5月と6月のコンサートでは通奏低音をニ短調調弦にしたフレンチ・テオルボを使います。このテオルボは2007年にスイスのモーリス・オッティジェーに作ってもらいました。この頃はまだ今みたいな円安ではなかったのでそれほど高くはなかったですが、それでも大型の楽器だけにそこそこは高価でした。でも今買うとなると大変です。
モーリスが最高の材料を使い、丁寧に仕上げた楽器で、薄型のボディということもありとてもふくよかでしっかりした音がよく前に出ます。通奏低音には最適でしょう。塗装が少し厚めなので表面板の「日焼け」も17年ものにしてはとても少なくまだ新品の面影が残っています。少女の面影をまだ残している熟女という感じでしょうか。(笑)
この楽器の表面板の材料は私の持っている楽器で最高にいいものです。これだけのものを使うことはまずないことです。試しに何年物か木目を数えてみました。
途中で目がくらんできて数としては正確とは言えませんが、ブリッジのひげの部分(黒いところ)までがだいたい120年分くらいありました。
これが表面板の全景ですが、真ん中の接ぎまではあと2つ分くらいありますので、推定350年くらいというところでしょうか。ホントは根気よく数えればもっと正確な年数は出ますが、50くらいから面倒になってきました。(笑)
木目は比較的広めのところもあればものすごく細いものがいくつもつづいているところもありました。気温がこれだけ変化していた中でスプルースは成長してきたわけです。年輪から年代を確定する学問があるそうですが、それに照らしあわせればこの表面板のスプルースは何年頃に生育していたことがはっきりと分かるでしょう。でも少なくともヴァイスが生きていた頃からスイス・アルプスに生育していたスプルースであることは間違いがありません。
すばらしい精緻な木目ですねえ。
これほどの細かい木目のものはそうそうにお目にかかれません。
昔は良材がまだ使用できたんでしょう。ストックもある程度あるのでしょうね。
そういえば、クラシックギターでも名のある名品の昔のものは、ハカランダも柾目の真っ黒い物であったり、スプルースも良い材料だなあという物が多い気がします。
現在は、新規の伐採禁止で、製作家の保管してる物だけでしょうし、次第にワシントン条約で禁止さされてしまう懸念もあります。
ギターの指板に使用されるローズウッドも、昨今の国際会議で危なかったといいます。ハカランダと同様になってしまったら大変なことになってました。
でも、いずれはローズウッドも禁止されるかもしれません。
マホガニーなども、キューバンマホガニーが最高峰と言われますが、既に存在はなく、17世紀頃か18世紀かの家具を解体した材料が使用できれば幸運なほどといいます。これも現在はフィジー産などの量産物になってしまってます。ホンジュラス産もどうなのかなあという懸念もあります。
ともかく、先生がご所有の貴重なリュートのように、名工がとびきりの材料で製作した名品は大事に愛奏されていくのでしょうね。まさに貴重な文化遺産だなあと思いました。