ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ばんば憑き 宮部みゆき

2013-02-21 12:44:00 | 

この年になって、ようやく確信できるようになった。やっぱり科学は万能ではない。

科学的思考に基づき、この世の全ての理は論理的に解明できるとデカルトが宣して以降、人類の英知は確かに深く広く深まった。

だが科学の最先端を行く学者ほど、内心不安に思わざるを得なかった。せっかく頂点を極めたと思いきや、その頂点から更に遠方にそびえ立つ新たな頂点があることを知る。

いったい、何時になったら科学の頂上にたどり着けるのか?

たしかに科学は進歩した。しかし、未だに解明できていないのが、人の心の理りだ。脳内の神経系を行き交う微かな情報のやり取りが、人間の思考であることは分かっている。

しかし、その内容が分からない。必然、人間の心の病を癒す方法さえ模索中だ。そりゃ、たしかに進んだ抗うつ剤は出来た。これにより救われた人は少なくない。

しかし、その一方で精神病院から抜け出せない精神疾患の患者は増えるばかり。果たして人類は心の動きを解明し、心の病を完治させることができるのだろうか。

若干敗北めいた考えではあるが、私は現生人類の知能では無理ではないかと思っている。

人類がその知能を急速に発達させたのは、だいたい3万年ぐらい前だとされている。火を使い、肉や豆など生では消化しずらい食料を、焼いたり煮たりすることで、簡単に食べることが出来るようになった。

このことにより、良質な蛋白質を多量に摂ることが出来、それが脳の急速な発達を促したとされている。未だ完全に学会で認証されている訳ではないが、私はこの説を強く支持している。

急激なる変化は、必ずと言っていいほど、どこかに無理を生じさせる。心の病、すなわち精神疾患は、急激に進化した代償なのかもしれない。おそらくは、未だ人類の脳は発展途上なのだとさえ考えている。

論理は全ての理を解明できるかもしれない。しかし、人類の脳は、未だそのレベルには達していない気がしてならない。

近代的な科学に基づく医療が普及する以前は、この心の病を物の怪や魔物のせいにすることが多かった。人の知恵では及ばぬ病害や疾患を、妖怪のせいだとしたのは、人が編み出した必死な叡智なのだと思う。

そんな科学的医療知識の普及以前の世界、すなわち江戸時代を舞台に幾つもの短編を数多く発表しているのが、最近の宮部みゆきだ。

表題の作品もそんな短編集の一つ。なかでも「博打眼」と「討債鬼」が秀逸。入院中でしたが、私は三回も読み直してしまいました。まだ病室から出れない時だったので、繰り返し読める良作に出会えたのは幸いだったと思います。

コメント (2)
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