読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

心理的サスペンスの境地『ふたりの証拠』

2012年08月02日 | 読書

◇ 『ふたりの証拠』(原題:La Preuve)
             著者: アゴタ・クリストフ(AGOTA KRISTOF)

             訳者:堀 茂樹 1996.1 
                早川書房 刊 (1999.6第29刷) 

  


 作者はハンガリー生まれ。1956年ハンガリー動乱の折に西側に亡命。スイス在住中1986年に
『悪童日記』で作家デビュー。本書は第二作で悪童日記に次ぐ三部作の第二部。第三部(『La
Troisieme Mensonge』)は1991年に発表された(日本では未訳)。

 「彼は飲む。ヤスミ―ヌも飲む。彼はまた注ぐ。彼らは無言で飲む。町の鐘の音が遠くに聞こえる。」
感情移入の全くない短いセンテンスで語られる恐ろしい話にぐいぐい引き込まれ、最後まで一気に読
んでしまう。(賛辞の一つから)
 どこか虜にしてしまう不思議な語り口である。
 小さな町で身内が死に孤独となった主人公「リュカ」をめぐっていろんな人々、農園主のジョゼフ、教
会の神父、幼馴染のアニェス、書籍店主のヴィクトール、共産党書記のペテール、図書館司書のクラ
ラ・・・が現れまた去っていく。

 母親と妹は戦争の爆撃で亡くした。父親は国境を越えようとして射殺された。そのうちに育ててくれ
た祖母が亡くなった。一時ショックで神経衰弱になるが、ある夜現れた親子を家においてやることにな
ってからまた蘇る。
 その母親ヤスミーヌは父親の子を宿した。生まれた子は脊椎と足に障害を持っていた。リュカはその
子マティアスを我が子のように可愛がる。やがて母親は不具の子を置いてどこかに消える。利発で早熟
なマティアスはいじめに遭いながらも学校に行きはじめた。ただリュカがほかの子に関心を持ったり、女
性と親しくなると極度な嫉妬心を示す。ついにそれが高じて自殺してしまう。
それから15年、突然リュカは姿を消す。

更に20年たって、リュカの友人ペテールの許にリュカの双子の兄クラウスと名乗る男が現れる。
最終章。 どんでん返し。 

第三部の『第三の嘘』の翻訳が楽しみ。

(以上この項終わり) 


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