新聞に「西洋絵画のお約束(中野京子著)」の広告が出ていました。副題が「謎を解く50のキーワード」でそのキーワードの中にリュートが入っていましたので早速Kindleで購入して読んでみました。
リュートの項目では、楽器の簡単な説明があって、「大きさの割には軽く」という文言もありました。著者はなかなかリュートにお詳しい方かも知れません。
「近年また愛好者が増えている由」という文言もありましたが、これは微妙なところです。さすがに昔みたいに「ギターくずれ」でリュートに来たという人はもういませんが。
絵画に描かれているリュートは音楽、聴覚というずばりの象徴であるとともに、両性具有、調和の乱れ、不和などを暗示するということでした。三点の作品が挙げられています。
ひとつめはハンス・ホルバインの「大使たち」(1533)。ロンドンのナショナルギャラリー所蔵。
この作品では二人の大使が描かれていますが、フランスからイングランドへ送られた若い大使たちとのこと。イングランド王ヘンリー8世が離婚しカトリックと手を切ろうとしているのを翻意させようと若いフランスの大使たちがイングランドに赴いたのですが、描かれているリュートの弦が1本「ゆるみきっている」ので交渉は失敗だったということを表しているそうです。この「弦の1本がゆるみきっている」というのは間違いで弦は切れています。4コースのオクターブ弦です。
もっと寄ってみましょう。
明らかに4コースのオクターブ弦が切れています。弦の太さやブリッジへの結び方もとても正確に描かれています。
この当時の4コースはユニゾンではなくオクターブで張られていて、そのオクターブ弦は f ですから1コースに次ぐ(あるいは1コースと同じかさらに細い)細さなので切れやすい弦です。切れている弦が1コースではなく、4コースのオクターブ弦が切れているというのがなんか現実的で意味ありげです。1コースが切れていたらもう曲は演奏できませんが、4コースのオクターブ弦ならなんとか曲は弾けるので、この絵が描かれた1533年当時はまだ交渉の余地があったという意味でしょうか。でも実際はイングランドは1534年にカトリック教会から離脱しヘンリー8世は1538年に教皇パウルス3世に破門されています。
あと2枚の絵についてはまた次回。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます