(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
プロローグ(15)
015.バルフォア宣言(2/2)
バルフォア外相がロスチャイルド卿に送った書簡には次のような文言が記されていた[1]。
「英国政府は、ユダヤ人がパレスチナの地に国民的郷土を樹立することにつき好意をもって見ることとし、その目的の達成のために最大限の努力を払うものとする。ただし、これは、パレスチナに在住する非ユダヤ人の市民権、宗教的権利、及び他の諸国に住むユダヤ人が享受している諸権利と政治的地位を、害するものではないことが明白に了解されるものとする。
貴殿によって、この宣言をシオニスト連盟にお伝えいただければ、有り難く思います。」
ここにはユダヤ人がパレスチナにホームランドを建設することを支援する英国政府の意図が明確に示されている。但しユダヤ人がパレスチナに住んでいたのは紀元1世紀までのことであり、それ以来2千年近くの間パレスチナに住み続けたのはアラブ人であった。そのためさすがの英国政府も「パレスチナに在住する非ユダヤ人の市民権、宗教的権利(中略)と政治的地位を、害するものではない」と言う但し書きを付けたのである。しかしその後この但し書きが守られることは無かったどころか、イスラエルは4度の戦争を通じてパレスチナにおける領土支配を進め、今も入植地を拡大し続けているのである。パレスチナを含むアラブ圏の全ての人々はそれをただ手を拱いて見ているだけである。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
[1] ウィキペディア「バルフォア宣言」よりhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%82%A2%E5%AE%A3%E8%A8%80
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0579OilSupplyByOpecPlusJune2023.pdf
2.目標生産量と実生産量の乖離
目標生産量に対し実際の生産量がどうなっているか、ここではサウジアラビア、ロシア等主要な産油国についてOPEC月次レポートにより検証してみる。なおロシアは2021年末まで同国エネルギー省が公式統計を発表していたが昨年1月以降ストップしているため、ここではOPECレポート月報に明記された今年4月までの生産量を取り上げた。
(1)OPEC10カ国の合計生産量(図2-D-2-50参照)
OPECプラスの協調減産体制に組み込まれているOPEC10カ国の昨年10月以降の生産目標と実生産量を比較すると、まず昨年10月は生産目標26,689千B/Dに対し実生産量は25,154千B/Dであり、差引▲1,535千B/Dの目標未達であった。
翌11月からOPECプラスは▲2,000千B/Dの協調減産を実施、OPEC10カ国の生産目標量も25,416千B/Dに引き下げられたが、同月の実生産量は24,487千B/Dであり▲929千B/Dの乖離が生じている。
4月にサウジアラビアなどOPEC6カ国は非OPEC2か国とともに合計▲1,157千B/Dの自主減産を公表している。しかしOPEC10か国の5月の生産量は目標24,377千B/Dに対し実際には23,482千B/Dにとどまっており、なお▲900B/D近く目標未達である。
このようにOPEC10カ国で目標未達が常態化しているのは次に述べるようにアンゴラ及びナイジェリアの生産量が目標を大きく下回るレベルにとどまっているためである。
(2)目標を大きく下回るナイジェリア及びアンゴラの生産量(図2-D-2-52 & 2-D-2-56参照)
昨年10月のナイジェリア及びアンゴラの生産量は1,066千B/D及び1,054千B/Dであった。同月の生産目標はそれぞれ1,826千B/D及び1,525千B/Dであり、目標未達量はナイジェリア▲760千B/D、アンゴラ▲471千B/Dに達していた。ナイジェリアの生産量は目標の6割、アンゴラは7割にとどまっていたのであり、この2か国がOPEC全体の足を引っ張っていたことになる。
ナイジェリアの生産量は今年に入り2月、3月には130万B/D台後半まで回復したが、その後再び低迷、5月は1,269千B/Dに落ち込んでいる。またアンゴラの生産量は100万B/D前後に停滞したままであり、これら2カ国が目標未達の主因である。
両国の生産低迷はロシアやイランのような欧米の経済制裁が原因ではなく、国内の部族対立またはイスラム過激派による石油施設の破壊、或いは石油パイプラインからの原油窃盗密売などにより原油の正常な生産輸出が妨げられると言う国内事情が原因である。事態が鎮静化しないため今後とも安定的な石油操業は期待できそうにない。
このため、6月のOPECプラス会合では来年1月以降の目標生産量をナイジェリアは1,742千B/Dから1,380千B/Dに、アンゴラは1,455千B/Dから1,280千B/Dに引き下げられている。伝えられるところでは会合で両国は目標の下方修正に強く抵抗したと言われるが、現状を見る限り引き下げはやむを得ないところであろう。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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(石油関連ニュース)
