ひびレビ

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「いまさら翼といわれても」を読んで

2017-01-30 08:17:16 | 本・音楽
 米澤穂信さんの<古典部>シリーズ最新作「いまさら翼といわれても」を読みました。

 「ふたりの距離の概算」を初めて読んだ時から結構経ちましたが、その間にもアニメを2、3度見直したり、文庫版で「概算」を読み直したりと、折木奉太郎たち古典部の動向に触れていました。そしてここに来ての新作!いやー、嬉しいですね。えぇ、嬉しいと言っておきながら新作に気づいたのが昨年末で、文庫だと思ってたら新書だったから探し当てたのが1月中ごろだったわけですが(苦笑。

 今回はいずれも過去に「文芸カドカワ」か「小説 野性時代」に掲載された作品となっています。あまりそういった本を手にとって来なかった私ですが、これからは電車の移動中などに本で迷ったら手にとってみるのもいいかもなぁとふと思いました。

 収録作品は生徒会長選挙で起きた不正をめぐる「箱の中の欠落」、中学の卒業制作において奉太郎がとった行動の意味を摩耶花が探る「鏡には映らない」、アニメ化もされた「連峰は晴れているか」、摩耶花の決断が描かれる「わたしたちの伝説の一冊」、奉太郎のモットーに迫る「長い休日」、千反田の身に起きた重大な出来事が明かされる「いまさら翼と言われても」の6作品となっています。

 「箱の中の欠落」は掲載時期は最近の部類に入りますが、久々の奉太郎の推理を堪能するにはちょうどいい長さと身近さの話だったと感じます。世間を揺るがす大事件を奉太郎が解決!ではなく、何気ない身の回りで起きた謎を解く、という点が、私が古典部シリーズを好きな理由なのかもしれないと最近思いつつあります。

 「鏡には映らない」は珍しく摩耶花視点で描かれるこの物語。内容は別のサイト様で紹介されていたので知っていましたが、読むのは今回が初めてでした。この時はまだ千反田と出会っていませんが、奉太郎の根本は変わっていないと感じられました。

 「連峰は晴れているか」は、予想以上に短くまとまっていたので驚きました。アニメだと奉太郎と千反田が、司書の方が新聞を検索している間、図書館内をうろつくシーンもありましたが、あれはアニメオリジナルだったんだなぁ。
 もう二度と出会うことの無いであろう人物。それでも、自分が印象が正しかったのかどうか、もしかしたら失礼なことだったのではないかと気になり、探し出す。「やらなくてもいいこと」に該当しそうな行為をした奉太郎は少しずつ変わっている、もとい長い休みが終わり始めているんだなぁ・・・と感じた作品でした。

 「わたしたちの伝説の一冊」は摩耶花主役の2作品目。摩耶花の葛藤が描かれる一方で、里志の摩耶花へのこだわりが感じられる話です。「データベースは結論を出せない」という発言もせず、大事な人のために真摯に考える姿がとても頼もしく感じられました。ついつい奉太郎の有能っぷりに目がいってしまいますが、こういうところだと里志の良いところが光ります。
 あれやこれやと巻き込まれていく摩耶花の前に現れたのは、意外な人物でした。あの人物とは互いに影響しあい、言いたいことを言い合って、それでも上手くやっていける。そんな風に感じます。青春してるなぁ・・・

 「長い休日」は「やらなくてもいいことなら、やらない。やるべきことなら手短に」という奉太郎のモットーが、意外と重たい出来事以後のものだと判明。そんな考えを持つに至った奉太郎を、姉は「長い休日に入る」と例えていました。そして千反田は、かつての奉太郎と今の奉太郎があまり変わっていないことを指摘していました。
 千反田との出会いによって、奉太郎は少しずつ変わっている、その才能を開花させていると考えられていましたが、そうではなく、奉太郎が長い休日から目を覚ましつつあるというだけであり、根本は昔と変わりないのでしょうね。それは「鏡には映らない」を読んでも分かります。

 そして「いまさら翼といわれても」。どこへでも飛んでいける翼は「翼をください」という歌があるように、自由の象徴でもあるのでしょう。しかしいきなり翼を与えられても、人はそう簡単に飛べるのか。籠の中の鳥が、いきなり籠から解放されてどこへでも好きなところに行って良いと言われても、どこへ行けばいいのか・・・
 この一件は千反田を思う優しさ故の行動だったのかもしれませんが、だったらもう少し早く言ってあげればいいのにと思わざるを得ませんでした。千反田はこれを聞いた時、どんな反応をして、その後親にどんな風に接しているのでしょうか・・・

 
 甘さ増し増しのアニメ版に慣れていた身としては、特に「いまさら翼といわれても」の苦さは久々に「そういえばこういう作品だった」と思い返すきっかけとなりました。
 「ふたりの距離の概算」の時といい、2年生になってから千反田はあれこれと悩まされることが多くなっている気がしますが、この容易には踏み込めない問題に古典部はどう携わっていくのか、気になるところです。
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