義父がこの世を卒業した日からもうすぐ1ヶ月。
不思議な時間の流れ方だった。
すごく前のことだったような気もするし、まだついこの間のことだったような気もする。
最も近しい家族たちは淡々と、静かに、ひそやかに、自身の気持ちを整えている。
わたしはまだ中学生の頃から、周りに自分の他の誰もいないまま、目の前で息を引き取っていく家族や親族を看取ったことが何回もある。
まるで知らない赤の他人さんなのに、たまたまお浄霊をさせていただいている時に最期の時が来て、看取らせてもらったこともある。
看取った後で亡くなったことを伝えに行くと、人それぞれのいろんな反応が返ってきたのだけど、そこには常にあふれ出てくる涙や言葉があった。
けれども今回経験したお見送りは、これまでのどのお見送りとも違う、実に淡々とした、もっと言えば清々しいお別れで、それがわたしを大いに戸惑わせた。
義父が息を引き取った瞬間から、彼の存在は義母の心の中に移った。
だからご遺体はもうただの物体で、遺灰もただの粉なのだ。
けれどもだからといって、その粉をそこらへんに撒いて捨てるわけにもいかない。
どうしたらいいものかと思案していたら、ある人からアメリカ合衆国政府が管理している、軍人、軍関係者や民間の重要人物等が埋葬されている墓地が、実家から車で15分ほどの所にあることを教えてもらい、そこに埋葬してもらうことにした。
セレモニー、埋葬、そしてその後の管理一切が無料で、妻である義母も、その時が来たら一緒に埋葬してもらえるのだそうだ。
そこでこれをお葬式の代わりにすることにした。
義父の妹たち、妻と息子と娘、孫たち、そしてとても近しい友だちや関係者だけが墓地に集まり、その後近くのホテルでランチを食べながら、義父の思い出ビデオをみんなで鑑賞した。
墓地でのセレモニーは一家族約15分。
トランペットではなくソプラノサックスがタップスを演奏し、その後3発の空砲が撃たれた。
事前に小さな子どもや心臓に疾患がある人は耳を塞ぐようにとの警告があり、わたしはそのどちらでもないけれど耳を塞いでおけばよかったと後悔するほど、とても心臓に悪い爆音が響いた。
その後に始まったこの儀式、国旗を広げ、また折り畳んでいく作法がとても興味深かったので、こっそり撮影したのだけど、案の定後で夫から呆れられた。
動画をここに載っけたら叱られるのかなあ…。内緒でここです→ https://youtu.be/_brMaP2lpLo
国旗を受け取った後、退役軍人さんからのお悔やみの言葉をいただく義母。
このセレモニーに参加するために、次男くんがまた西の端っこから東の端っこに帰省した。
彼は直前にシカゴで大きなトーナメントがあったらしく、そこですでに2時間の時差ボケをし、さらにここで1時間の時差ボケが追加され、普段からの寝不足も加わって体調が良くなかった。
三つの違う仕事を掛け持ちしている彼は、常日頃から極端な寝不足が続いている。
そこに、ついに自分がデザインしたゲームの完成が間近に迫っていることも重なって、無理に無理を重ねているので、せめて里帰りしている間ぐらいゆっくりさせてあげようと思っていた。
なのに、例えばわたしが台所で、溜まりに溜まったゴミ袋をゴミ箱から取り出そうとして、思わずウッと唸り声をあげると、リビングでくつろいでいるはずの次男くんが「どうしたん?」と言って駆け寄ってくる。
彼のすぐ隣で携帯電話記事を読んでいた夫は、その次男くんの慌てぶりに驚いて、何事かと付いてきた。
もしも次男くんがいなくて夫一人だったら、わたしが大声でヨイショーッと叫んでも、1ミリも動くことはない。
手伝おうとする次男くんに夫が一言、「これ、手伝う必要ある?」。
わたしの心の中に吹き荒れた大嵐については割愛する。
とにかく彼は優しい。
頼みもしないのに何かと気遣って助けてくれる。
頼んでもあれこれ理由をつけて断ってくるどこかの誰かさんとは桁違いの優しさなのである。
なのでやっぱり甘えてしまった。
左腕の上部が痛くて重いものが持てないので、ガーデニングの土やウッドチップを買い控えていたのだけど、この時とばかりに店に行って運搬を手伝ってもらった。
疲れてるのにごめんねと言うと、ちょうど運動不足だったので良い運動になると言って、バーベルのように頭の上に持ち上げたりする。
いやあ全く、一体誰の子だ?
いやいや、親バカが炸裂してしまったようだ。ここらへんでやめておこう。
長男くんと奥さんのTちゃんも2泊3日で来てくれた。
3人が揃うのは本当に久しぶり。
次男くんのフィアンセのEちゃんもいたら良かったのだけど、愛犬スミくんを置いて来るわけにはいかない。
それはともかく、このろくすっぽ会えなかった魔の2年半の間に、長男くんは出世し、Tちゃんはグリーンカード&公認会計士資格を取得し、新居に引っ越した。
次男くんとEちゃんも、それぞれの夢だった仕事に就職し、西海岸に引っ越して行った。
なのに夫とわたしは、全く何もしないまま時間だけが過ぎてしまっていた。
なのでこの機会に、残念ながらEちゃんはいないけど、せめて3人にご馳走しようと、最近見つけたお寿司屋さんに出かけた。
へそくりがちゃんと財布の中に入っているのを確認して、みんなにおまかせ寿司を薦める。
これは先月の末に、結婚30周年記念を祝って夫と二人で食べたメニューで、それがとても美味しかったのだ。
と続き、とびっきり旨い寿司が登場する。
次にミニステーキがやってきてデザートで〆る。
息子たちは二人揃って、親とは真逆の高給取りで口が肥えているからか、寿司以外にはあまり感動してくれなかったけど、でもまあいいや、みんなで楽しく食べられたんだからと、気を取り直してお会計をしてもらおうとすると、
いや、今夜は僕が出すつもりやったと長男くん。
え?そういうわけにはいかんわ、わたしが勝手にメニューを決めてお祝いのつもりでご馳走しようと思ったんやから。
そのお金ってどっから?
どっからって、わたしのへそくりやん。
そんなら余計に使わすわけにはいかんわ、僕が払う。
というわけで、長男くんには大金を散財させて、次男くんには肉体労働を強いた、とほほな母親で終わってしまったのであった。