ヌマンタの書斎

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なぜ、社長のベンツは4ドアなのか? 小堺桂悦郎

2013-08-12 12:05:00 | 

研修会の最中に、携帯電話に着信があった。

あまり連絡してこない社長さんからだったので、訝しく思い途中退席して廊下に出て連絡を取る。

すると「先生、車を買い換えようと思うのだけど、4ドアでなければダメかね。フェラーリの新車なんだけど、駄目かなァ?」

また妙な質問をしてきたな。まったく駄目じゃないけど、なんだってまた急にそんな質問してきたんだ。詳しく訊いてみると、欲しい車だが、銀行でローンを組もうと思ったら、銀行員が2ドアは税法上ダメではないかと言ってきたらしい。それで気になって私に電話したそうだ。

また一言で答えにくい質問だなァと思いつつ、車の明細をFAXしておいて欲しいと伝え、後で詳しく話しますと回答しておく。

わりと勘違いしている人が多いので、一応言っておくと税法には会社名義の車が4ドアでなければイケないといった規定は存在しません。

ところが実務上、会社名義の車は圧涛Iに4ドアの車であることが多い。いわゆるセダンである。これは仕事で使うことを考えれば、セダンが一番使いやすいからで、自然な判断の結果である。

では2ドアの車ではいけないのか。少なくても税法に明確な取り扱いに関する指針はない。だが、微妙なところではある。

なぜなら2ドアの車は趣味性の高いものが多く、大半がスポーツカーもしくはラグジュアリーカーだ。そうなると法人税法では、社長の趣味に会社のお金を使ったと考えて役員賞与と見做す場合がある。つまり課税対象となる。

この可能性があるがゆえに、安全(余計に税金を払わない)を考えて会社名義の車は4ドアのセダンタイプとする常識が生まれてしまっている。大体、税務は保守的にやるものだし、銀行員は保守的なものだ。だから、そのようなアドバイスをしたのだろう。

ところで冒頭の件だが、この件に関しては私はOKを出した。

これが通常のスポーツカーだったら、課税の危険性を説明したうえでダメだと助言する。普通ならそうだ。ただ、その会社というか社長さんの性向を鑑みて私は了承した。なぜなら、おそらくこの社長がフェラーリに目を付けたのは値上がり目的だからだ。

まだバブルの残り香が色濃く漂う時代だっただけに、当時は土地、上場株、ゴルフ会員権、美術品と将来の値上がり目的での投資が盛んであった。この社長さんもその手の投資でけっこう稼ぐ人だった。既に土地の暴落は始まっていて、株もゴルフ会員権も値下がり傾向にあった。

だが、高級外車ならば他の資産と異なり減価償却による節税効果が見込まれる。私が見積もりを欲したのは、その車がどのフェラーリなのかを知りたかったからだ。限定生産されたようなフェラーリならば、投資物件としての価値もないわけではない。

おまけに、この社長さん自分でハンドル握るより、後ろの席に座って移動中も仕事をしたがるタイプなので、趣味でスポーツカーなんか買うはずがない。実際、このフェラーリを買っても倉庫の奥に仕舞い込んで、ほとんど走らせずに数年後に転売している。値上がりはほとんどなかったが、既に半分以上償却済みであったので、転売益は十分出た。

本業が赤字だったので、この売却益はありがたかった。おかげで後の税務調査で問題になった際も、投資目的で説明して課税されることなく逃げ切った。

一応言っておくと、守秘義務があるので上記の話も大いに脚色しているが、概ね事実に基づく。そのほか、某芸能法人で購入した2ドアタイプの高級外車も会社の資産として堂々計上している。2ドアだからまったく駄目なわけではない。

だから、表題の本のような素人にも分かり易いタイトルの本は怖い。これじゃ、誤解する人多いのも当然だ。

けっこう売れた本なので、目にした方もいるかもしれない。著者は銀行で融資担当の経験を積み、その後税理士事務所に転職し、その後資金繰りのアドバイザーとして独立された経歴の方だ。

その経験を元に初心者にも分かり易く会計的な見地から、この本を書いている。嘘を書いている訳ではないが、多分決算書や申告書は書けても、税法は直接読まないだろうし、税務調査など現場経験もないのだと思う。

税務の現場はそれほど画一的ではない。また税法に書かれていないことも多く、質疑応答集や通達を素直に読むだけでは分からないことも多いので誤解しているのも無理はない。

ただし、表題の本にあからさまな嘘は書いていない。むしろ税法や会計の初心者に分かり易い内容だと云ってイイ。ただ、本人が思うほどには専門知識はないように思う。資金繰り、とりわけ銀行融資に関するノウハウは貴重だが、いささか偏りも見受けられるのが難点。

私のような専門家には、いささか気に障るが、難しいことを優しく説明するのは難しいと知っているので、その意味では参考になる本でしたよ。


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