■水道法改正されコンセッション方式の運営が導入された宮城県
2018年12月に水道法が改正された。これはTPP関連法であり、海外資本に日本の水市場を売り渡すのも野になるのではないかと心配されていた。全国的には浜松市の下水道事業の一部を2019年4月からコンセッション方式で運営を開始した。コンセッション方式とは、施設の所有権を自治体に残したまま、運営を民間事業者に長期間委託する事業方式のことをいう。水道法改正の議論の中では、フランスのパリやスペインのバルセロナなど先行して水道事業の民営化が行われたが、水道料金の値上げや安全の確保などを理由として再公営化する動きがでている中で、民営化は問題ありと言われてきた。そうした中で、宮城県がなぜ全国に先駆けて水道事業のコンセッションに踏み切ったのだろうか。
■水道事業の環境悪化から広域連携へ
宮城県に限らず水道事業を取り巻く環境は厳しい。水道事業は自治体の固有事業であるが独立採算制をとる企業会計だ。水道料金収入で人件費や施設費、修繕費などを賄っている。人口減少と共に水需要が減少し水道料金収入が減る一方で、老朽管の更新や耐震化などにかかる費用は今後も増加していく。
国は水道法の改正の中で令和4年度末までに都道府県に「広域連携推進計画」をつくるよう指示、現状の経営状況の分析をはじめ広域連携に向けた議論が始まった。環境部が担当するが、県企業局が用水や末端給水をもつ県では、企業局が関係する市町村によびかけ広域連携に向けた協議が行われている。長野県内でも、県が末端給水を行っている長野市、千曲市、上田市、坂城町と連携協議が精力的に行われている。さらに用水供給している松本市、塩尻市、山形村との協議も始まる。
広域連携推進計画の中では、県企業局が関わっていない自治体水道事業についても連携の在り方が盛り込まれているが具体化は未知数だ。すでに広域連携をしている佐久市水道事業団や上伊那水道事業組合などが、さらに周辺の自治体との連携拡大に向けて議論を行う方向性は示されているが、多くの自治体は実際はこの連携計画から取り残されていく可能性がある。【課題①】
■宮城県、県企業局が関わる事業をコンセッション方式へ
水道法の改正の目的は、大きくは広域連携の推進と官民連携の推進である。宮城県の場合、広域連携の推進は環境部ですすめ、県企業局が関わる上下水道事業や工業用水事業を先行して官民連携を進めている。つまり、宮城県のコンセッション方式の導入は広域連携とは関係がない。【課題①】
コンセッション方式導入以前から、県企業局の水道用水供給事業、公共用水供給事業、流域下水道事業は指定管理により民間委託されていた。
大崎広域水道用水供給事業と仙台北部工業用水道事業は、「水ing」
仙南・仙塩広域水道用水供給事業は、「ウォーターエージェンシー」
仙塩工業用水事業と仙台圏工業用水道事業は、「水ing]
仙塩流域下水道事業は、「みやぎ流域下水道施設管理運営共同事業体」
阿武隈川下流流域下水道事業は、「水ing」
鳴瀬川流域下水道事業と吉田川流域下水道事業は、「みやぎ流域下水道施設管理運営共同事業体」
この他、今回のコンセッションの対象となっていない企業局の事業が三つある。北上川下流流域下水道事業、迫川流域下水道事業、北上川下流東部流域下水道事業である。理由は、「水道事業と一体運営の効果が最も高いと判断」したと説明がされている。【課題②】
■民間の力を十分に活かせていないからコンセッションへ
県企業局の説明では、これまでの民間委託とコンセッションを比較している。
①契約期間が最長で4~5年で従業員の雇用が不安定、人材育成が困難⇒20年間の契約で雇用の安定と人材育成、技術の継承・革新が可能に
②事業ごとに委託しているのでスケールメリットを発揮しがたい⇒スケールメリットの発言効果が拡大
③仕様発注方式⇒性能発注方式に変えることで、ITの活用により自動化・人員削減、最適最新ソフトの導入、長期一括調達による薬品を安く購入
これまでの業務内容のうち、コンセッションで役割が変わるものは、「薬品・資材の調達」「設備の補修・更新工事」が民間に移動するだけで、「事業全体の総合的管理・モニタリング」「水質検査」「管路の維持管理、管路建物の更新工事」は、引き続き県企業局が運営する。【課題②】
