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安倍首相のGPIF改革で国民の年金資産が消えてゆく
アベノミクス高株価政策の切り札は、130兆円をこえる国民の大切な年金積立金を、日本株投資に注ぎ込むことである。年金積立金を運用している独立行政法人「GPIF」を「改革」すると息巻いて、安倍首相は株式運用の比率を大幅アップさせたのだが、そのために国民はどうやら、3月末までの1年間(2015年度)で5兆円もの大損をしてしまったようである。
中日新聞の記事を引用しよう。
独立行政法人「GPIF」が2015年度、約5兆1,000億円の損失を出す見通しとなったことが、専門家の試算で明らかになった。(中略)試算はGPIFの運用に詳しい野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストが実施。…
GPIFは「Government Pension Investment Fund」の略である。日本名の「年金積立金管理運用独立行政法人」では漢字だらけでピンとこない。マーケット参加者によると、世界最大の「政府系ファンド」というのが、大方の認識のようだ。
安倍首相がGPIFの日本株購入を宣伝して世界の投資家をひきつけ、株価上昇によるアベノミクス効果を演出しようとしたもくろみは、一定期間、刺激の強さゆえに奏功した。だが、株高円安を除けばいっこうに日銀による異次元金融緩和の効き目があらわれてこない。
結局、アベノミクスがデフレ退治にはほど遠い政策であったことが知れ渡るにつれ、世界の投資家の日本株離れが進んで、今年に入ると同時に株価の大幅下落がはじまった。為替相場は、一転して円高へ進み、アベノミクス円安の恩恵で業績を伸ばしていた輸出大企業の景気見通しも悪化した。落ち込んだ株価が、再び急上昇しはじめる気配はない。
GPIFの年金積立金は、2015年度の最終四半期1~3月の運用で瞬く間に損失が膨らんだ。その損失額が5兆円前後ではないかという推測がメディアで報じられ、衝撃を受けたのは、もちろん、GPIFを政治利用した安倍官邸であろう。
ここ10年(05~14年度)にわたるGPIFの運用実績を見ると、サブプライムローン、リーマンショックのあった07年、08年の巨額損失をのぞけば、ほぼ堅調だった。それ以外にマイナスになったのは期末直前に東北大震災のあった2010年度だけで、それも3,000億円弱の損にとどまっている。震災、原発事故の影響をモロに受けた2011年度でも2兆6,092億円の利益、2012年度から14年度までは毎年10兆円をこえるプラスになっている。
もし、2015年度に5兆円の損失を出せば、リーマンショック以来の巨額赤字に沈むことになる。旧ポートフォリオのままだったら、この株価下落局面でもなんとかもちこたえることができた可能性が高い。旧基本ポートフォリオは国内債券60%、外国債券11%、国内株式12%、外国株式12%、その他5%だった。
安倍政権は利回りの少ない国内債券の割合を減らし、その分を株式投資に充てて、政権交代後の株価上昇トレンドを支えることを思いついた。第3の矢、成長戦略のアイデアがひねり出せぬゆえの苦肉の策でもあった。それを受けてGPIFは2014年11月、基本ポートフォリオの目標値を国内債券35%、外国債券15%、国内株式25%、外国株式25%に変更した。
安倍式先送り
2015年4月から16年3月の年間運用成績は、まさにその変更の成否を判断する初のデータとなる。それだけに、もし5兆円損失という具体的な数字が明らかになれば、参議院選にのぞむ安倍政権にとって、大きな痛手となるにちがいない。官邸は一計を案じた。
例年なら、GPIFの年間運用実績は7月初旬に公表される。それでは参院選の投票より前になってしまうので、まずい。どうしても公表のスケジュールを参院選後に設定させる必要がある。官邸は塩崎厚生労働大臣を通じて、運用実績発表を参院選後に先送りするようGPIF理事長に指示した。
5兆円損失の公表日は参院選後の7月29日と決まった。
安倍式人事介入
GPIFの組織を簡単に説明しておこう。理事長と理事(1人)のもとに事務局があり、外部に8人のメンバーによる運用委員会が設けられている。理事も運用委員も厚生労働大臣が任命する。
運用はインハウス(自家運用)ではなく、基本的には民間のファンドを選んで委託する。いかにいいファンドを選ぶかが運用部門の腕のみせどころなのだが、それ以前に、基本ポートフォリオをどう組むかが重要である。運用委員会はその作成に権限を有している。
安倍首相が、年度替わりに、厚生労働大臣の任命権を使って人事に介入したのは、運用委員会を思うがままに操縦したいためである。国民の大切な年金資産の半分を株式購入にあてる構想を実現するには、運用委員会にその方針を支持しそうなメンバーを揃えておく必要があった。
2014年4月24日の新年度最初の運用委員会では、8人の委員のうち、委員長をはじめとする5人が入れ替わっていた。その会合から基本ポートフォリオ変更についての検討が始まり、同年10月23日の委員会で、国内債券を60%から35%に減らし、株式を24%から50%に引き上げるという大幅な変更案が、賛成7人、反対1人で承認されたのである。
こうして決定した新しい基本ポートフォリオのもと、株式の大量買い増しが進んだが、株価上昇がいつまでも続くはずはない。専門家の間では年金資金運用が政治の具となることに危惧の念を表明する声が強まった。同年春に退任した理事の1人、小幡績(慶応大大学院准教授)もその1人だ。
「国民の年金の将来支払いの原資を運用する組織を大きく変えようとする動きは危険だ」と同年6月、『GPIF 世界最大の機関投資家』というタイトルの本を緊急出版した。このなかで、小幡は基本ポートフォリオの変更を「誤り」と断じ、以下のように理由を述べている。
どんな資産にどのように投資するか。これ以上、専門的で、現場の専門家、当事者以外に決められない、材料がなければ議論できないことはありません。それを政治家や外部のエコノミストや有識者がやっている。株式を買えるようにするために、運用に積極的な人を政治側が選ぶ。自分たちの意見に従う専門家をGPIFのメンバーとして選ぶ。おかしいです。本末転倒どころか、年金運用を「ぶっ壊す」つもりなのでしょうか。