「思い付きで作業を進めるのではなく、手順通りに根気よく、コツコツやりましょう」と提言する積りでいたら、リーダーから連絡が入った。「先方から、『今掘っている井戸の場所は、家庭に不幸が起きると言われたので、場所を変えたい』と言ってきた。従って、明日の作業は中止する」と。
若い人でも家相占いを信じる人がいるのかと感心した。そもそも、その場所はご主人と息子さんたちが掘ったところである。そういうことを気にするなら、占いをしてから掘ればよかったのにと思う。リーダーは人がいいから、「『分かりました』と了解した」と言う。
依頼主は、作業に来た私たちを見て、こんなに高齢の人で、井戸が掘れるのかと心配して、家相のことを持ち出し、井戸掘りを中止したかったのではないかとさえ思った。何しろ作業効率が悪い。仕事が遅々として進まない。リーダーは腰が悪いから、いつも座り込んでいる。そんな私たちへの気遣いかも知れない。
とにかく明日は中止になった。少し身体を休めて、次の作業に備えたい。昨日、昼飯に入った『丸亀製麺』はけっこう客で混んでいた。働いている人を見るとほとんどがインド人だった。麺を打つ人も、盛り付ける人も、片付ける人も。ただし、レジを打つ人だけは日本人の若い女性だった。
日本の若い人たちは、下積みのような仕事を嫌うという。汗を流して働くような職場は敬遠するらしい。「戦後の日本人のように真面目に働いている」と先輩が言う。「日本人は豊かになったと思っているが、賃金が下がっている国は日本だけだ」と指摘する。「競争によって経済は活性化すると政府は言ってきたが、経済学者は『誤りだった』と認めている」と言い切る。
私たちは経済効率とは無縁なところで生きている。それでも経済が良くなっているか否かはよく分かる。退職してから、「洋服は全く買ったことが無い」生活者だから。