リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ガット弦の話題(2)

2006年03月24日 15時53分10秒 | 音楽系
私の生徒にKさんという方がいらっしゃるんですが、彼がナイロン弦、カーボン弦、ナイルガット弦、ガット弦の張力を実測しました。弦の張力を計算するには、音の高さ、弦の長さ、太さからわりだすことができます。昔はこれを手計算(その後電卓)していましたが今はコンピュータを使って一発で計算することができます。

彼の実測の結果は(「K氏の実験」と呼びましょう)私たちが大前提としていた常識を大きく覆すものでした。私たちは(少なくとも私は)計算式で得られた張力でもって弦が張られているものと30年以上信じてきましたが、(笑)実際に計ってみるとそうではないのです!

K氏の実験によれば、計算では直径0.45ミリのナイロン弦を3.7キロで張ったつもりが、実は張った直後から弦が伸びて、ある程度安定した時は、0.425ミリ、3.2キロになるというんです。要するに3.7キロのつもりが実は3.2キロ!うーん、たった500グラムですけど、リュートの1弦にとってはすごい大きな問題なんですよ。

で、ここからが重要なんですけど、K氏の実験では、ガット弦に関しては張ったあともほとんど伸びず理論値のままだというのです。ガット弦は張りが強いとよくいうのを聞いたことがありましたが、このことが実証されたわけです。「張りが強いね」って思ってそこから何も考えないでいましたが、なぜなのかをきちんと突き詰めてみないと事実は見えてこないんですね。

そこで思ったのが、今までバロックリュートにガット弦を張って成功した話をあまり聞かないのは、弦の性能より選択の問題ではないかということです。今までガット弦の選定は、ナイロン弦の理論値の張力と同じガット弦を選んでいました。(それでもガット弦はナイロンより細くなります)でもナイロン弦の実際の張力は理論値より低いので、より細いガットを選ぶべきじゃないかということです。

ちょっとややこしい話になってきて恐縮ですが、要するにより細くより(張力の)弱いガット弦を張ったらどうかということです。「より細く」にしたらよけい切れやすくなるのではと思われますが、「より弱く」なので意外と持つのではと思い、K氏に張ってもらいました。結果は思惑通りK氏のガット弦は1ヶ月以上経った今も1本も切れていません。(もっとも彼の練習時間の詳細はよくわかりませんが)細い弦をやや強めに張っているので切れやすいののでもっと太い弦を張るのではなく、より細くより弱く張ってみたらどうかという、いわば逆転の発想です。

人にやらせてばかりではなんですので、今度は自分で実証実験を行うことに。先週K社に頼んでおいたバロックリュート用ガット弦が昨日到着しました。さっそく1コースの0.36ミリ(細いですよー)を張ってみましたが、しょっぱなからガックリ。(笑)振動不良弦です。これはひどいので、K社に文句を言ってやろうかと思っています。交換用の1弦をもう1本頼んであったので、それをはると、まぁ何とか使えるというレベル。1コース0.36ミリで張力は3キロを切っていますが、もう少しあってもいいかも。

今日は時間がないので、とりあえず3コースまで張っておしまい。残りはまた明日張ります。
(続く)