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実験手技の習熟

2008年06月09日 | 仕事・研究
実験手技の習熟に関して、ちょっと?と思うことが最近よくあります。私はかなり慎重なほうで、大事な試料を使う前に、手技の習熟のための練習と考え付く予備テストをかなりやります。たとえば、LCMという手法があります。組織切片から目的の細胞をレーザーで取ってくる方法で、その後RNAの抽出を行って、さらにPCRなどの解析を行います。この方法では、まず、組織切片をいかにきれいに作るかということがひとつの勝負の分かれ目になります。その後、LCMに供するまでに費やす時間、染色の方法、非常に微量で定量でできないRNAの抽出~解析、とこの実験にはかなりたくさんの「山」があり、そこをクリアしないと結果が得られません。しかもこの山はなかなか越えがたい山なんです。だいたい、組織標本を扱える人ばかりではありませんし、RNAの抽出もピコの単位以下ですからけっこう難しいのです。

これから私が誰かにこの手技を教え、研究させようとするならば、最初は相当集中してこの手技に取り組ませるだろうと思います。まず、切片がきちんと作れるようにならなければなりませんが、ここが一番時間がかかるのではないかと思います。経験がものをいうので、たくさん切らなければわからないことがいろいろあります。もちろん、LCM自体も決まりきったプロトコルでうまくいくものではなく、数多くやらなければ常にきちんとデータをとれるというところにはいけません。

しかし、最近わたしが目にするのは、ちょっと切って染めてみて「OK」。ちょっとためしにRNAを抽出してみて「とれてました」。学生の実験だけでなく、アメリカでもありましたが、組織学のバックグラウンドのまったくない人に「LCMを教えてやってくれ」。たしかに、ちょっとやってみて、うまくいく場合もあると思うんです。でも、LCMを例にとってみれば、いろんな組織で、気候に関わらず、いつも一定のサンプルがとれる、というレベルに達するにはどれだけ実験やらなきゃならないでしょう?絶対量、というのがあると思うんです。どんな実験もそうです。いつも一定の結果を得るためには、あるレベルに達しなければなりません。そこまで行ってから、が研究になるんであって、そこまでは得たデータも使えないんです。ですが、あらゆる実験手技に精通する必要はなく、共同研究で得意な人にやってもらってもいいわけです。そこで「全部自分でやらなければ」と思う必要もない。むしろ、中途半端に手を出すより、きちんと依頼してやってもらったほうがいい場合も多いはずです。が、もし自分でこれは習熟するぞと決めて、自分で取り組むならば、いい加減な時間の使い方はせず、一時期は集中してとことんやってください。

そしてもうひとつ。
実験手技を習熟しようというとき、ある程度は一人でもくもくと実験する必要がありますが、でも、周りにどんどん聞いて、見て、よりよくするためのコツや工夫を知る努力をしましょう。本に書いてあるプロトコルどおりにやればできる実験だと思い込まず、やってる人と話しましょう。きっと目からうろこがあるはずです。

私はときどきすごく不思議に思います。なぜ人に聞かないのだろう。もちろん自分で調べるのは大事です。全部人に聞くのは失礼です。でもやってる人に聞く以上にためになることはないんです。実は私は自分で納得しないといやなので、いつも文献に当たり、説明書を読み、理論を理解し、、、というやり方でやってきました。が、あるときある人に言われたんです。「なんで聞かないの?知ってる人に聞いたら時間が節約だよ。」ほんと、そうです。だから、どっちも必要でしょうね。自分でも調べる。でもそこにとどまらず、柔軟に聞く。そうやって『習熟』していきたいものです。





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