県企業局は、コンセッション方式導入により、20年間で約247億円の総事業費が削減できると説明している。
■企業の選定
2024年4月事業開始に向けた、受注企業の選定作業は2年前の2020年3月に募集要項が公表され公募が開始された。第一次審査で参加資格を得た3つの企業グループが「競争的対話」を経て、それぞれの企業グループの「事業方針・実施体制」「水質管理・運転管理・保守点検」30点、「改築修繕」44点、「セルフモニタリング・危機管理・事業継続措置」34点、「地域貢献」10点などに加えて「運営権者提案額」40点で第2次審査が行われた。
応募した企業グループは以下の通り
A JFEエンジニアリング・東北電力・三菱商事・明電舎・水ing・ウォーターエージェンシー・NJS・DBJグループ
B みやぎアクアイノベーション(前田建設・スエズウォーターサービス他7社)
C メタウォーターグループ(メタウォーター・ヴェオリア他8社)
第2次審査の結果、Cのメタウォーターグループが第1位優先交渉権者、Bのみやぎアクアイノベーションが第2位次点交渉権者となった。
メタウォーターグループによると県が期待したコスト削減247億円を超える、337億円のコスト削減が提案された。内容は、ICT導入や業務の効率化による組織体制の最適化により▲167億円、新技術導入による消費電力の軽減・抑制により▲48億円、設備の長寿命化で▲348億円、修繕費+101億円となっている。
結果、これまで指定管理で受注してきた水ingやウォーターエージェンシーからメタウォーター・ヴェオリアグループへ変わった。【課題③】
■みずむすびビジョン
メタウォーターグループが県に示した提案書が「みずむすびビジョンである」。このグループはSPC(特別目的会社)と呼ばれ、出資比率は以下のとおりである。
メタウォーター㈱ 34.5% 経営管理、改築・修繕業務
メタウォーターサービス㈱ 0.5% 維持管理業務
ヴェオリア・ジェネッツ㈱ 34.0% 維持管理業務
オリックス㈱ 15.0% 財務管理業務
㈱日立製作所 8.0% 改築・修繕業務
㈱日水コン 3.0% 計画・設計業務
㈱橋本店 2.0% 維持管理業務(土木・建築)
㈱復建技術コンサルタント 1.0% 計画・設計・検査業務
産電工業㈱ 1.0% 改築・修繕業務
東急建設㈱ 1.0% 維持管理業務(土木・建築)
実質、メタウォーターとヴェオリア・ジェネッツとの合弁会社といえる。みずむすびビジョンでは、「水質管理体制」「施設の維持管理体制」「災害・事故時の対応」「情報公開とモニタリング機能の確保」「地域貢献」「事業の安定性」「任意事業」などが書き込まれている。
■事業開始後のモニタリング体制
事業開始後、適正な運営が行われているか、県の「要求水準を安定的に充足することを確認するための監視」であるモニタリングが、運営会社によるセルフモニタリング、県によるモニタリング、経営審査会によるモニタリングの3段階で行わることになっている。
また、みやぎ型管理運営方式はPFI事業であるため、県の予算・決算から抜けるため、監査の対象外となる【課題④】。そのため、財務状況や水質のモニタリング等、事業の運営状況を定期的に県議会に報告する県条例がつくられている。
運営権者の情報公開は、県情報公開条例に趣旨に沿った取り扱いを行うことになっている。【課題⑤】
■2023年度決算およびセルフモニタリングの結果
このSPC(特別目的会社)は、「みずむすびマネジメントみやぎ株式会社」として、完全子会社の「みずむすびサービスみやぎ株式会社」が運営主体となっている。
2023年7月31日に発表された「令和4年度業務報告書」では、「事業計画に示した利益水準を上回る経営成績に着地」「年間を通して必要な投資を見極め抑制的な経営に努めたこと、事業初年度において厚めに手当てしていた予備費の一部を使わなかったこと、大きな費用が必要となる突発修繕が発生しなかったこと、そして雨天時浸入水の影響とみられる要因で下水道事業において想定以上に処理量が増加し売上が伸びたこと等に起因」「一方で、12 月には仙南・仙塩広域水道用水供給事業において、要求水準で定められた水質を逸脱する事案も発生しており、安定的な事業運営における課題がいくつか残りました」と報告されている。
