、死ぬんだ・・・。

 でも、このパンデミックだけは、生き残らなきゃ。

 大切な師匠を奪った、この憎っくき奴にだけは、どうしても負けたくない・・・)

 と、加奈梨は「棋士」として「勝負師」として、そう思った。

 すると、脳裏にまた、やさしい師匠の笑顔が浮かんだ。

 カナリ先生が、ソータ師匠の肖像入りロケットを首にされていたように、自分もそれを真似た。

 そして、師匠の揮毫した『和賀心』という扇子を持参した。

 対局相手は、奨励会に15年在籍し、ここ8年ほど『三段リーグ』を突破できず、退会規定の26歳に達してしまった。

 すなわち、この一戦に敗れれば、先輩の彼は「棋士」の道が断たれるのである。

 それゆえに、自分の人生を懸けた一局であり、全人的に勝負に挑んでくるはずであった。

 加奈梨にとっても、「永世八冠」の直弟子として、「悲運の天才棋士」の愛弟子として、その墓前に「花」を添える為にも、哀しみに沈む師匠の家族への「一灯」となる為にも、何として勝たねばならない一番であった。

 ここを突破すれば、天才・藤野 桂成に次ぐ、二人目の「女性棋士」が棋界に誕生することになる。

 世間も、女流棋士会も注目する、世紀の大一番であった。

「よし。行くぞ」

 と、先手の加奈梨は、初手「8六歩」を指した。 

               

                      


   

 


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