読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

雫井脩介の『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』

2020年07月01日 | 読書

◇『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼

                  著者:雫井脩介   2015.9 双葉社 刊

 

 警察小説のジャンルに入るが、犯罪者側の事情にも十分丁寧な説明ぶりであり、
それだけに面白みが倍加している。
 第7回大藪春彦賞受賞作品。
    
 これは「振り込め詐欺」とその発展形態としての「誘拐ビジネス」の顚末である。
 前半はいわゆる「振り込み詐欺」グループの話。砂山知樹とその弟健春詐欺グルー
 プに加わる経緯と彼らのグループが一網打尽となった際、辛うじて逃げ出した二人
 が詐欺指南役の淡野悟志に誘われて誘拐ビジネスに手を染める次第がメインである。

  これに対する警察陣は「振り込み詐欺」事案は警視庁だが、本作メインの「親子
 誘拐」事案は神奈川県警で主役は刑事特別捜査隊の主任巻島警視。『犯人に告ぐ1』
 では「バッドマン」事案で勇名をはせた。

  砂山知樹は大学卒業後就活では大手企業には落ちて、地元の洋菓子会社「ミナト堂」
 に内定したものの、賞味期限改ざん事件で内定取り消しとなった。バイト先のショッ
 トバーで知り合った「振り込み詐欺」グループのチームのボス社本に声をかけられ弟
 の健春共々参加。しかし向坂という元メンバーが警察にチクったためにチームは一網
 打尽となった。ただ知樹と健春は辛うじて逃げ延び、しばらくは逼塞していた。

  そこに振り込み詐欺でかつての指南役でだった淡野が現れた。今度はもっと割の良
 い「誘拐ビジネス」を一緒にやろうと誘う。「大金をさくっととる仕事」だという。
  第一弾のターゲットは美容機器メーカーの取締役・社長の一人息子遊び人のぼんぼ
 ん。誘拐後本人を説き伏せ、3日後解放し裏で1千万円を払うことを約束させる。
  仕事は「大日本誘拐団」の仕業と告げる。

  さて第1弾の誘拐で布石を打った淡野は、本命誘拐として「ミナト堂」社長をター
 ゲットにすると告げる。知樹が内定を取り消された会社。多少の恨みはある。身代金
 は1億円。今度は社長とその一人息子(少3)の二人を同時誘拐する。ただし監禁場
 所は別々。
  ここから神奈川県警刑事部刑事特別捜査隊の巻島警視が登場。「大日本誘拐団」の
 淡野との知恵比べ、だまし合いが始まる。

  誘拐事案は身代金の受け渡しという接点で犯人は必ず身をさらすためまず成功した
 ためしがない。割に合わない犯罪だというのが常識であるが、警察を出し抜くことに
 知恵とスリルを求め挑戦するのがプロの犯罪者。第一弾の誘拐事案の成功例を下敷き
 にしながらターゲットと息子の懐柔に当たる誘拐団の動きが実に巧みである。

  第一回目の身代金(金塊バー1億円)受け渡しは成功しなかった。正義感との葛藤が
 あって、ジレンマの末社長が淡野との密約をばらしてしまったから。
  さて第二回目はどうなるか。沈着冷静にして目配り気配りが効く淡野。黒木という
 社長秘書を手玉に使う予定であるが、私はこの手は危険とみていた。当然巻島も黒木
 をマークする筈で、信頼度が低いと見たのである。淡野がどういう手立てで警察を出
 し抜くか。
  淡野は27歳の知樹が「淡野くん」と呼んでいるので同い年位と思っていたが、警
 察は「40過ぎ」とみている。この落ち着きと策略の緻密さからするとやはり40歳前後
 かも。

 事件の結果はここでは述べない。ただ事の乱れは蟻の一穴からという諺通りというこ
 とである。 

                              (以上この項終わり)

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« なんだこりゃ その3 | トップ | ようやく収穫期か「家庭菜園... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事