(1)政治に面目があるのか、必要なのかわからないが、バリ島で開催されたG20ではこれまで首脳宣言が採択されなかったことがない中、今回はウクライナ情勢で米、EU、日など西側国と露、中の意見の対立が大きく首脳宣言が採択されない観測も出ていたが最終日に全会一致での首脳宣言が採択され、G20の面目を保ったといわれる。
(2)しかし内容を見てみると、「参加国の大半がウクライナでの『戦争』(はじめて戦争と認定した)を強く非難」し、「(ロシアへの)制裁などには他の見解や異なる評価もあった」(報道)と両論併記で、参加した露のラブロフ外相は「西側は多くの国がロシアを批判したとの文言を追加した。我々は別の観点を記録に残した。それで十分だ」として全会一致に至った。
(3)つまりは米、EU、日など西側国と露のこれまでの主張をそのまま併記しただけのことで、これがG20協議の結果とするならば歩み寄りはなく成果はなく決裂しただけのことで首脳宣言としてまとまったといえるものではなく、露による一方的で理不尽なウクライナ軍事侵攻への圧倒的な国際批判からすればウクライナのインフラ、市民への破壊攻撃、一方的な一部地域の露併合を宣言している露としては首脳宣言の両論併記は現状維持の満足な結果となった。
(4)プーチン大統領が直前になって出席を取りやめ、代わりにラブロフ外相出席での両論併記の首脳宣言の採択は、露の理不尽な「面目」を保ったということになる。G20としては大半の国がウクライナでの「戦争」を強く非難しているのだから、それに見合った露の「変化」がないのであれば首脳宣言を採択しない異例の判断で「大半」の国の意思(国際世論)を示すことでもよかった。
(5)ラブロフ外相の感想での両論併記について「それで十分だ」が首脳宣言の採択にこだわったG20の変な面目を表現している。やはりG20への露よりの立場を崩さない中国習近平主席の存在、影響力、配慮が大きかったように感じる。
ただ露プーチン大統領が予定していた直前になってG20出席を取りやめたことは、ウクライナ情勢についての主要国首脳が一堂に集結して話し合うという歴史的会議の機会を失ったことは残念だったが、露がウクライナ戦争で追い詰められていることを示すもので、今後の展開では米、EU、日など西側国の停戦、終息に向けて有利な展開になる期待もある。
(6)それは追い詰められた露プーチン大統領が最終手段の戦術核使用示唆の威嚇への警戒を怠れないが、その歯止めとしてのG20の首脳宣言の採択となればなんとか最低の面目(unreasonable minimum honor)は保てることになる。