....こんなに涼しくていいのでしょうか。リンリンと虫の音がすだきます。虫の音は外国の方には騒音としか聞こえないのだそうです。幾千の虫の声でしょう。虫の音は倍音そのもの.....だれもいない部屋で耳を清ませていると四方から虫の音が降り注ぎ音のシャワーを浴びているようです。身体やこころに絡みついたくさぐさのものがゆるみほどけて空気に滲んでとけてゆき、虫の音はますます深く沁みとおってきます。ものもたべず翅を震わせ歓喜のうたを、末期のうたを響かせる虫たちの生命の響きと私の生命の響きがとけあって天蓋のしたに生きているすべてのものと交流します。
ずいぶんと無理や無茶もをしてきましたが、ほうーっとあるがままに 今ここにいます。以前に語りは聴き手がいてはじめて成り立つと書いたことがありました。芝居もそうでした。舞台も衣装も要らないけれど、観客がいないと成り立たない....と。....ところがウタはひとりでもいい....自分の歌う声が自分を癒してしまうのです。だれもがひとつしかないほんとうの声を持っている。そして声には力がある、自然と共鳴し、今のわたし、過去のわたしとも共鳴する.....響きであり光そのものでもあるのです。
2年前、身体と心...その奥の魂と感覚を一体化させることに気づかされました。それはキャシーとRADAのニックさんやイランさんの教えであり、語るためにわたしはぜひともその目的を達成しなくては、と心に決めました。心よりも劣ったものであるとどこかで信じこまされていた身体、粗末にあつかって動かなくなった身体を最初はクリニックのセラピストさんの手にあずけ、次にとまどいながら向かい合い、自らの手で傷む足からさすり、ほぐし、今年、自力整体をはじめてゆがんでぼろぼろになっていた身体を抱きしめました。身体がわたしの気持ちに応えはじめました。
朝、わたしははじめてわたしの左脚をうつくしい...と思った....健やかにすらりと伸びた左脚、そしてまだすこし撓んで彎曲している右肢もいとしいと思いました。そして一体化させるもなにも、身体も心も感覚もみな最初からひとつだったことに気づいたのです。身体は共鳴体です。ひとに共鳴し自然に共鳴する楽器です.......雷鳴が轟いています。....わたしは事務所にひとりいて とても孤独で恐怖もすこしありますがその孤独をたのしんでいます......ひとりでいてひとりでない、たくさんの存在がこの空間には木霊しています。
今から2000年前は人類にとって大きな転機だったように思います。イエス、仏陀、マホメッド...聖者たちの機を一にしての出現はなにか大いなる意図を感じるのです。彼らは語りました。触れました。癒しました。そして亡くなってから100年単位の時間を経て 弟子たちの手で教えが記されました。それは大いなるものの影のような香りのようなものに過ぎなかったのでは....と思うのです。人類は刻印を受け取りました。人の手になる思い違いや書き違いや恣意的なものも含めて.....。一神教の教えはいつしか飽くなき自然の征服となり、人類は自我を知り、自然と調和する太古の教えは歴史の塵の下に忘れさられようとしていました。
不思議なことに太古の教えをほそぼそとつないできたひとびとはおおかた文字を持たなかったのです。口から口へ長い長い時の流れのなかを聖なる教えがつたわってきたのは、それはとても深い意味があるように思われます。....喪ったものを取り戻す手立てはありましょうか? ..........わたしはあまり心配しません。古きよきものはわたしたちのなかにあったし、今もある、目覚めるのを待っている....そんな気がするからです。
....天の底が抜けたような豪雨が屋根を轟々と叩いています。すさまじい雨です。赤外線カメラに映る雨は光の洪水のように見えます。この世の終わりのように世界が金色に燃えあがっている......この2000年は勝者の歴史でありました。経済によって世界は動くようになりました。凍土は融けだして、南の島は波に沈みます。大気も大地も水も穢されました。これからもっともっとあり得ないことが起きてくるでしょう。けれどもそれは、わたしたちの目覚めのために必要なことのように感じます。わたしたちは来るべきものに怯えることはない、考える時は今をおいてない。ゆっくり考えて、微笑んで ただひとつの存在である自分をたのしみましょう...翅を震わせて鳴く虫のように....。
ひとは不思議な生き物です。肩と腰と膝と足の指の関節が連動してるなんてわたしは知らなかった。どれかひとつをほぐせばどれにも響いてほぐれてゆく。身体と魂ともうひとつのものはかさなっている。身体と魂のあいだにはすきまがあるけれど そのすきまを埋める一瞬があります。芸とかアートとか今言われているもののはたらきはそのすきまを埋めること、人類が遠く忘れていた、星との絆、この宇宙を創造したものとの絆、過去の自分、遠い人類の祖先とのつながりを思いださせること、ひとの出自と宿命を知らしめることだと感じるのです。そのとき感動が生まれます。
なにゆえか知らないが人類の文明は幾たびも滅びました。ホピの伝説によれば造物主....の教えをわすれ、快楽、物欲に走ったから.....といわれます。つながり....を取り戻す、それぞれの存在をあるがまま持ち寄って受け止めて....。星の降る夜ちいさな虫たちのひとつひとつの生命が響きあって波となってわたしたちの骨の髄の幾億年の記憶を甦らせます。虫たちにならって身体と魂とそのまま響きあう楽器になりたいと思います....風に鳴り、月光に響き、ひとのこころの喜びや悲しみに震え、宇宙と共鳴する楽器になりたい....ひとはそのようなものにできていると思いませんか。
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