ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

毎日かあさん 育っちまった編 西原理恵子

2013-02-20 12:13:00 | 

思い込みは、時として人を不幸にする。

沢山勉強して、いい成績をとって、いい学校へ進む。そして一流の大企業に卒業して必死に働き、結婚して家族を得て、家を建て、ローンを支払い、定年を迎えてのんびりと老後を過ごす。

それが当たり前だと思い込んでいた。

だから、難病によりそれが出来ないと知った時、どうしたらいいか分からず苦しんだ。

この思い込みから自由にしてくれた一助になったのが、私にとっての西原理恵子の漫画であった。西原が描く漫画には、社会の底辺のそのまたどん底で喘ぐ人々が数多く出てくる。

地方の小さな漁港の片隅のドブ泥のような腐臭の漂う街で生まれ育った西原だからこそ描ける世界。馬鹿だから貧乏で、アホだから騙されて、弱いものがより弱いものを搾取する社会。

その悲惨さは、笑い飛ばすしかない悲痛な現実である。でも、そんな救いようがない世界にも、暖かい心遣いとか細くも心強い絆があることも描かれている。

どんな生き方をしてもいい、そんな無言の励ましを与えてくれるのが西原の漫画の魅力だろう。

次第に成長していく二人の子供の母として、この漫画を描き続けている西原は、時々恐ろしいほどに抒情的な短編漫画を描くことがある。この巻の最期にも、そんな話が織り込まれている。

校内暴力が吹き荒れる中学から登校拒否となり、自宅に引きこもった弟君に「こんな学校、辛い思いまでして来ることない」と諭す先生。

高三で妊娠してしまい進学を諦めたと姉が担任の教師に告白した。すると学校に内緒で登校して日数を稼げば必ず卒業させてあげると、パニックになりながらも必死で助けようとする先生。

こんな先生がほんとうにいるかどうかは分からない。でも、居て欲しいとの切なる想いが西原にあろうことは分かる。漫画界きっての無頼派だと言われる西原だからこそ描けた抒情漫画だと思う。

コメント (2)
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