ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「合衆国崩壊」 トム・クランシー

2007-09-11 12:19:49 | 
丁度シカゴ在住の知人とチャットをしていた時だった。

知人が「飛行機がビルに追突した」と騒ぐので、慌ててCNNを観て見た。なにやら人々が逃げ惑う映像が流され、興奮した口調のアナウンスにつられて、同時通訳も声が動揺していた。

次の瞬間、目を疑った。大型のジェット旅客機が高層ビルにぶつかった。なにがなんだか、分らない。

その後のニュースで、アルカイーダというイスラム原理主義のテロ組織による事件だと判明した。驚いた、神風特攻そのものだ。

いささか不謹慎ながら、その時脳裏に浮かんだのが表題の本だった。ただし、神風パイロットは日本人(苦笑)。まあ、この本はアメリカとの貿易摩擦、真っ盛りの時代に書かれた本だけに致し方ない。

アメリカという国は、いつだって敵を必要としている感が否めない。敵がいないと、自らの正義正当性に自信がもてないのではないかと、私は勘ぐっている。

人類の歴史上、アメリカほどユニークな国は珍しい。侵略して、植民地とされ、その植民地が独立して建国されたこともさることながら、宗教的自由を求めて作られた国でもある。

ただし、正確にはプロタスタントというキリスト教の新派が、自らの信教の自由を求めたが本音で、後年カトリックやユダヤ教の移民を受け入れるようになり、様々な軋轢が生まれた。その後、アメリカ独自の新派である聖書丸呑み派というか、聖書絶対視派とも言うべきファンダメンタリストなる変り種が大きく勢力を拡げる。私はこれをヨーロッパからの宗教的自立と考えている。

その一方で、有色人種とりわけ黒人とメキシカンを中心としたラテン系移民の増加により、次第に変質を余儀なくされることが、殊更民主主義にこだわりを必要とするようになった。国家としてまとまるためには、民主主義の国だというシンボルが必要不可欠となったわけだ。

率直に言って、民主主義は特定の国にしか当てはまらぬ特異な政治形態ではないかと思う。有史以来、民主主義なる政治形態を採用した国はきわめて少なかった。おそらくは、あまり汎用性のあるものではないのだろう。それを世界に広めようとすること自体、世界に喧嘩を売っているようなものだ。

かつては時代の最先端を走っていたイスラム文明の国々が、遅れていた途上国で生まれた民主主義とやらに反感を持つのは必然といっていい。しかも、民主主義は自由市場経済と密接なつながりを持つが故に、市場経済の荒波に揉まれて、経済的従属下におかれたイスラム諸国家が反発するのは当然すぎる結果だと思う。

現在、世界最高の高度軍事力を持つアメリカが、そうそう負けるとは思わないが、勝ち抜けるとの予想はしずらい。冷戦に勝利した瞬間こそ、アメリカの最盛期の頂点であり、後は緩やかに衰退していくのだろう。おそらく未来の歴史家は、21世紀をアメリカの衰退期だと記すだろう。日本がそれに巻き込まれることは、必然といっていい。他人事ではないのだ。

されどアメリカ人は、衰退を認めはしまい。表題の作中でもライアン臨時大統領は、アメリカの復興に向けて奮闘する。それがアメリカ人のハートをくすぐるのだろう。アメリカは決して戦わずして敗退することを認めはしまい。この好戦的な大国を隣国に持ち、事実上軍事的支配下にある日本の選択肢は限られている。

私はアメリカが正しいとは思わないが、安易に反米姿勢をとる危うさを危惧する。敵の攻撃による痛みより、味方の裏切りによる痛みのほうが遥かに勝ることを銘記すべきだ。アメリカは裏切った日本を決して許さないと思う。2度も原爆を落としておいて、3度目がないなんて思わないほうがいいと思う。
コメント (6)
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