【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会会長代行 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

「火神」主宰 「俳句大学」学長 「Haïku Column」代表 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞/中村青史賞

柴田奈美句集『イニシャル』一句鑑賞 

2023年01月19日 08時16分20秒 | 月刊「俳壇」

月刊「俳壇」2023年1月号(転載許可済)

ブックレビュー

柴田奈美句集『イニシャル』一句鑑賞 

 

どんぐりの降る降る鬼は十数ふ

 

 鬼ごっこの変種の一つ「だるまさんがころんだ」をして

いる場面であろう。「鬼は十数ふ」とは「だるまさんがこ

ろんだ」の音数が十拍になることを指す。「どんぐり」が

降りしきるなかに、遊びに余念のない子ども達の様子が描

かれていて、ほほえましい。自選十二句にも選ばれている

掲句が魅力的なのは、「十数ふ」という行為のなかで、異

界へと誘い込まれる感覚がするからである。「鬼」の句の

ほかに、「雪女」の句も多く、「盆踊影の一つは亡者なり」

と「亡者」まで詠み込まれていて、異界の世界が広がって

いる。集中の「桜蘂声のやさしき鬼の来る」の鬼や「間引

かれし子を懐に雪女」の雪女は異形の者のおどろおどろし

さがない。「形は鬼なれ共、心は人なるがゆへに」という

人間的な心を捨てかねている世阿弥の「鬼」の能に近く、

裏切られても、命を取らずに去り、約束の破棄を許してい

る小泉八雲の「雪女」に同じである。異界への嗜好を示し、

日本人の異界への親近性を表現する句の数々は、句集『イ

ニシャル』の特色の一つであると言ってもよい。

                     永田満徳


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