最近、気になることの一つに漫画家の病気休養がある。
長年漫画を読んできたが、昔は病気による連載休止は珍しかったように思う。どちらかといえば才能の枯渇からの逃避などを病気療養として連載休止として処理していた印象さえある。
ところが最近は病気による連載休止どころか、作者本人が亡くなってしまうケースを散見するようになった。単なる休載だと数えるのが空しいほどに、数多くみられるのが実情だ。
漫画を描くという作業は、個人による手作業が多くかなり過酷なものだ。それは昔から変わらない。アシスタントによる分業制をとることで、多量の作品を生み出す作家もいるが、これにはマネイジメント能力が求められ、誰にでも出来るものではない。
なかにはアシスタントの絵柄の影響を厭うて、一人で週刊誌に毎週連載を挑んだ人気作家もいるが、長続きせずに遂には一年に数週間だけ連載するようになった困った作家もいる始末だ。たしか、この人も先だって腰痛で突如休載している。
私が残念に思うのは、力量のある作家ほど無理をするのか病気休載が目立つことだ。私が3年くらい前から注目していた漫画家の梟氏もその一人だ。
まだあまり世間に名を知られていない漫画家だと思うが、作画の力量は確かで、七月鏡一という才能ある原作者を得て発表された表題の漫画は、私を十二分に楽しませてくれた。
目の前で両親を虐殺され、荒野に放り出された主人公は、そこで自らの命を対価に旅商人に救ってもらう。両親を惨殺した盗賊への復讐心を胸に秘めつつ、自分を助けた謎の女商人と共に行商の旅を続ける。その過程で、女商人が秘めたる目的をもって戦っていることや、それが怪異としか言いようがない魔物たちとの戦いであることを知る。主人公はその戦いのなかで傷つきつつも成長し、己の戦いを見出していく。
そんなストーリーであった。昨今流行のダークファンタジーものであり、かなり残虐な場面描写もあるが、主人公の健やかな成長に読者としては期待を抱きながら、連載を楽しみにしていた。それが漫画家の梟氏の病気休載という形で中断されてしまった。
既に単行本も6冊出ているが、連載が休止されて一年近くになる。ちなみに掲載誌はヤング・ガンガンというマイナーな漫画雑誌なので、知名度が低いのも無理ないと思う。ようやく人気が出てきて、知名度も上がってくるかなと考えていた矢先なので、いささか残念だ。
ただ、この雑誌、有望な新人漫画家や埋もれていた実力ある漫画家を多く取り上げる一方で、消えていく漫画家も少なくない妙な傾向がみられる。どうも、チャンスは与えるが、継続して育てる気持ちは少ない印象が強い。
特に根拠とか証拠があるわけではないが、どうも漫画家を強く追いつめるような編集方針なのではないかと私は疑っている。この作家だけではないからだ。出版不況が当たり前になってしまった今日の日本で、漫画は数少ない売れ筋である。
だが、本当のところ出版業界に利益をもたらすような人気漫画は、それほど多くないのが実情だろう。「ワンピース」や「ナルト」のように単行本一冊が数百万部も売れる漫画がたたき出す利益で、他の売れない漫画を担っている。
私からすると、マイナーながら面白い漫画は少なくないが、それらを積極的に売り込む努力を出版業界は怠っている気がしてならない。やもすれば、TVアニメ化やドラマ化されるような作品ばかり売り込み、そうでない作品は放置しているように思えて仕方ない。
だから漫画家の登竜門である漫画雑誌に、数多くの作品を放り込み、そのなかから売れてきた作品がアニメ化や映画化、ドラマ化されるのを待っている。その路線に乗らないような漫画は切り捨てる。
漫画を生涯の仕事と定めて頑張る漫画家たちは、切り捨てられないために必死で漫画を描くしかない。そんな過酷な状況が、漫画家を病に追い込み、遂には休載に至る。なかには過酷さに耐え切れず、心を壊したりするものもいると聞く。
かつての出版社には漫画家を育てる気概があったように思うが、今は簡単にデビューさせ、簡単に切り捨てる安直さが目立って仕方ない。さらに付け加えるなら、伝統あるメジャーな雑誌に載る有名作ばかり読み、マイナーな作品に目を向けない読者にも問題はある。
その傾向は私にすらあると自覚している。だから暇な時は、漫喫などで見かけぬ作品を手に取るように心がけている。この作品も、このまま忘れ去られるのはあまりに惜しい。機会があったら是非読んでみて欲しいと思います。