原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil
・中国経済不安感で原油価格下落。 Brent $75.84, WTI $71.02。
(中東関連ニュース)
・シリア問題めぐり、トルコ、イラン、ロシアがカザフスタンで会議。
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
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サウジアラビアを中心とするOPEC加盟10カ国とロシアを中心とする非OPEC産油10カ国、いわゆるOPEC+(プラス)の20カ国は最近、頻繁に生産目標量を引き下げている。それはOPECプラス閣僚会合による一斉減産あるいは複数の国による自発的な減産であったり、時にはロシアまたはサウジアラビアによる単独自主減産など種々の形態をとっている。
ここでは昨年9月以降、最近の6月までの公表数値に基づき来年12月末までのOPEC+全体及び主要国の生産目標量の推移を確認する。またサウジアラビア、ロシア等の主要産油国については昨年10月から今年5月(または4月)までの実生産量と生産目標量との乖離を比較する。
生産目標についてはOPEC資料ではRequired ProductionあるいはVoluntary Productionと表記されているが、本稿では生産目標量とした。実生産量はOPEC月報(Monthly Report)のデータを引用している。ロシアは2022年1月以降、同国エネルギー省による公式発表がないため、OPEC月報の数値を引用した。
なおOPEC加盟国13カ国のうちイラン、リビア及びベネズエラ3カ国は協調減産に参加していない。いずれも米国(及び一部先進国)による経済制裁措置を受けているためである。これらの国々の生産量100万B/Dを超えている。参考までにこれら各国の実生産量と共に、OPECプラスの減産方針に大きな影響を及ぼすBrent原油の国際市場価格の動向を合わせて提示する。
1.昨年10月以降の生産目標の推移(表1-D-2-36参照)
昨年10月の閣僚会合でOPECプラスは▲200万B/Dの協調減産を決定した。この結果11月以降の目標生産量は41,856千B/D(OPEC10カ国 25,416千B/D、非OPEC10カ国16,440千B/D)となった。サウジアラビア及びロシアは共に10,478千B/Dで全体の丁度半分を占めている。
その後今年2月にロシアは自主的に▲500千B/Dの減産を表明した。ウクライナ紛争で欧米各国の輸入制限を受けたこともあり原油価格の上昇を狙ったものと見られる。4月2日にはOPEC6カ国と非OPEC2か国がロシアに追随する形で▲1,157千B/D(内、サウジアラビア▲500千B/D)の自主減産を公表、5月以降のOPECプラス20か国の生産量は40,199千B/D(OPEC10カ国 24,377千B/D、非OPEC10カ国15,822千B/D)になった。
6月14日のOPECプラス閣僚会合ではこの協調減産体制を来年末まで継続することが確認されたが、その際、来年1月以降については現在の実生産量を考慮して各国の生産目標を微調整し、OPEC+全体としては現在よりも385千B/D多い40,584千B/D(OPEC10カ国 24,994千B/D、非OPEC10カ国15,590千B/D)とされた。なおサウジアラビアは今年7月のみ▲1,000千B/Dの追加減産を表明している。
これらの結果を総合すると、OPEC10カ国の目標生産量は昨年10月以前の26,689千B/Dから今年5月以降は24,377千B/Dに▲9%弱減少していることになる(7月のみはサウジアラビアの1,000千B/D自主減産により▲12%減)。また非OPEC10カ国の減産率は▲8%弱となる。因みにサウジアラビアとロシアの今年8月以降12月までの目標生産量は共に9,978千B/Dであるが、来年1月以降はサウジアラビアは昨年11月~今年4月までの水準(10,478千B/D)に復帰する一方、ロシアは9,949千B/Dとこれまででもっとも低い水準に落ち込み、サウジの目標生産量と500千B/D近い差が生じることとなった。
(続く)
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(アラビア語版)
(目次)
プロローグ(14)
014.バルフォア宣言(1/2)
英国の3枚舌外交の中で最も有名なものが「バルフォア宣言」であろう。バルフォア宣言は三つの約束の中では最も遅く、1917年11月に英国外務大臣アーサー・バルフォアがユダヤ系貴族院議員ライオネル・ウォルター・ロスチャイルド宛に送った書簡であり、世界のユダヤ人に対してパレスチナの土地にホームランドを建設することを認めたものである。
西暦135年にローマ帝国ハドリアヌス帝が度重なるユダヤ人の反乱を鎮圧、かれらがエルサレムに立ち入ることを禁止してからユダヤ人たちの「ディアスポラ(離散)」の長い歴史が始まった。彼らはヨーロッパ各地で白人たちの蔑視と迫害に耐えながらいつの日か祖国パレスチナに帰ることを夢見ていた。それは19世紀に入って政治的なシオニズム運動(約束された故郷シオンの土地に帰ろう、という運動)になった。
