鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『巷説百物語:京極夏彦・著』~はじまりは、単独完結編

2011-04-16 19:05:59 | Weblog
染井吉野も終わり。
葉桜に変わりつつ、みどりの季節を迎える。
夕方からやや風がでてきて、この季節独特の春雷を呼ぶのか・・・。


先月の終わり頃から、京極堂さんの本を読んでいる。
以前読んだものを読みなおしている。
所謂、『再読』。

裏・京極堂・御行の又市リシーズのはじまり・・・。
『巷説百物語』は、中篇7作品で、構成されていて、ひとつひとつが完結して終わる。
物語に続編への伏線がない分、明確で、分りやすい。
次の『続巷説百物語』からは、ひとつひとつ完結しながらも、次の物語へとリンクが、張られていて、構造が複雑になっていく分、また違う面白さがある。

初期の7編は、完全に完結していて、普通の人間とは、どこか違う・・・精神面での構造の違う、自分では、抑えられない衝動をもつ人々の殺人の動機を明かしていくところに、『人間』という小さなひとつの悲しい存在を浮き彫りにしていく・・・。

過去の殺人を雨の夜に暴かれる『小豆洗い』
狐と自分の愛人を殺さなければならなくなった『白蔵主』
ヒトの心を持たない凶悪な首切り浪人と強欲な極道を葬りさるトリック『舞首』
自分の出生を高貴だと信じ、狸によって葬られる『芝衛門狸』
馬によって繁栄を築き、馬の翻弄された『塩の長司』
柳の幽霊に翻弄される『柳女』
死体を溺愛しつづける『帷子辻』

世間的には、怪かしの仕業。
裏には、巧妙なトリックをしかける御業・又市そして、その仲間達。

いつもトリックの仕掛けに利用される戯作者志望・京橋蝋燭問屋の若隠居・山岡百介は、表と裏の境界線に立ち、中途半端にしか生きられない半端モノ。
それでも、百介は、仕掛けに借り出され、重要なキャストを演じつつも自覚のないまま、コトの顛末を最後の最後に知らされる・・・。

極楽蜻蛉のような恵まれた境遇の山岡百介だけれど、彼もまた深い心の闇をもつひと。
又市とは一線を画す表と裏を象徴するようだ。
又市の情容赦のないリアリズムな『怪』と山岡百介の求める非現実の『怪』が、縦糸となり、横糸となり、物語を織りなして行く。