映画「苦い銭」の映画のチラシとパンフレット。
【全国で上映中】
ドキュメンタリー映画の巨匠といわれるワン・ビン(王兵)監督の新作が現在、渋谷イメージフォーラムや名古屋シネマテーク他で上映中です。
(http://www.moviola.jp/nigai-zeni/theaters/index.html)
雲南、安徽、河南省の農村部から浙江省湖州の縫製工場に働きにきた人々、もしくは田舎から出稼ぎに行く様子を密着して撮る、それを編集して映画にしたものですが、このドキュメンタリーが2016年ベネチア映画祭の脚本賞を受賞しました。
脚本に基づいて俳優が演じるのではなく、人々の日常を映像にうつしたものを、つなぐことで生まれたドラマが脚本に値する、と認識されたのでしょう。
ベネチア映画祭、なんとも粋、です。
上映時間は2時間43分と長いのですが、本物の芸術に触れたときと同様、一コマ一コマの感じ方が観る人によって違うドラマを感知してしまいそうになる、そんな予感がしました。
【小さなバスから乗り継いで】
最初のドラマは、雲南の田舎から縫製工場に初めて働きに行く15歳の女の子に密着したものです。
ほっぺたがくりくりと若さにあふれた女の子。希望に満ちています。
一家の団らんでも、これから行く未知の世界に親は、「彼氏を作ってそこで結婚はダメだよ」と心配し、弟(?)はちょっとうらやましそう。
親は「○○の家の子は、あっちで結婚して、もう戻ってこないだろう。(その家の親は)地震で死んだものとあきらめた、と言っていたよ」
田舎を出るバスの中でも、地震の話が。そして彼らにはたいてい兄弟姉妹がいます。このことから、映画の字幕やチラシでは「雲南省出身」とだけ書かれていた少女の故郷は昭通ではないか、と推測しました。現在、当ブログで取り上げているシルクキャンディーのもう一つの故郷、回族も多く暮らす昭通市です。
【昭通市からはじまる】
映画を観た後に映画館で売っているパンフレットを購入し、熟読すると、やはり少女の故郷は昭通市。
当ブログで取り上げている魯甸県の隣でやはり2014年8月3日の地震の被害が甚大だった巧家県でした。
ここは中国最長の川、長江の上流域の一つ、金沙江が山をえぐって深い谷間をつくる複雑な地形です。
このあたりは、漢族のほか彝族、回族、苗族、布依族など、少数民族が多く暮らす地域です。かつての一人っ子政策では少数民族は複数人の子どもを持つことも許されていました。
彼女がそうかはわかりませんが、周囲の人々も兄弟、姉妹の話が多かったので、可能性は高いでしょう。
さて、さきに浙江省の工場に出稼ぎに出ていた親戚のおばさんとともに、楽しげに浙江省の工場の目指す少女がたどり着いた仕事は、無造作に積み上がったできあがったばかりの子供服を綺麗にたたんで袋詰めする仕事でした。
さて、彼女と話す同じ工場に顔を出した女性が、次にフォーカスされ、と、人のつながりでドラマは次々と続いていきます。人のつながりのタペストリーのような映画だと感じました。
【一人じゃない!】
じつはこの映画を誘うチラシには疲れ切った顔の女性の写真とともに「働けど、働けど。」と書かれていました。
社会派の映画かと、重たい気持ちで行ったのですが、決して女工哀史のような悲惨な話ではなく、たくましく、故郷の縁なり、親戚の縁なり、近所の縁なりで、つながる人々の、現在の日本よりも、よほど人とのつながりを感じさせる世界の話でした。
映画に出てくるおじさんも言っていました。「一人じゃ生きていけないだろ。」
15歳の少女が夜行列車にゆれて浙江省に行く場面で乗り合わせた、やはり農民工の赤ちゃんのかわいらしいこと。手持ちカメラの画面のゆれが、私は相変わらず苦手ですが、画面の隅々に目を凝らしたい映画でした。
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