◇『犯罪者 クリミナ ル(下)』
著者: 太田 愛 2012.9 角川書店 刊
第Ⅲ章(承前)
事態は急迫し、スリリングな展開で目が離せない。タイタスフーズと癒着してい
る磯辺代議士の秘書服部やその手先滝川とメルトフェイス症候群側の真崎、中迫、
繁藤修司、相馬、鎗本の5人組との直接対決の活劇場面が多くなり読み応え満点。
真崎は磯辺代議士とタイタスの癒着並びに汚染離乳食を告発する佐々木邦夫名義
の告発文書をマスメディア、厚生労働省などに送る。また佐々木は会社に汚染離乳
食サンプルと引き換えに3億円を要求する。
厚生労働省は4月4日に同社藤沢工場の立ち入り検査実施を決めた。メディアは4
月4日の検査結果を満を持して待つ。
四国高知のホテルで宅配便の配送所の途中で受け取るという意表を突く手を使
って金は手に入れた。サンプルを隠している現場とそれを目撃した5人の男女が写
っている動画をメモリースティックに収め、それを報道機関等にあて送るよう松本
の杉田に依頼する手はずを整えたものの、ホテル内に思ってもみなかった小悪党が
いて、手筈が狂い奪われたメモリースティックは滝川の手に渡ってしまう。真崎も
うかつにも滝川に捕われサンプルフーズのありかを明かすよう拷問を受けるが、真
崎は頑として口を割らない。ついに滝川に殺される。
滝川に真崎を殺された中迫、繁藤、相馬、鎗本の4人は真崎の仇討を誓い鎗本がプ
ランを作る。
第Ⅳ章 終章
TVの「ドキュメント21」でのメルトフェイス症候群取材を通じて知りあったテレ
ビ局の小田嶋、鳥山、庭野は繁藤修司が滝川と事件の真相をやり取りする場面を実
況で流すという鎗本の計画に乗る。
修司が囮となって滝本に追わせる。殺しの手口は滝本が上だがちょうど吹いて
きた風で、立場が逆転し、折からたどり着いた相馬がピストルで滝川の肩を銃撃
し倒すことができた。天敵滝川を捕らえ突破口ができたと思った矢先、警察車両
で救急護送の間際にどこからともなく現れた兇徒によって滝川は刺殺される。
警察とつながりを持つと思われた滝川は身元を示す手がかりが全くない。服部、
磯辺を初めタイタスフーズの森野、宮島らとのつながりも証明できない。
事態の深刻化で身の危険を察した磯辺は政界を引退する。タイタスグループ
も磯辺との癒着を知る役員を切り、タイタスフーズは独立させてた上で同業他社
に売却した。悪い奴ほどよく眠るを絵でかいたような結末だった。
ただ鎗本らが手にした5億円は無事にメルトフェイス症候群被害者連絡会の手
に渡った。出所が脅迫で得られた金という真相を知られないために、匿名者から
の寄金ということにした。それでも誹謗中傷の電話は引きも切らないという。
自分以外の人が大金を手にすることが許せないのである。この金はタイタスと国
を相手に集団訴訟を起こす資金になるというのに。
終盤、小田嶋が作った「新盆」というTV番組の部分は出色の出来である。朝早
く散歩などに出て不審なバンと廃棄シーンを目撃しただけで、無惨にも殺されて
しまった人たちの遺族の、それぞれの無念の中に、個々人の人生と憾みがこもっ
た独白が生々しく、出来のいい締めくくりなのである。
(以上この項終わり)
に売却した。
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