◇真珠湾奇襲攻撃諜報戦
この8月15日は、64回目の終戦記念日。国民学校一年生で敗戦の詔勅を聞い
た(ほんとに耳にしたのか自信がない)身としては、開放感と食糧難が終戦直後
の強烈な記憶であるが、実は私が生まれて程なく、真珠湾攻撃と対米宣戦布告
があり太平洋戦争に突入したのだ。
経済封鎖で追い込まれなければこの無謀な戦いの泥沼迷い込むこともなかっ
たろうにとか、関東軍の暴走を敢然と裁断していたら欧米と多少はましな対話が
出来たろうにとか、いくつもの「たられば」があげられるが、小さな綻びやすれ違
い、誤解や錯覚などが重なり、気がつくと取り返しようのない隔絶を招いてしまい
臍をかむことはままある。
佐々木譲の小説「エトロフ発緊急電」(1989年日本推理作家協会賞長篇部門)
は、極秘裏にハワイ急襲を図る日本帝国海軍とこれを察知しようとする米国海軍
情報部の熾烈なスパイ作戦の話である。
米海軍情報部が日本に送り込む日系米国人に対する教育風景、日系人なる
が故に疑われる忠誠心と自発性、日本での諜報活動協力者となる在日朝鮮人
の日本人に対する怨恨、南京大虐殺で婚約者を陵辱殺されスパイとなった米人
宣教師の怨嗟、米国スパイ網の動きからエトロフへの密航を察知しこれを追う憲
兵隊軍曹の執念、択捉島において江戸時代の宿場本陣・問屋場に相当する
「駅逓」の女取扱人(ロシア人との混血女性)の存在、その雇人(クリル人)の役割
等々登場人物も多く人物像もなかなかよく描かれている。
択捉(エトロフ)島の単冠(ヒトカップ)湾に集結した連合艦隊の出航までの諜報活動
特に雪の降る11月末、密かに艦隊の集結・ハワイに向けての出航情報を米国に
打電する緊迫した対決場面が面白い。
史実としては、海軍のハワイ急襲作戦は米国の暗号解読である程度察知され
ていた。日本大使館での予想外のトラブルで宣戦布告文書が米国に届く時間がず
れ込み、結果として「卑怯なだまし討ち」となった。
ルーズベルト大統領は宣戦布告前の奇襲というアンフェアな攻撃を奇禍とし、
米国民をして「卑怯な日本をやっつける」戦闘態勢に一途に駆り立てることに成
功した。
この小説は日本推理作家協会賞受賞作品であるが、推理物というよりも佐々
木譲の作品系譜からすれば、冒険小説ないしハードボイルドの色彩が濃い仕
立てで日本冒険小説協会大賞、山本周五郎賞も受賞している。
なおこの作品は1993年「エトロフ遥かなり」の題名でTVドラマ化された(NHK)。
(この項終わり)
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題材が題材なだけに敬遠していましたが、やっと手に取った次第です。
水彩画も拝見いたしました。すばらしいですね。私は絵や音楽には疎いので・・・
今後もちょくちょく訪問させていただきます。
佐々木ファンからのコメント嬉しいです。
自分でもこんな小説が書けたら…などと
夢想しています。(無理だって!)
今後ともご愛顧に。