ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

スパイク A・ボルシュグラーヴ&R・モス

2016-10-28 12:47:00 | 

訳ありの名作。

私がこの作品を読んだのは、今から30数年前の大学生の時であった。当時は大々的に取り上げられていて、欧米で評判のスパイ小説の白眉などと囃されていたと記憶している。

しかしながら、現在は絶版状態であり、古本屋でも探すのは難しい。

おそらくだが、作者の一人、アーノルド・ボルシュグラーヴ氏の経歴が怪しすぎることが原因ではないかと思われる。

父はベルギー亡命政府の貴族であり、母は英国貴族で陸軍将校の娘という折り紙つきの血統であり、英国海軍で従軍した後、ニューズウィーク誌の特派員として世界を巡る。この時期に多くのスクープ的記事を輩出し、世界的にも高い評価を受けたジャーナリストであったことは確かだ。

西側のみならず、東側の政治家とも太いパイプを持ち、多くのインタビュー記事をものにしている。その後にUP通信社の経営にもタッチするが、問題はワシントン・タイムスに関わっていたことだろう。

有名なワシントン・ポストとは異なり、これはタブロイド紙であるばかりでなく、スポンサーはあの世界統一教会である。もっとも信者ではなかったようだが、その紙面はいささか温和とは言いかねるカルト的タブロイドであった。

どうも経営危機に陥ったUP社の資金問題が絡んでいるようであるが、その後のコラムの盗作疑惑などもあり、晩年は表舞台から姿を消したジャーナリストでもあった。

だが、これだけなら、日本で絶版されても、その名は残っていてもおかしくない。事実、イギリスのガーディアン紙は、後世に残すべきスパイ小説の一つに「スパイク」を取り上げている。しかし、今の日本でこのタイトルが大きく取り上げられることはないようだ。

実は、そこにこそ、この作品の真価があるように思う。この作品で取り上げられているのは、冷戦中にソ連の情報部が、如何に西側のジャーナリストを籠絡し、西側の防衛体制を損なうような記事を書かせていたことが、その手法も生々しく語られている。

日本のことは、まったく取り上げられていないが、読んでいるうちに、これと同じことが日本でもあったに違いないと確信できるほど迫真性の高いスパイ小説なのだ。

正義感溢れる日本の記者様には到底容認出来ない内容であろうかと、私は邪推している。だからこそ、絶版にされ、再評価されることもなく埋められたに違いないと、私は勘繰ってしまう。

何度も書いているが、私は日本のマスコミについて、かなり偏った評価をしている。だからこそ、この作品で書かれたことが、実際に日本でもあったのではないかとの疑いを拭いきれない。

探すのは容易ではないと思いますが、もし入手できたら是非とも読んで頂きたい一冊です。

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