ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「ウィスパーズ」 ディーン・R・クーンツ

2007-02-08 15:03:47 | 
安心して読めるホラー小説、それがディーン・R・クーンツだ。

よくよく考えると妙な気もする。ハラハラ、ドキドキして、ページをめくる手が思わず止まるが、先を読みたくて、ついつい読み続ける。それがホラー小説だと思う。

暗闇からヌッと突き出された濡れた冷たい手に、首筋をつかまれるような驚きこそ、ホラー小説の醍醐味だと思う。狂った愛犬に殺される絶望であったり、誠実な人生を狂気に壊される苦悩であったりする。時には目を背けたくなる結末が、恐怖を脳裏に刻み込む。それがホラー小説だと思う。

ところが、クーンツ先生は必ずハッピーエンドを用意する。愛読者は皆、それを知っている。これはクーンツの信念であるようで、どんな恐怖にも、いかなる悲劇にも最後は必ずハッピーエンドが待ち受けている。

読んだことのない方なら、「なんだ、結論が分かっているなら、ツマラナイじゃないの」と思うだろう。私もそう思わないではない。それでも読んでしまうのが、クーンツのホラー小説の不思議な魅力。

表題の作品も、たしかにハッピーエンドを迎えているのだが、唯一不快感を伴うのが印象的。ウィスパーズ(囁き)、ネタばれになるので書かないが、確かに囁きだと思う。思うけれど、思い出すだけで気持ち悪い。まあ、あれが好きな人は、極めて稀だと思うが、それだけに不快感がいや増す。あの場面だけは、未だに私の脳裏に焼き付いている。

きわめて多作なクーンツだが、ハッピーエンドの安堵感よりも、あの場面の不快感が記憶に残る唯一の作品です。失敗作ではないと思いますが、それでも代表作の一つに必ず挙げられる怪作ではないかと考えています。
コメント (6)
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