(1)人員体制 実施体制(人数)は 269 名を基本とし、さらに運転管理の早期安定化と従事者の早期習熟を進める目的で、計画外となりましたが、適宜株主等からの熟練度の高い応援人員を追加的に配置(令和 5 年 3 月 31 日時点で 10 名)して対応。【課題③】
(2)収支実績 令和 4 年度売上高は、6,816 百万円、経常利益 518 百万円、当期純利益 359 百万円
(3)株主配当 本年度の当期純利益は 359 百万円となったものの、利益剰余金は依然として▲170 百万円であるため、令和 5 年度において当社の株主への配当を行わない。
また、株式会社みずむすびサービスみやぎにおいては利益剰余金が 401 百万円となり一定の配当が可能な水準にはあるものの、昨今の電力費等の上昇の影響で、令和 5 年度の経営環境が大きく悪化することが想定されることから、当面は株主への配当を行わない。
(4)役員報酬 代表取締役社長のみに17,343 千円を代表取締役社長の派遣元であるメタウォーター株式会社へ支払っている。
(5)改善モニタリング委員会の議論 「地域に根差した会社となるための取組」「緊急時における地元企業との連携」「民間が担うことに対する理解促進と情報発信」「下水道資源の肥料利用に関する取組」などが議論された。
(6)地域貢献 設計工事などの地元発注率は金額ベースで14%、みずむすびサービスみやぎからの発注は24%だった。地域人材雇用率は89.6%。
■コンセッション方式導入の課題
(1)みやぎ型上工下水一体官民連携運営事業は、これまで県企業局が運営してきた事業のみをコンセッションほうしきを導入したもので、水道法改正の目的の一つである広域連携とは関係がない。広域連携については、環境部が進めている。
(2)そもそもの狙いが、宮城県全体の広域連携とは離れて、これまで県企業局が指定管理で運営してきたものをコンセッション方式に切り替えたに過ぎない。したがって、県企業局が運営している他の3つの流域下水道事業が含まれないことも含めて、受注する企業にとって利益が出る部分だけを請け負うということになり、県としての県民益の公平なサービス提供になっているとはいえない。
利益の出ない、「管路管理」が県企業局が引き続き運営する意味はあるのか。市町村に売る水道の安全確保においても、浄水場での問題か、途中の管路の問題か、責任の所在が直ちに判明できない。
(3)これまでの指定管理が4~5年、コンセッション方式が20年の契約期間である。今回のコンセッション方式導入で、これまでの企業から他の企業に変わったことで、「現場のノウハウ」が引き継げず、人員を増やして対応せざるを得なかった。20年後に、同様の問題が出てくるので、新たな企業が契約をすることは逆に難しくなる。
(4)みやぎ型管理運営方式はPFI事業であるため、県の予算・決算から抜けるため、監査の対象外となる。そのため、財務状況や水質のモニタリング等、事業の運営状況を定期的に県議会に報告する県条例がつくられているが、何をどのように県議会に報告されるのかはこれからである。
(5)運営権者の情報公開は、県情報公開条例に趣旨に沿った取り扱いを行うことになっているが、2022年7月28日市民団体からみずむすびマネジメントみやぎへの質問への回答のうち、「本社および事業所ごとの親会社からの出向者と新規採用者の内訳」「新規採用者のうち昨年度まで同じ業務に従事していた社員数の事業所ごとの内訳」「当社配備予定の社員数に加配して事業がスタートしていると聞くが、加配の事業所ごとの内訳と理由(のうち具体的な人数)」「個別の社員の勤務先」「浄水場および浄化センターのシフト体制、1勤務あたりの人数の事業ごとの内訳」については、「公開しておりません」と回答している。これらが、県情報公開条例の趣旨に基づくものなのか確認が必用。
以上