1月の名演は劇団スイセイのミュージカル『楽園』。ハワイが舞台という題名だけ見た時は、明るく楽しい物語なのかと思ったが、ロミオとジュリエットのような悲劇だった。ハワイに移民した日本人の間に子どもが生まれ、その日系2世が成人になろうとする頃の話だ。ようやく生活できるようになってきたが、日米間では交渉が暗礁に乗り上げていた。そしていきなり12月7日がやってくる。
日本軍による真珠湾攻撃である。アメリカは移民の国、国論が1つになるのは難しいだろうと予想していた日本政府の思惑を超えて、「卑怯な日本をたたけ」とアメリカ国民は意気があがる。攻撃を受けたハワイはもっと深刻で、日本人のリーダーは収容所へ送られ、日経2世たちは「アメリカ人なら志願兵となって戦え」とそそのかされる。主人公は悩んだ末に、「アメリカ人であることを証明し、みんなが仲良く暮らせるハワイにしよう」と志願する。
日本がハワイを攻撃したことで、日系人たちにも溝が生まれる。「移民のことなど何も考えていない」「同じ日本人に殺されかけた」と言う人、「私たちはアメリカ人なのになぜ非難されるのか」とアメリカ人に噛み付く人、それだけではなく日本人同士がいがみ合うようになる。戦争は国と国との戦いであるとともに、どう考えるかで人と人との間に亀裂と憎悪を生む。
主人公にはハワイ人の恋人がいた。その恋人は月夜に虹を見た両親が拾い育ててきた。妊娠している恋人の姉は美しく気立てのいい妹を憎んでいる。妊娠させた男は妹に気があり、姉を喜ばせるためだと妹をパールハーバーに誘い出すが、日本軍の奇襲に遭い死んでしまう。姉はますます妹と日本人を憎く思う。そしてある日、主人公の妹が兄から届いた手紙を恋人のところへ持って行くが、そこで恋人の姉に手紙を渡してしまう。日本人を恨む姉は主人公の妹に「日本人は恐ろしい」と罵声を浴びせる。怒った妹は妊娠させた男がパールハーバーでしたことを言ってしまう。
姉は妹に恋人は戦死し、岬の海の底で待っていると伝える。恋人は岬へと向かうが、復員してきた主人公も後を追って岬へと向かい、結局2人は海へと身を投げる。姉の妹への嫉妬と憎悪、そして戦争が人々を分断していく悲劇をミュージカルで表現した見ごたえのある作品で、涙が流れてしかたなかった。
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