19世紀から20世紀にかけて発展した金融資本主義の中で世界の金融を握ったのがユダヤ人である。それはユダヤ人の資金力が戦争の勝敗を左右する時代でもあった。日本が日露戦争に勝利したのは日本の戦時債を米国ウォール街のユダヤ人銀行家が引き受けてくれたおかげであることは誰もが知っている戦時秘話であるが、第一次大戦でもユダヤ資本が勝利の鍵を握っていた。そしてそのユダヤ資本家の代名詞とも言えるのがロスチャイルド財閥である。のどから手が出るほど金に困っていた英国は戦争資金の調達をロスチャイルドに持ち込み、その見返りとしてユダヤ人のシオニズム運動を後押ししたのである。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
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(アラビア語版)
(目次)
プロローグ(13)
013.サイクス・ピコ協定(2/2)
一方英国はと言えばバグダッドからバスラ、さらにクウェイトからペルシャ(アラビア)湾岸を南下する一帯が直接統治領となり、アンマンからアラビア半島北部の砂漠地帯が勢力圏と定められた。現在でいえばイラク南部、ヨルダン、ウジアラビア北辺及びクウェイトからUAEに至るGCC湾岸諸国である。
そして次に述べるバルフォア宣言によりその後中東最大の火種となるパレスチナは英仏共同統治領とされたのである。
「サイクス・ピコ協定」は英国、フランス及びロシアの3カ国による帝国主義植民地獲得競争の産物であって、数千年にわたり地域一帯でそれなりの平和と秩序を保ってきたアラブ民族の意向は一顧だにされない秘密協定であった。ところが協定締結のわずか1年後の1917年にロシア革命が勃発、革命政府によってこの秘密協定の存在が暴露されたのである。「フセイン・マクマホン協定」の誠実な履行を求めるアラブ側が反発したのは当然であった。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
6/12 JOGMEC
サウジアラビア王国・投資省投資開発担当副大臣及び産業鉱物資源省鉱業開発担当副大臣を招聘し、ラウンドテーブルを開催
https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_01_00031.html
6/13 経済産業省
日本のCCS事業への本格始動
https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230613003/20230613003.html
6/13 ENEOS
令和5年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」の候補案件への選定について
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20230613_01_01_1040009.pdf
6/13 OPEC
Secondary sources issue May 2023 production levels and revise Russia’s production for February 2023
https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7163.htm
6/14 TotalEnergies
United States: TotalEnergies Strengthens its Position in LNG by Partnering with GIP and NextDecade on a new LNG project in Texas
https://totalenergies.com/media/news/press-releases/united-states-totalenergies-strengthens-its-position-lng-partnering-gip
6/16 INPEX
世界最大級のメタネーションによる CO₂排出削減・有効利用実用化技術開発事業における試験設備の建設開始について
https://www.inpex.co.jp/news/2023/20230616.html
(石油関連ニュース)
原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil
・IEA:世界の石油需要、2028年1億600万B/Dで頭打ち。逆オイルピーク論。
・中国石油精製業堅調で原油価格上昇。Brent $74.21, WTI $69.19。
(中東関連ニュース)
・習中国主席、パレスチナ大統領と会談。中東でのプレゼンス拡大。
・イラン大統領、ベネズエラ、キューバ、ニカラグアの反米3か国を歴訪。
・エジプト、BRICSに参加目指す。目標は非ドル経済圏形成。
・エジプト首相、アフリカを代表してロシア・ウクライナに和平調停。
・アルジェリア大統領、ロシア訪問。天然ガス輸出で意見交換か。
・カタール首長、イラク公式訪問。イラクガスプロジェクト参入など協議。
・トルコエネルギー代表団、イラク訪問。クルド地区の原油輸出再開協議。
・UAEムバダラ、日本で6億ドルの不動産ファンド合弁事業設立。
*「世界の政府系ファンド(SWF)」参照
・クウェイト、トルコから軍事用ドローンTB2を3.7億ドルで輸入。
*「中東に広まるドローン(UCAV)の開発と軍事利用」参照。