ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「シビル・アクション」 ジョナサン・ハー

2007-02-26 09:25:11 | 
これはアメリカで実際にあった水道汚染訴訟を報じたドキュメンタリーです。

私はグリシャムやバリー・リード(作中登場します)、マーゴリンらの法廷を舞台としたリーガル・サスペンスが好きで、良く読みます。しかし、今回の迫真のノン・フィクションを読んで、小説と現実との違いがよく分かりました。

上下巻で700ページに及ぶ長編であり、饒舌で回りくどく、詳細ゆえに退屈な場面が少なくないのですが、これこそが実際の訴訟なのでしょう。小説では、その多くの場面が切り捨てられ、読みやすいものとなっていることが良く分りました。

正義感に燃えた弁護士が、多大な労力と膨大な資金を投入して証拠を探し、我が身を燃え尽くすほどの献身的な努力をしてもなお、理想を実現できぬ苦しみ。世間から非難の対象となることの多い弁護士の高収入の裏側を赤裸々に明かし、そのギャップに唖然とさせられました。

ネタばれになるので詳しくは書きませんが、小説のような華麗な結末は期待しないでください。小説のように分かり易くもなく、エンディングを迎える爽快感もありません。だからこそ、リアリティがあるのでしょう。ハッピーエンドとは程遠い結末に失望すら感じるかもしれません。

読んでみて、現実の厳しさを感じる一方、仕事に一身を捧げるその姿に憧れを覚えざる得ませんでした。膨大な資料に埋もれ、敵側の弁護士の姑息な妨害に振り回され、自己破産の危機を招くほどの資金を投下しての活動。そんな努力をしてもなお、十分報われるとは限らぬ理不尽さ。精神的に異常をきたすほどの苦悩。そんな姿を見せられても、それでもやはり憧れを感じてしまいます。

私はこれほどまでに、仕事に没頭したことはない。自分を破滅に導くほどの献身をもって、仕事をしたことはない。そのことに、少々羞恥心を感じてしまい、そのような仕事を持てることに、憧れすら感じてしまった。

いろいろと非難されることの多い、アメリカの訴訟社会ですが、日本のようにお役所任せではなく、自らが社会正義の実現に動く在り様には、好悪の情を越えて考えさせられます。
コメント (6)
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