スーパーマンの死後、アメコミ界の悪役ばかりを集めて作られた政府ご用達の特殊部隊、それがスーサイド・スクワッド(決死部隊)である。
要するに、悪を唐キのに、悪を利用しようとする作戦である。昔から囚人などを臨時で軍に採用して、思う存分暴れさすことは、よく行われていた。第二次対戦末期の、ソ連軍の囚人部隊が満州や北方四島に現われて、日本人相手に残虐な殺戮をしたことは有名だ。
それはともかくも、この映画そのものには文句はない。悪役だけに、その暴れっぷりは爽快だし、悪人らしい汚い戦いっぷりも良かった。けっこう、満足して映画館を後にしたのだが、いささか気になることもあった。
この映画は娯楽作品であり、アメコミの悪役を主役にもってきたことに不満はない。しかし、現代のアメリカを考えた時、本当の悪役は誰なのかと考えると、いささか複雑な気分に陥る。
私の偏見であろうが、かつての黄金時代の輝きを失った今のアメリカの惨状を招いた、いや、画策した連中こそ本当の悪役ではないかと思う。他国に比して豊かな生活を享受してきた健全な中産階級こそ、アメリカの中核であり、良心であった。宗教的に敬虔であり、勤労を尊び、家族を大切に思うこの中産階級こそが、アメリカの理想の姿であった。
しかし、この中産階級を没落させ、都市にスラム街を作り、大量の貧困者とごく少数のスーパーリッチを生み出した連中こそ、アメリカにおける真の悪役ではないだろうか。
かつてスピルバーグは映画「ジェラシック・パーク」においてTレックスに襲われてトイレに逃げ込むも、結局見つかってしまい、その巨大な口に飲み込まれた弁護士の姿を描いてみせた。アメリカの映画館では、この場面で拍手喝采が起きたという。それがアメリカの大衆の本音であろう。
率直に言って、アメリカを荒廃させて尖兵が弁護士であって、その背後にいる投資家など、汗を流さず、他人の涙を食い物にしてきたスーパーリッチこそがアメリカにおける真の悪役だと私は考えている。
しかし、近年ハリウッドが製作する映画で、この真の悪役が娯楽映画で描かれることは少なくなったように思えてならない。その代りに、この映画の主役たちのように、見た目悪役そのもののキャラクターがその座を務めている。
もっとも、監督の意地なのかもしれないが、この映画で一番悪役らしい振る舞いを密かに見せるのは、ジョーカーでもなく、ワニ男でもなく、魔女でもない。彼らを利用しようとする女性政治家こそが、一番悪役っぽい。
特殊撮影技術は金食い虫であり、それゆえにハリウッドでの映画製作には投資家からの支援が必要不可欠となっている。だから彼らを悪役にするかのような娯楽映画は作りにくいのかもしれない。
でも、そこに踏み込めたら、この映画、もっと面白くなったように思いましたよ。