ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

クレオパトラDC 新谷かおる

2016-10-25 12:21:00 | 

もはや、かつてのアメリカン・ドリームは文字通り夢の彼方なのかもしれない。

表題の作品の主人公であるクレオは、黒人でありながら金髪碧眼の美少女。混血が何代も進んだ場合、稀にそのような外見的特徴が出ることがあるらしい。だが、最大の魅力は、その尽きることのないヴァイタリティだ。

どんな状況下でも希望を失わず、明るく前向きに生きる。黒人貧民層の出身でありながら、人種的憎悪とは無縁で、高層ビルの豪華なペントハウスで暮らそうと、ボロボロのバラック小屋で暮らそうと、変ることのない笑みと暖かみを周囲に振りまける。

・・・今のアメリカに、こんな奇特人、いるのかなァ?いや、居そうで居ないタイプだぞ。

この作品の作者は、「エリア88」「ファントム無頼」「ふたり鷹」「砂の薔薇」などのヒット作があるが、最近はとんとご無沙汰だ。

最近はあまり作品を描いていないようだが、松本零士のアシスタントをやっていたくらいだから、かなりの古株であり、おそらくはもう老齢なのだろう。年齢的にも、敗戦後の廃墟の日本が立ち上がり、アメリカの豊かな文明社会を仰ぎ見ていた世代だけに、アメリカに対する複雑な憧れをもっていたのだろう。

私とて、真っ赤なキャデラックに憧れた幼年期を過ごしている。性悪な白人の子供たちとは不仲であったが、アメリカの文明機器(TV、洗濯機、クーラー、電子レンジ)に対する憧れは、たしかに持っていた。

どんなに貧しくとも、頑張って勝機を掴めば金持ちになれる国。そんなアメリカン・ドリームがあるのだと無邪気に信じていた。だが、それも今は昔話であり、今のアメリカにあるのは、沢山の貧乏人と、ごく僅かなスーパー金持ちだけだ。

その経済的格差の絶望的な広がりが、今の大統領選挙に如実に表れている。少なくてもヴェトナム戦争以前ならば、トランプのような人物が大統領選挙の有力馬になるなんんてあり得なかった。

休日に、押し入れの奥の段ボールを整理していたら出てきたのが表題の作品。ついつい読んでしまったが、いくら漫画とはいえ、もはやアメリカン・ドリームは消えうせたと思わざるを得なかった。そして、クレオのような混血社会の理想的な申し子は、もはや夢物語だとも。

かつて、嫌いつつも憧れを否定できなかったアメリカ。どうにも寂しい気持ちにならざる得ませんね。

コメント (2)
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